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「では首飾りは樹骨のカメオにいたしますね」


「あ、ああ…」


 使用人が手にしたアクセサリーを見せてくるが、リコはどこか心あらずで適当に返事をした。


 樹骨とは木の皮が傷ついた時に出た白い樹液が長い年月の間に骨のようになって固まった物。人間界の琥珀の生成の仕方に似ているかもしれない。

 なめらかな乳白色の樹骨を薔薇の形にカービングしたカメオが青いリボンに通され首に飾られた。


 鏡に映る乙女の姿が少し気恥ずかしいのはなぜだろうか。

 真層界にいた頃と同じ姿だと言うのに。


「少し華美ではないか?」


「地味なくらいでございます」


「そうなのか……」


 久々の主の着つけに満足した使用人は、最後に大判のショールを羽織らせ着替えは終了した。


 門前の広場まで行くと、そこにはもう旅装を解いて少し身軽になったカイルがエルヴィンと共に待っていた。


 リコの姿を見てカイルも驚く。


「リコお前もしかしてお姫様だったのか」


 いつもの調子で冗談を言うと、忠臣エルヴィンに咎められた。


「カイル殿、城内では口の利き方に気を付けていただきたい」


「失敬。陛下、ご機嫌麗しゅう」


 今度は貴族の紳士がするような一礼をすると、「やり過ぎだ」とまた咎められた。


「なんだドレスか。馬を借りようと思っていたんだが」


「私もそのつもりだったのだが。視察ではないのだ。馬車で行くのは仰々しくて嫌だ」


「俺が乗せて行くのはアリか?」


 リコではなくエルヴィンに聞く。

 彼は眉をしかめたが、主が馬車で行くつもりがなさそうなので渋々了承した。


「我々上層部以外にリコ様とカイル殿の事情を知る者はいない。だが城下の者は主君が誰であるか理解している。くれぐれもリコ様に無礼、粗相、そして愚行のないよう頼む」


「なんだ愚行って…そんなに非常識か俺は」


「こちらでの社会性において信用がないだけだ」


「分かった、こっちでは騎士を気取ってればいいんだな」


 馬丁が馬を用意し、エルヴィンは近くの兵から剣を受け取った。

 それをカイルに差し出す。


「戦闘技術は信用している」


「そりゃどうも」


 カイルは帯剣すると馬に乗り、自分の前にリコを引き上げた。

 リコは自分でも乗馬できるのに横向きのまま前に乗せられ、それが妙に落ち着かなかった。


「昼過ぎには戻るつもりだ。戻って早々すまないが行ってくる」


「リコ様がお元気でしたらそれで我々は構いません。お気をつけて」


 城門をくぐり、リコの案内で森の中を軽く駆ける。

 こちらの馬は人間界の馬と少し違い、角が生えていた。と言ってもユニコーンではなく、山羊のような立派な角が二本生えている。体はどの馬も黒らしく、目は赤かった。

 見た目は禍々しいが、人間のカイルを大人しく乗せてくれている。


「ドレスもなかなかいいな」


「うるさい……」


 カイルがからかうように言うと、リコは俯いてしまった。

 意地を張った返事は照れ隠しのようだった。


「俺の魔王サマは照れ屋のようだな」


「黙れ。なんでお前のものなんだ」


「間違ってないだろ」


「合ってもいない!」


 頭上でククク、と笑う声に腹が立つ。

 立つのに、自分を支える逞しい両手に収まるのも「悪い気はしない」と思える自分がいた。

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