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エルヴィン:ライオンの獣人。二刀流の剣士。リコの忠臣でありその忠誠心は厚い。よく見るとカフスは毎日のように変わっている。

イェディル:北の地イシャスの住人で彼の地の魔王代理。かなりご高齢な狼の獣人。前の魔王も狼の獣人であったが、彼はまだ生まれていなかったので話にしか知らない。


獣人:長命種だがエルフほどではない。

 空気を吸っても少ないような感じがするのは、エルフが人間界に来た時と同じ感覚。

 今はカイルとリコでは逆転現象が起きていた。

 肩のカラスは生き生きとしているようで、カイルが「好きにしていいぞ」と言えば嬉しそうに上空に飛びたった。


 リコはフードを取ると横にいるカイルを見上げた。景色を見たいと言った彼はこの光景を見て何か思うのだろうか。

 いつも腹立たしいほど余裕の横顔は、今は真層界の空気に少しだけ苦しそうに見えなくもなかった。


「大丈夫か?」


「まあこんなもんなら。変わらないな、ここは」


 やがて白亜の城の城門に辿り着くと、守衛が剣を掲げた。


「魔王リコ様ご帰還、開門!」


 石造りのアーチを塞いでいた格子の城門は、掛け声とともにゆっくりと上がった。

 それをくぐると、中にいた兵士が一斉に頭を垂れる。


 この辺の文化は人間の世界と変わらないようだった。

 カイルがここを訪れるのは十五年ぶりになる。

 何度かリコの魔力を回復させるために送り届けることはあったが、真層界の大地を踏みしめるのは十八歳の時初めてリコに会いに行って以来だ。


 雰囲気はその時となんら変わらない。

 違うのはあの時玉座にいたリコが目の前を歩いているということくらいか。


 広場の石畳を抜け、城内に入るとそこには留守を預かるライオンの獣人、エルヴィンが頭を垂れ待っていた。

 後ろには他に狼の獣人、エルフの男性が控えている。


「リコ様、お帰りなさいませ。お体はいかがでしょうか」


「情けないことに好調というわけではないな。留守の間変わりは?」


「特にございません。こちらは平穏そのものでございます。さあお疲れでございましょう。早速お召替え頂きお寛ぎ下さい」


「いつも任せてしまいすまない」


「何をおっしゃいます。リコ様は立派に役目を果たそうとなさっておいでではないですか。我々も与えられたお役目を果たすのみです」


 大きな見た目に似つかわしい、低く広がりのある声。

 ライオンのたてがみのような黄金の髪は後ろに流され、キャスと同じように獣の耳が髪の間から覗いていた。片耳にカフスがしてあり、腰には二本の剣が下がっていた。二刀流のようだ。

 一見するとその体の大きさから恐ろしそうにも見えるが、目元は柔らかい。

 

「カイルに少し案内したい場所がある。先にそちらの用事を済ませてしまいたい」


「かしこまりました。リコ様はこちらへ。カイル殿をお部屋にご案内しろ」


「世話になる」


 エルヴィンがその声に頷くと、使用人が現れカイルを客人用の部屋に案内した。

 広間を出る時にすれ違った狼の獣人に目をやると、彼もまたカイルを見返していた。


「どっかで会ったか?」


「人間の知り合いはいない」


「彼はイシャスの魔王代理、イェディルだ。イェディル、久しいな。来ていたのだな」


 部屋に戻る前にリコが紹介をしてくれた。

 イェディルもリコに紹介されれば少しだけ頭を下げた。


「エルフの集落に用がございまして。ついでに寄らせていただきました」


「そうだったのか。そうだ、彼がカイルだ。お前も名は知っているだろう。イェディルもゆっくりしていってくれ」


「ありがとうございます。そうでしたか、この男が」


「カイルだ。よろしく」


 カイルが差し出した右手はいつまでたってもそのままだった。


「なるほど、“誇り高い”ね」


 カイルは大して気にした風もなく手を引っ込めると、案内について行った。


 リコも使用人と共に自室に下がり、簡素なドレスに着替えた。

 これから町を案内するので華美ではないが、人間界にいる間には絶対に着ることはない美しい刺繍や花があしらわれた足首まであるドレス。

 簡素であっても民の上に立つ者の威厳を損なわない造りは、彼女を一塊の少女から一国の長へと変えた。


 髪を解かれ、綺麗に櫛を通される。カイルにもらってからは毎日つけていたアクアマリンのコームが外され、耳飾りも外されそうになった。

 リコは慌ててそれを止めた。


「待ってくれ。どちらも外さないで欲しい」


「では他の飾りと一緒に使わせて頂きますがよろしいですか?」


「それならいい」


「かしこまりました」


 うしろに髪の一部をまとめ上げ小さなシニヨンを作ると、用意していたピンではなくアクアマリンのコームで毛先を留めた。その周囲に花のピンを刺す。造花ではない本物の花を生きたままキープするのは、真層界の技術。


「白真珠とこれはなんの石でございますか?」


「サファイアだそうだ」


「まぁなんと珍しい青…ご自身でお選びになったのですか? リコ様にとてもお似合いです」


「うむ……」


 リコは平静を装ってはいたが、内心は浮足立っていた。

 自分で選んだわけではない。カイルはレア度を基準に選んだようだが、第三者が見てもリコには似合うらしい。

 レア度ではなく、リコの色を基準に選んだのだろうか。

 それも、大分前にリッチにあげてしまったのを気遣って。

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