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「カイル……ちゃんと休んだか?」
「大丈夫あのあとすぐ休んだ。それよりお前魔力全然足りてないな?」
「否定できない」
「リコも朝ごはん食べるにゃ? 昨日起きて来なかったからペコペコにゃ?」
「ああそうだな、ペコペコでもないがいただこう」
キャスが用意してくれたパンと目玉焼きを食べながら、リコは真層界に一度帰るようカイルに言われた。
「今回は俺もついて行く」
「無理するな。カイルもまだ全快ではないだろう? そんな体で真層界はキツいぞ」
「ちょっと久しぶりに見たいんだ。真層界の景色を」
「いつも似たようなのはダンジョンで見ているだろう」
「箱庭じゃなくて本物を見たいんだよ。行っても二、三日だ。リコの回復具合を確認したら帰る」
「……私が気を失っている間雪原で何かあったのか?」
リコが意味有り気に聞く。こういう時のリコは何かカイルに過去の記憶を求めている時だ。
「何かってほど何かじゃない。ただなんとなく久々に見たい、そう思った」
「カイルのなんとなくは必ず理由があるだろう」
「って言われても自分でもわかんねえんだ。強いて言えばあの狼たちを見ていてそう思った感じか? よし、食ったらハーキスとちょいと相談してくる」
そう言うとすぐ食べ終えキャスにご馳走様を告げると事務所へ行ってしまった。
そして翌日、カイルが大分回復したのに対し元気のないリコを連れ、早々に真層界に行くこととなった。
「じゃあハーキス、後頼んだぞ。キャスとニーナもよろしくな。ウォーレン、いきなりですまんがフィルを頼んだ。俺は三日以内に戻る」
「お土産よろしくにゃ~。真層界のマタタビの木で作った櫛でいいにゃよ」
「またピンポイントだな」
「隊長、この子を連れてって。連絡係よ」
ニーナが一羽のカラスを差し出した。
「おう、サンキュ」
「私は黒曜石の爪磨きがいいわ」
「お前もピンポイントだな。どこで入手すんだよ」
「大丈夫だ真層界にはありふれている」
「そうなのか? まあいいけどよ」
「えーじゃあ俺もお土産よろしく」
図々しいハーキスの後ろで無口なウォーレンがカイルの方を見ていた。何も言わないが微かな期待をしているのは分かっていた。
フィルまで「僕もいいの?」という顔だ。
「リコ……纏めて案内頼む」
「分かった」
カイルが皆に「じゃあ行ってくる」と言うと皆リコに元気になるよう声をかけ見送った。
リコは人間界に来た時に着ていた竜革のマントに、今日は成り損ないと出くわしてもいいように弓も装備していた。赤と金で装飾された、あのロビーにあった弓だ。
カイルも旅装に加え、今日はその背に大剣を背負っている。これも赤と金で飾られたロビーにあったもの。
二人はダンジョン前の広場まで来ると、カイルが「ちょっと寄り道」と言った。
黙ってついて行った先は魔法道具店。
「なんの用事だ?」
「いやちょっとな。大陸産の物でも少し持って行こうかと。多分換金しやすいだろ。その辺の素材屋とか宝飾店なんかダンジョン産ばかりだがここなら大陸のものがある」
扉を開けると薬草のにおいがツンと鼻を掠める。
棚に並んだ魔法職向けオーブや特殊な道具は無視して、奥にある調合用の薬棚に向かった。




