1
翌日自力で歩けるくらいにはなったリコを連れ雪原を出ると、森に置き去りにした馬と一緒にハーキスが迎えに来ていた。
ホワイト・エコーと共に現れたカイルとリコを見てハーキスが驚く。カイルは狼たちに礼を言うと彼らは自分たちの世界へと戻って行った。
「俺もリコちゃんあっためたかった~」と呑気なことを言うハーキスと共に本部に戻ると皆一安心したようだった。
カイルもウォーレンが無事なのを確認すると、ウォーレンもいつものように無言で頷いた。
「みんな無事でよかったにゃ。リコがちょっと無事じゃあないけど大丈夫にゃ?」
「ああ、心配かけた。キャスのコートを汚してしまった。すまない」
「そんなのいくらでも経費で落ちるから問題ないにゃ。リコほんとに帰って来てよかったにゃー」
キャスがむぎゅっとリコに抱き着く。リコも苦笑しつつそれに応えた。俺も~と寄って来たハーキスはキャスの尻尾ではたかれていた。
「依頼者の少年がお礼を言いたがっていたわ。それにリコのことすごく心配してた。リーアムは今もまだ魔法医の所に入院してるけど命に別状はないそうよ。ジェイソンも無事。ヒューの遺体に関しては後日ギルドが引き取りに行くわ。水晶の花、ちゃんと採取できてたのね」
「そりゃリコだ。リーアムを引き上げる直前に目の前にあったのを取ってやったらしい」
「命が一つ失われたのだ。目的くらい果たせなければ哀しいだろう」
「あれ物凄く高価なのよ。リーアムはまだ動けないからショーンが持って大陸に戻ったわ。リーアムの婚約者に使うそうよ。どちらも早く治って幸せになるといいわね」
「自分のために命をかけるいい男拾ったな。ちと無謀だけどな」
「それと依頼料なのだけど――」
カイルはそのままニーナと事務的な話を始めてしまった。
リコも流石に本調子ではないのでシェアハウスで休むことにした。
「リコ、怪我は大丈夫にゃ? ウォーレンに診てもらうにゃ?」
「いや、自分で治した。単純に疲れてしまった。カイルもずっと私を温めていてくれたのだから休めばよいものを」
その言葉にキャスがにまーっと笑う。
「リコのために命をかけるいい男にゃ?」
「それはっ……今回ばかりは何も反論できない」
「隊長はちょっとがさつなだけでいい男にゃよ。みんな分かってるにゃ。お風呂入るにゃ? お腹空いてないにゃ? 何か欲しいものあるかにゃ?」
「ありがとう、大丈夫だ。自分の世話くらい出来る」
「今日はゆっくり休むにゃ」
「カイルにもそれを言ってくれ」
「言っておくにゃ」
リコがシェアハウスに戻りゆっくり風呂に浸かった後ベッドに潜り込み死んだように寝てしまった。結局起きたのは一晩たってからだった。
翌朝起きるも体中が怠い。
一五〇年以上生きてきてそんなこと初めてだった。
見た目には変わらないが魔力が足りない気がする。
体を維持するのに思った以上の負荷がかかったようだった。
真層界ならそれでもすぐ回復するが、人間界では徐々に減っていく一方。
本来ならまだ戻らなくてもいい頃合いなのに、これは戻らないとだめかもしれない。
シェアハウスのダイニングテーブルにはカイルがいた。
彼も少し気だるげにコーヒーを飲んでいる。
キッチンではキャスが朝食を用意しているようだった。




