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「狼たち、この先にあと二人、もしかしたら動けない状態でいるかもしれない。分かるか?」
六頭からなる群れは雪のにおいをふんふんと嗅いでいるようだった。
死んだヒューの形跡があるのか、においを辿って動き始めた。
徐々にその足取りが早くなるのは、別のにおいを嗅ぎ取ったからかもしれない。
やがて群れはある一か所で止まると、その足元を見た。
真っ白い地面の間に黒い線が見える。その先は人ひとりがようやく入り込めるような隙間のクレバスがあった。
水晶の花が咲く条件には合っていた。
狼たちはさらにそこからクレバスを避け移動する。一分とたたない場所でまた止まると、リーダーが「わう」と一度吠えた。
「いたぞリコ。お前たちありがとうな」
カイルが自分の胸ほどの高さの狼の頭を撫でまわすと、ホワイト・エコーは目を閉じそれを受け入れていた。
リコはイシャスで自分を遠巻きに見る狼は見たが、撫でまわしたことはない。
自分の支配力もそれほど及ばないここで、カイルがテイムも無しにそんなことをしている様子が不思議だった。
要救助者の一人がクレバスに向かいロープを支えたまま倒れているのが見えた。
ロープの先はクレバスが脆く近づくと崩れそうで確認できない。
「大丈夫か! 救助要請を受けて来た救助隊のカイルとリコだ。ジェイソンだな? 今そちらへ行く!」
「来るな!」
ロープを支えている人物は生きているようだった。
その体制のまま来るな、だめだと繰り返している。
「ここは脆い。誰か来たら崩れそうだ!」
「状況は?」
「ロープの先にリーアムがいるはずだ。状態はわからない。連絡はヒューから?」
「そうだ。彼は救助隊で保護している」
カイルは嘘をついた。
助けた後に真実を話すつもりだった。
「ロープを支えなければ自力で脱することは出来るか?」
「俺一人ならできそうだ。だがロープはどうする? 返事がないから恐らくリーアムは気絶しているか……」
「反対側からアプローチしてみる。もう少し耐えてくれ」
「俺の体力はオーブの魔法でまだ維持できる。リーアムを頼む」
ホワイト・エコーのリーダーが先に反対側の地盤の良さそうな場所を探していた。
その頭を一度撫でるとカイルは状況を確認した。
「リーアム! 聞こえるか!? リコ、生体反応は?」
「あるな。まだ生きている」
「ジェイソン、リーアムは生きてるぞ。少し下に足場が見える。そこからリーアムを支えられないか試みる」
「頼んだ!」
クレバスは非常に狭く、カイルの体では入ることは出来なさそうだった。




