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マダム・スノーフレーク:若かりし頃は冒険者として希望を胸に抱いていたこともあった。設立したての救助隊のお客の一人。だがギルドで組んだパーティの男に騙され、この世界に放り込まれてしまい辛酸を舐めてきた。

「誰かいるか。定期便だぞ」


 裏口は普通のキッチンの勝手口とは違い、狭いが小綺麗な造りをしていた。ここにも客の出入りがあることを想像させるような造り。

 廊下の先はうす暗いが、やがて二階からバタバタと誰かが階段を下りてくる音が聞こえた。

 リコは反射的にカイルの後ろに隠れた。


「あ、タイチョーさん! 待ってね、今ママを呼んでくるわ。ママー! タイチョーさん来たわよー!」


 遠くの方で「もう少し静かにできないの?」と聞こえた。そして現れたのは中年の女性。想像していた雰囲気と違う。身なりはきちんとしている……というよりどこかの貴婦人のようにそれなりにいい物を身につけているのが分かる。


「いつもありがとうカイル。助かるわ。でも女の子をこんな所に連れてくるのはどうなのかしらね?」


「俺を監視したいんだと」


「そんなこと言っていない」


「あら、色男は大変ね。そうそうニーナちゃんとキャスちゃんにって取っておいたものがあるのよ。後ろのお嬢さんもいらっしゃい。私はこの館の主マダム・スノーフレーク。カイルの友人は皆私の友人よ。それともお嬢さんは友人ではなくもっと深い仲かしら?」


「深くないっ」


 マダム・スノーフレークは上品に笑うと、奥の部屋へと案内した。

 カイルは慣れているのか勧められるままに椅子に座り、リコは緊張した様子で隣に腰掛けた。


「ちょっと待っていてね。今持って来るわ」


 婦人が部屋を出ると入れ替わるように若い娘がお茶を持ってきた。

 こちらも小綺麗な恰好をしている。


「タイチョーさんお久振りです! わ、お姉さんすっごい綺麗! なになに、タイチョーさんのイイ(ひと)?」


「そんなんじゃないっ。リコだ」


「うふふっ。リコさん可愛いっ。初心っぽいところが益々可愛いっ」


「あんまりからかうな。怒るとおっかねぇから」


「やだ、可愛いっ。あ、そうだニーナ姉さんが前に言ってた口紅、もう販売してないんだって。ママが少しだけ在庫持ってるから、もし欲しかったら早めに言ってって伝えて」


「あいよ」


 扉の方にはいつも見ない客人が気になるのか他の女の子たちが覗いていた。

 誰かが押したのか、ギィっと開くとみんなどっと中に押し寄せてしまう。


「やだ、押さないでよ」


「騒いでるとママに怒られるわ」


「ねえタイチョーさん、恋人なんか連れて来ちゃったの?」


「えー、私たちとは遊んでくれないのはそういうことー?」


 見た目だけならリコとあまり変わり映えのしない年齢の女の子たちが、扉が開いてしまったのをいいことに次々カイルに話しかけた。

 そしてどういうわけかリコまで興味深々に見られている。

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