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気が付けば真っ暗な空間に一人立っていた。
自分はリコという名で、どこに行くべきか最初から分かっていた。
彼女は迷うことなくその暗い空間を抜けると、目の前に急に明るい空間が広がった。
眩しさにたじろいだのは一瞬で、強い光に目が慣れてくると、そこは緑に生い茂った森でその向こうに白亜の城が立っているのが見えた。
彼女は鳥がさえずり、小動物の気配のする森を抜けるとその白亜の城に辿り着く。
大きな城門を開けると中には様々な種族のヒトや獣、モンスターがいた。
彼らは皆リコを見つけると次々頭を垂れていく。
彼女はその間を歩き、やがて深紅の絨毯を通り一つの玉座に辿り着いた。
その玉座に当たり前のように腰を降ろすと、その城の重鎮と思われる武装した者たちが皆一斉に膝をついた。
「私はリコ。迷宮の守り人にしてこの地の統治者だ」
「魔王リコ様。玉座に魔王不在の十年、我々一同秩序を守りお待ち申しておりました」
リコははっとして目を開いた。
ここは救助隊本部の仮眠室。
時計を見ると既に十時近かった。
随分昔の夢を見ていたらしい。
彼女はベッドを抜け出すと服を着て綺麗な銀の髪を梳いた。
上に結い上げ、白い革ひもを手に取る。
なぜかそこで彼女は手を離してしまった。
何か思い直したのかもう一度櫛を入れ真っすぐに直すと、片方に寄せて編み込みをしていく。
最後に耳のすぐ上にコームを挿すと、鏡にはいつも見えないアクアマリンの飾りを付けた自分がいた。
それはバザーの日にいつの間にかカイルが彼女の髪に挿していたもの。あれからずっと外すことはない。
「何をしてるんだ私は……」
ほどいていつものポニーテールに戻そうとした時、ノックが鳴った。
「リコ~起きてるかにゃ~?」
「起きてる……どうした?」
扉を開けて顔を出したのはキャス。
キャスは要件を言う前にリコのいつもと違う髪形を見て「それいいにゃ!」と言った。
「どうしたじゃないにゃ。もう十時なるにゃよ。前に寝坊してたら十時前には起こしてって言ってたにゃ」
「そうだった……ありがとう。夜に起きたとは言え真層界ではこんな寝坊することなどなかったのにな……やはり人間界はどこか勝手が違うらしい」
「当たり前にゃよ。あんまり力のない私やニーナと違って魔力オバケのエルフは人間界に順応は難しいにゃ。眠くなって当たり前にゃ~。それと昨日の可愛い少年がなんだか隊長と揉めてるにゃ。それじゃあ起こしたにゃよ~」
言うだけ言うとキャスは手をひらひら振って戻ってしまった。
リコも支度を済ませると急いで本部へ向かった。何を揉めているのかが気になり、髪形を戻すのは忘れてしまった。
事務所の方に行くと既に隊員は皆揃っており、隅にある応接セットから昨夜の少年の声が聞こえた。なるほど、キャスの言う通り何か揉めているらしい。




