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「あれはもっと深い所に出るのが普通だと思っていた。それに近頃数も多い。なんで成り損ないばかり出て来てくるんだ」


「さあな。あるとすればコアが弱っているとかか?」


「弱く……新たな魔王が生まれないのはそういうことなんだろうか。……なあ」


「なんだ?」


「時々、何か思い出せそうで思い出せない、そんな感覚になることはないか?」


「知らないはずのことを急に思い出したりか?」


「そう、そういう感覚だ」


 リコが珍しく食い気味に言う。

 カイルは何か考えるようにしながらオーブを戻し終わると、ベルトからポーチを外して棚に戻した。

 最後にナイフをベルトごと外してから、やっと答えた。


「なくはない」


「最近そういうことはあったか?」


 そう聞かれたカイルが動きを止めた。リコの方をじっと見ている。

 リコはその目を何かの期待を込めるように見返しながら返事を待った。


「お前に初めて会いに行った時、俺は何故かその景色を懐かしいと思った。未だに理由はわからないが、意味のないことには思えない」


「なんでだ?」


「……はっきりは分からない」


 カイルはそれ以上は何も言わなかった。その代わり「お前は?」と返す。


「分からない。分からないからこそ焦りを感じる」


「分からないなら考えるな。もう寝ろ」


「……ああ」


 カイルはそう言うと奥へ引っ込んだ。

 暗い事務所にぽつんと一人リコが残った。

 静かになったその場所で、急に世界にただ一人しかいなくなってしまったような気分になる。

 実際彼女の心は孤独だった。


 かつては幾人もいた魔王という存在が今は自分一人しかいないという重圧がのしかかっている。

 その事実が苦しかった。

 他に誰か同じ存在がいれば、自分の知らない何かを教えてもらえたかもしれないのに。

 自分の役割を全部説明してもらえたかもしれないのに。

 

 この場に唯一いる自分以外の生き物、クゥが動かないリコに何か要求するように鳴いた。


「グエ……」


「お前は一人で寂しくないのか」


「グイィ?」


 リコはクゥのオヤツをこっそり持ち出すと、「内緒だぞ」と言って差し出した。


「ギッ」


「しーっ。骨っておいしいのか?」


「グェッ」


「おいしいなら何よりだ。ちょっと触るぞ」


「ギッ」


「お前、腹はもふもふなのだな。全部もふもふなら可愛いのに」


「ギョエッ」


「悪かった。ほら、もう一つ食べろ」


「ギッ」


「ふふっ」


 生き物の体温と柔らかな感触は癒される。

 見た目がグロテスクなこの怪鳥だって、腹の羽毛はふっくらとしていてリコにささやかな癒しを与えた。

 もう少しだけ触らせてもらいたくて、隠し持った最後の骨を与える。

 怪鳥は大人しくされるがままになってくれた。


「いいか、内緒だぞ。内緒にしててくれたらまた骨をこっそりあげるからな」


 もうここには自分しかいない。そう思って夢中になって撫でていたら、後ろのデスクから突如コトっと音が聞こえた。同時に部屋に漂うお気に入りのハーブの香り。

 それはまたあれこれ考え寝付けなくなりそうなリコのためにカイルが気を利かせて淹れてきたハーブティーなのだが……リコには最悪の間だったかもしれない。振り返った時には絶妙なタイミングで気遣いを見せた男の姿はもう消えていた。


 カイルに見られた…


 リコはぎゅっと唇を噛むと、傍にあった椅子に座り頭を抱えた。


 それなら声をかけてくれればよかったのに。こんなの余計なお世話だ。

 こんな、小動物に癒しを求めているなんて知られたら何を言われるか……


 いや、カイルはきっと何も言わないだろう。

 それより心配されるような気がする。だから今だってこうしてお茶を持ってきてくれたのだ。

 カイルは油断すると自分では埋められない心の隙間をすぐに埋めてこようとする。

 どうしてそんな自分でも気づかないような隙間を見つけるのがうまいのだろう。そしてそこを埋め合わせるのがうまいのだろう。


 結局リコはクゥの腹だけでなくカイルの余計なお世話にまで癒されてしまい、もう無駄な事は考えるのを止めてお茶を飲むと素直にベッドに潜りこんだ。

 どこか暖かい気持ちがするのは、お茶で体が温まっただけではないのかもしれなかった。

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