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「わしの可愛い子らよ…」


「ふぃー。アレがこんなとこにいるとは思わなかったな」


 カイルがナイフを振り払いまた腰のベルトに戻す。

 泥の飛沫を浴びた左手の革手袋はすぐ外した。

 手袋が白煙を上げているというのに、赤と金で装飾されたナイフは無傷だった。


「弱くてよかった」


「ほんとにな。おい少年、もう大丈夫だぞ。よく逃げたな」


「逃げて褒められたのなんて初めてです」


「リッチ、助かった。ありがとな」


「わしのゾンビ…」


 うなだれるリッチにリコが何かを差し出した。


「すまなかった。これは詫びだ」


 リコは素早く自分の耳から真珠の耳飾りを外すと、二つ揃ってリッチに差し出す。

 人間界にありふれた、だけど真層界にはない白い真珠。


「も、勿体のうございますリコ様!」


「いい。とっておけ」


「ひぃ。なんとお心の広い。ありがたく……ありがたく頂戴いたします」


 骨に黒い皮が張り付いただけのようなリッチは、恭しく両手で真珠を受け取ると片方を隣のスケルトンに分けた。


「仲いいな」


「べすとふれんどふぉーえばー」


「アンデットが言うと深みがあるな……」


 仲良しアンデットは真珠にきゃっきゃはしゃぎながら暗闇に消えていった。

 見た目ではわからないが、案外乙女なのかもしれない。


「で、少年。なんでこんな時間にうろついた?」


「うろつきたかったわけじゃないんです。安地を追い出されちゃって、アレに出くわして逃げてるうちに奥に来ちゃったんです」


 安地とは、カイルの言う”固定部屋”のこと。例えダンジョンが変形しとうともここだけは変わらず存在し、資源が出ない代わりにモンスターも出ない。故に安全地帯、略して安地と呼ばれる。

 そしてその安全性の高さから、ダンジョンで一夜を明かす場合は利用する者が多く、そして誰が来ようとも追い出さないのが常識。


「は? 誰だそんなことしたやつ。安地は誰が来ても追い出さないのが暗黙のルールだろ」


「駐屯兵……」


「あいつらか」


 ダンジョンのある孤島は人間界の誰の領地でもない。

 領有権を主張できるとしたらそれは真層界側のいずれかの魔王だろう。

 だが今まで一度も占有を宣言されたこともなければ、こうして資源を採掘していて咎められたこともない。

 人間は誰も所有を宣言しない。それもまた暗黙のルールだったはずだ。


 だが近年になってここに渡るための船を出す大陸側のルーシズ王国の軍隊が駐屯兵を置くようになった。

 治安維持が建前だが、徐々に既成事実を広げいずれ領地としようとしている魂胆が丸見えだ。


 人間界の資源は乏しい。

 大昔人間が移住して来た時から、資源の多くをダンジョンに頼っていた。

 それを一国が支配し管理しようとするなど、争いの種にしかならない。


「あのモンスターはなんなんですか?」


「あれはモンスターとは違う。俺たちは“成り損ない”って呼んでるが、普通はこんなとこにいないんだ。まあとにかく見たら逃げろ。絶対戦うな。救助隊員にも逃げるよう言っている。今日のやつは弱かったが、中にはヤベえのもいる。早めに呼んでもらってよかった」


「立てるか?」


「あ、怪我はそれほどでもないんです。ちょっとびっくりしちゃって」


「じゃあとりあえず一緒に本部に戻るか。あー……」


「フィルです」


「フィル。そいつはどうすんだ?」


 カイルが足元で固まっているクリーピングストーンを指差す。


「入口の方で逃がしてやろうかと……」


「そうしとけ。じゃあ帰るか」


 フィルがクリーピングストーンを抱き上げ、カイルの後に続く。

 フィルは泥人形から逃げている最中にもモンスターの気配にびくびくしていたと言うのに、帰り道はいたって平和だった。

 やがて入口もそろそろ見えてくる頃、カイルがフィルを振り向いた。

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