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「その剣を使わせてもらえるのか」


 リコが大男を睨んだまま店主にそう尋ねる。


「ではこの美しい挑戦者にも同じ新商品を使ってもらおう。モノは同じだから剣の性能の差なんて文句は無しだぞ?」


「いいだろう」


 リコは剣を受け取ると、数秒の間に刃や持った重さなどを確認する。

 見た目は人間界によくあるダマスカス製の剣とあまり変わらない。ハルマー銀が使われているのなら僅かでも青みを帯びると思ったのだが。

 合金ではないのだろうか。それともカイルの言う通り詐欺なのか。


 店主が「はじめ!」と声をかけた。

 あんな細腕の女、強化していなくたって男の最初の一撃で剣を取り落すに決まっている。

 最早剣の性能がどうと言う話ではなく、幼気な少女を痛めつけて観客を得ようと言う目的にすり替わっていた。多少の刺激には慣れっこのこの島で、欲しいのはこういう娯楽だろ? とでも言うように。

 

 店主のそんな意図を確実に汲んだのか、勝利を確信してニヤつく大男が雄叫びと共に上段から剣を振り下ろした。パワーがあるので振り下ろすスピードと威力は相当なものだ。

 冷やかしの野次馬の中から何人かが本気の振り下ろしに真顔になる。

 

 リコはその場から動かないまま、振り下ろされる剣の腹を無造作に払いのけた。

 だが剣が触れ合った瞬間、リコも予想していなかった衝撃が剣を握る手から腕へと流れる。

 力任せに見えた攻撃は、実は男が隠し持ったオーブにより雷の力が付与されていた。

 直撃を喰らっても死ぬようなことは無いが、それなりの衝撃と痺れが伝わるはず。


 店主は少女が観客を寄せるにはちょうどいい悲鳴を上げてくれると思った。

 だがリコは驚きの表情を一瞬浮かばせるも、歯を食いしばるだけで悲鳴の一つも上げない。

 取り落すはずの剣も、辛うじてその手に収まっていた。 

 しかし流石に隙が生じた彼女に、大男の剣が続けざまに打ち込まれた。

 胸元を払うその一撃に、観衆は可憐な少女が次の瞬間には胸元を押さえ羞恥に打ち震える姿を期待する。


 残念ながら期待したような事態は起きなかった。少女は隙が出来たにも関わらず、返す剣で大男の剣を受け止めたのだ。

 どう見ても力勝負に持ち込めば大男の勝ちであろうに、少女は眉一つ動かさずに押し切ろうとしている。男は自分がアクセサリーでドーピングしているのにも関わらず細腕の女が受け止めていることに驚き目を見開いた。

 誰もが同じ表情をしていた。

 カイル以外は。


 男が震えながら押し返そうとして敵わず、足を一歩後ろに退いた。

 ザザっと音をたてて踏ん張るも、少女はなおも押してくる。

 そして次の瞬間、少女は完全に大男の剣を押し切ってしまうと、バランスを崩した男の腹に渾身の回し蹴りを入れた。


 たまらず大男がのけ反り、そしてあろうことかそのまま倒れ込んでしまう。

 そしてその喉元に、顔色一つ変えない少女の切っ先が突きつけられた。


 勝負ありだ。


 しーんと静まり返った野次馬が、リコが剣を引いたのを見て一斉に歓声を上げた。


「うおおお! お姉ちゃんが勝ったぞ!」


「いいぞ姉ちゃん! 別嬪な上にえらい強いな!」


 手のひらを返す様に調子よくリコを讃える観衆の一人が、無様に倒れる大男のポケットから何かが転げ落ちるのを見た。

 黄色味を帯びたオーブは、魔法が込められていたに違いない。


「おい武器屋てめえ大男(こいつ)に何か持たせやがったな!?」


「図体でかいだけの意気地なしか!」


 好き勝手に騒ぐ野次馬は放っておくと、リコはふん、と一度荒い息をついてから手元の剣を一瞥した。


 取るに足らない三流品。

 

 リコは腹を押さえてうめく大男の傍にその剣を突き立てると、つまらなそうにカイルの元に戻った。

 

 カイルの言う通り偽物だ。

 ハルマー銀が使われていてこんなに重たいわけない。

 もっと羽のような軽やかさと刃がぶつかったときの鈴のような澄んだ音がないようならハルマー銀ではない。


「下らない」


「だろう? だから嫌なんだよ。まあこれはハズレだったがまともな武器屋もいるからな?」


「いや隊長普通に話してるけどさ、リコちゃんヤバくないっすか?」


「ヤバいぞ。お前もあんまり絡んでるとそのうち首が飛ぶぞ」


 ハーキスは首を撫でながら「冗談に聞こえない」と真顔で言った。


「リコ、そろそろ機嫌直せ。飯でも食いに行こう」


 そう言うとカイルはいつの間にか取れてしまったリコのフードをパサ、と被せた。

 被せる時に髪に触れられたような気がしたが、人目が気になるリコはそのままフードを引っ張り不機嫌な顔を隠した。

 ハーキスだけはカイルがリコに何をしたのか見ていた。


「隊長、俺見たっすよ」


「うるせぇ。黙って飯でも食っとけ」


「当然おごりっすよね」


「好きなだけ食え。全部給料から引いといてやる」


「うわケチ~」


 リコが髪の違和感の正体に気づいたのは、シェアハウスに戻りニーナたちとリビングで会った時だった。

 彼女たちはテーブルの上に今日の戦利品なのか買ってきた物を広げていた。

 ニーナはアクセサリーが好きなのかいつも体のあちこちに宝石を付けている。

 服装が黒一色なのでアクセサリーと口紅の赤さが彼女のミステリアスな雰囲気を盛り立てている。邪魔に見えないのはきっとセンスがいいからだろう。

 キャスはお菓子が多いようだった。猫耳には何もつけたくないらしく、小ぶりのヘアアクセサリーとチョーカーがあった。猫に首輪だ。

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