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「そうだな…このアシュの根はどうだ? 大陸の薬屋で扱わない店はないだろな。解毒薬の調合に入れる他、魔法職なら魔法威力向上を期待して使う者も多い。あとはアレを強くしてくれる」


 薬屋がカイルの方を見て言うので思わずリコも見上げてしまう。


「俺は必要としたことがない」


 なぜか自信満々に答えるカイルの意味が分からず、「何がだ?」と聞いてしまう。

 薬屋がそれを見て吹き出し、ならお姉さんはコレか? と別の品を出された。麻袋は空けなくても強い甘さを含んだ香りがする。リコには真層界にもあるアラングの花を思い起こさせた。


「俺たちはそんな関係じゃねえよ」


 カイルがそう返すと「これは失敬」とでも言うように店主が肩をすくめた。


 リコだけが意味を理解しておらず、不思議な顔をしている。

 カイルはリコがついて来れない下品な話題を切り上げると、テーブルに並ぶハーブの束を一つ差し出した。


「リコ、お前が好きそうなのはこれじゃないか」


 それは長い茎に葉をつけたまま乾燥させたハーブで、匂いは草っぽい。つまり香りとしては特徴がそれほどない。

 見た目はインカータというリコが真層界で好んで飲んでいたハーブティーに似ている。


「インカータに似ているな」


「同じだな」


 真層界にある物を知っているらしいカイルはそう答えると、店主に向き直った。


「オヤジ、これの砕いたやつあるか?」


 店主は天幕の中に一度消えると、何やらごそごそと漁った木箱からブリキ缶を二つ持ってきた。


「お茶にするならこれかね。あとグレードの高いのはこっち」


 こっちを買えとでも言うかのように、綺麗に装飾されたグレードの高いブリキ缶をぐいっと出してくる。

 カイルは「じゃあそれで」と言うとさっさと支払いを済ませリコの手に乗せた。


「いいのか?」


「俺の“出来ること”だ」


 リコがカイルを見て、手元の缶を見てからまたカイルを見上げた。

 ハーブの効能は「抗不安、安眠」。ハーブらしい草原のような香りと、ほんのりとした渋み。最後に柔らかな甘みが残るリコお気に入りのお茶。


 リコの表情も茶葉の残す柔らかな甘みのように、少し柔らかくなったようだった。


「……ありがとう」


 カイルのさり気ない気遣いを手に、二人はまた店を見て回る。

 さっきの疑問に残る会話はなんだったのかちょっとひっかかる部分はあるが、なんとなく聞かない方がいい気がする。

 アラングの花は新婚夫婦のベッドサイドに置かれることが多い。

 もし効果が同じ花だとしたら、つまりはそういうことだ。

 カイルが必要としない何かを強くするハーブとは……それ以上は考えるのはやめて天幕を見回した。


 商品を並べた天幕はひしめき合っているというのに、少し先の方に急に開けた場所がある。

 周囲に見物人のような人が多く集まり、時折歓声が上がっていた。


「あれは?」


「あっちは催し物だな。大衆演劇だとか力試しだとか。的当て屋なんてリコがやったら大赤字だろうな」


「ほう……」


 リコは何か興味があるのか人混みの向こうを見たそうに頭を揺らしている。

 虫も殺さないような静かな佇まいをしているが、こう見えても魔王と言う常人離れした力を有している。

 そして意外なことに「言って分からないのなら拳で」というタイプだ。かつてカイルも拳で語り合う羽目になったことがある。

 当然だが弱い相手ではない。

 今だって手前にあるアクセサリーの店より、奥の武器屋の人だかりを気にしている。

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