表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

グリコ、チョコレイト、パイナップル

作者: はやはや

「じゃんけん ほい!」

「グーリーコ」


「じゃんけん ほい!」

「チ、ョ、コ、レ、イ、ト」


「じゃんけん ほい!」

「パ、イ、ナ、ッ、プ、ル」



⁂ ⁂ ⁂


「これ、適当にまとめといて!」


 パソコンに向かっていると、背後から声がした。

 頭に響く、きんきんした声。上司の柘植つげさんだ。私より五つ年上のアラフォー。独身女性。独身なのは、私も同じだ。


 私は柘植さんが非常に苦手だ。つっけんどんで愛想がない。だから、仕事の相談や報告もしづらい。

 地雷がどこにあるのか定かでない故に、私はしょっちゅう彼女の地雷を踏んでしまう。


「あ、はい」


 と資料を受け取ったものの、彼女のいう〝適当〟は、どれくらい適当でいいのだろう……と悩む。

 昨日の会議の議事録だった。会議に出席できなかった社員に回覧するのために、決定事項や連絡を書き出して、まとめる作業をしなくてはならない。


 こういった細々した仕事を、柘植さんは私に振ってくる。とはいえ上司なので、私より抱えている仕事も多いだろうし、責任も重いだろう。

 そう思って私は振られた仕事を引き受ける。


 昨日の会議で書記だった拓殖さんの記録を見る。

 ミミズがはったような文字で、判読不明の箇所がある。まるで、昔の武士が誰かしらに宛てて書いた手紙みたいだ。

 今日中に回覧した方がいいだろうから、午前中には仕上げて午後一で柘植さんに見てもらうべきだろう。

 そう考えると頭痛がした。



⁂ ⁂ ⁂


 私の柘植さんに対する苦手意識は増幅していき、今では彼女の席に向かうのさえビビっている。話かけたら怒られるのではないか、適当にあしらわれるのではないかと。

 だから、ちょっとした報告、連絡、相談をするのでさえ後回しにしてしまう。その結果「どうして早い段階で報告してくれなかったの!」と怒られる羽目になる。悪循環だ。


 午前中に何とか回覧用の議事録をまとめた。今からそれを柘植さんの席まで持って行く。OKが出たらコピーをし、それぞれの部署に回し、原本はファイリングする。

 たったそれだけのことなのに、私は十分程、自分の席から立ったり座ったりを繰り返している。このままでは本来の自分の仕事が終わらない。


 えぇぃっ! と私は勢いよく立ち上がった。キャスター付きの椅子が数十センチ後ろに動く。



「じゃんけん ほい!」

「グーリーコ」


「じゃんけん ほい!」

「チ、ョ、コ、レ、イ、ト」


「じゃんけん ほい!」

「パ、イ、ナ、ッ、プ、ル」


 私は心の中で、ひとりグリコを始めた。「グーリーコ」と小さく呟き三歩進む。「チ、ョ、コ、レ、イ、ト」で六歩進む。「パ、イ、ナ、ッ、プ、ル」で、また六歩。



 柘植さんの席まで後、「グーリーコ」の三歩だ。

 しかし、心の中ではパーとチョキを出し「チ、ョ、コ、レ、イ、ト」になった。ちょっと行きすぎてしまう。慌てて次にグーとパーを出し「パ、イ、ナ、ッ、プ、ル」で元に戻る。



⁂ ⁂ ⁂


「ちょっと! さっきから何やってんの。目の前ウロウロしないで!」


 グリコの歩数が合わず、私は柘植さんの席の前を行ったり来たりしていた。

 結局、怒られた。でも、一人グリコをしている時は、無心だった。怒られるかもという恐怖を忘れていた。また怒られるかもしれないけれど、柘植さんの席に行く時は、グリコで行くようにしようと決めた。

読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ