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忘れていたのは、一点だけ  作者: 朝倉 淳
第11章 祭りの前から、各々勝手に踊りざわめく
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第11章 祭りの前から、各々勝手に踊りざわめく 2

 柴高祭の三日前。歩は授業が終わった後、美術室を訪れた。上半身ほどの大きさの、薄い四角のバッグを持って。

「すいません。遅くなりました」

 あえての敬語でそう言いながら、歩はそのバッグを瑠美に渡す。瑠美は中の物を出さないまま、中身を検める。

「……やば」

「え、何?」

「いや、なんもない。確かに受け取りました」

 瑠美は機嫌悪そうに、またあえての敬語でそう言って、歩から受け取ったものを奥の美術準備室に持っていく。後ろから「何か手伝うことある?」と尋ねたが、瑠美は「ない」と一言で歩を一蹴し、準備室に入ってドアを閉めた。

 何か手伝いをするつもりで来た歩だが、手伝うこともなく、ただ周りを見渡す。美術部員はいない。静かな教室にはただ作品が並んでいる。窓から差し込む日差しが作品たちを温かく照らしている。

 ……いや、絵を日光にさらしちゃダメでしょ。日焼けしちゃうって。歩は日が当たっている作品に日よけ用の布を被せる。

 水彩画、油絵、粘土、彫刻、ねぶた祭の山車を何十分の一サイズにしたようなオブジェ、漫画・アニメの絵。順番に見ていく。それぞれ、少しずつではあるが歩が手伝った。粘土を運ぶの、すごい大変だったな。水彩画の人は、愚痴が多い人だったな。彫刻の人は寡黙だったけど優しい人だったな。ねぶたの人はすごい明るいのに、作業に入ると集中して周りが見えなくなる人だったな。漫画の絵の人は、なんか熱量だけすごかったな。


 これ、いつまで保管するんだろ。


「教室戻ってるね」

 壁越しに瑠美へ声を掛けると「はいよー」と壁越しに返事が返ってきた。歩は自分のクラスに帰ろうと、美術室のドアを開く。すると、ばったりと美術部の先輩に会ってしまった。清水先輩だ。

「あ、歩さん」

「あ……先輩、こんにちは」

 三年生で元副部長。背は歩より少し高い。少し茶髪がかった髪を二つに結っているかわいい印象に反して、すごくしっかりとした頼れる先輩。夏休み中の部活動で、よく歩の相談に乗ってくれた人だ。とはいえ、夏休み以降はほぼ話しておらず緊張してしまう。

「どうしたの? 今日、美術部特になんもないでしょ?」

「瑠美に渡すものがあって」

「あ、もしかしてできたの?」

 清水先輩は目を輝かせてそう言う。

「はい、何とか」

 そう返すと、清水先輩はばんばんと歩の肩を叩いて「よかったじゃーん!」と喜んでくれた。歩はどういう顔をしたら良いか分からず、とりあえず笑う。

「清水先輩が手伝ってくれたおかげです。ありがとうございます」

「いいっていいって。じゃあ、後で瑠美に見せてもらうわ」

「……はい」

 清水先輩は美術準備室の方に入っていく。すると壁越しに清水先輩が嬉しそうに話している様子が聞こえてくる。本当に喜んでくれてるんだな、と思いつつ、歩は少し恥ずかしい気持ちになった。


 美術部は入部して以降、歩はマネージャーみたいなことしかしていなかったため、美術部の人たちと深く関わりあっていなかった。そして、不安だった。何か迷惑を掛けちゃいないかと。

 それが夏休みの活動でいくらか解消することができた。実は部員のほぼ全員、歩のことを拒みはしないが受け入れようもなく、やきもきしていたらしい。ほんと、どっちつかずで申し訳ない。ただ、それがはっきりできただけでも、胸の中の靄が少し晴れた気がした。


 用を済ませた歩は美術室から出てクラスに向かう。クラスまでの廊下を歩きながら、歩はスマホの画面を付け、メッセージアプリを開いた。そして、柚木とのメッセージ画面を開く。画面には夏休みからのやり取りが延々と続いている。

 絵本原画展へ行った日以降、柚木は何か吹っ切れたようにプロットへ取り組むようになった。ワークショップの時に考えていたアイデアをベースに、またうんうんと唸りながら考え、何とかプロットだけは夏休み中に終えることができた。実は、歩ほとんど手伝っていない。自分の頭で考えて、自分で図書館からいろんな本を探して、時にはパクって、プロットを完成させた。

 夏休みが終われば学校が始まり、学校の美術室で絵本の制作はできなくなる。そのため、九月に入ってからはメッセージでやり取りをし、柚木にアドバイスをしていた。

 ただ、最近はメッセージのやり取りが少なくなってきた。定期的に連絡はしているのは変わらないのだが、返信が『大丈夫』とか『進んでる』とか、単純な返ししかし無くなってきている。小学校も始まっているし、忙しいのだろうか。それとも、進捗が芳しくないのだろうか。そんなことを考える。

 歩は短いメッセージを打つ。送信ボタンを押す手前、少し躊躇するがもう準備はできているし、悩むのも疲れるし、もういいやとそのまま押した。

『土曜日、うちの文化祭に来ない?』

 自分のクラスに戻る。他のクラスは祭りの準備で騒がしいのに、歩のクラスは人がまばらだ。もはや当日までほとんどやることもない。歩もやることを終えたため、帰る準備をする。


 ついに三日後。夏休み前から始まった、誰のためかも分からない頑張りが、やっと終わる時が来る。

 埼玉県立柴川高等学校文化祭、通称柴高祭が始まる。

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