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忘れていたのは、一点だけ  作者: 朝倉 淳
第5章 文化祭とプレゼントはやっぱり億劫
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第5章 文化祭とプレゼントはやっぱり億劫 4

「いや、何でもないわよ、ね、先生?」

「ん? ああ、そうだよ。逆に、なんだ? どした?」

 逆になんだってそれこそなんなんだ、と心の中で松本先生に一発突っ込みを入れながら、歩は小さくため息をつく。頼むからこれ以上面倒なことをしないでほしい。

「ドアの前でこそこそしてるから、気になるんです。で、何か用ですか?」

 そう聞いても瑠美と松本先生は「いやー……」と答えに困る。

「俺、弦のところに行ってきまーす」

「あ、加藤おめぇずりいぞ!」

 抜けようとするカトケンを子供のように制止する松本先生。あなた本当に先生だよね? と歩のため息はさらに深くなる。

「用ないならどっか行ってもらってもいいですか? 気が散るんで」

 歩の他の人を排斥するような言い草に、瑠美は少しむっとした表情になる。

「何よー、どんな調子か見に来てあげたのにー」

 そう言いながら、瑠美は歩を押しのけて美術室に入っていく。

「げ、反社の姉ちゃん……」

 柚木は瑠美を見て肩をすくめる。ワークショップの時の記憶が蘇ったようだ。瑠美は笑顔で「やあ少年! 元気? 調子はどう?」と言いながら少年に近づく。すると柚木は多少身じろいで椅子を動かし、瑠美から距離を取ろうとする。張り付いた笑顔が逆に怖かったのだろう。

 瑠美に続いて、カトケンと松本先生も、歩の横を通って美術室に入っていく。

「藤井が面倒見てるのってこいつ?」

 カトケンは少年を見て歩にそう尋ねる。

「面倒見てるっていうか、ちょっと手伝ってるというか」

 カトケンへの説明は面倒だし無駄だと思い、歩は適当に回答を返す。柚木は金髪の不良(のように見える人)にこいつ呼ばわりされ、カトケンを警戒する。

「姉ちゃん誰こいつ。反社の姉ちゃんの下っ端? チンピラ?」

 柚木がそう言うと松本先生が、ぶっ! と吹き出す。「チンピラって……的確だな……」と瑠美も口を押さえて笑いを堪えていた。いや瑠美さん、あなたも反社って言われてますけども、それはいいんですか。

「笑ってんじゃねえよ。俺はカトケンっていうの。チンピラじゃねえよ。藤井の同じクラス」

 カトケンがそう自己紹介をすると、柚木はカトケンを頭からつま先までを検査するように見始めた。そして、最後にカトケンの顔を見る。

「……なんだよ」

「俺、柚木」

「? お、おう。お前、柚木っていうのか?」

 柚木はうんと素直にうなずく。

「よし、柚木、描いてる絵、見せてみろよ」

「お前、絵うまいの?」

「別に。見たいだけ。いいジャン。見せろよ」

 まるで陽キャが陰キャの趣味を面白がるような聞き方をするカトケン。しかし意外にも柚木はカトケンに絵を見せ始める。柚木の心の関所の基準はどうなってるんだ。

 それはさておき、歩は教卓に寄りかかって傍観している松本先生に近づく。

「先生、本当何しに来たんですか?」

「いや、面白そ……じゃない。今日初めてだから、どんな様子かなと思って見に来たんだよ、ほら、心配じゃん?」

 面白そうって言い掛けたよね? と、歩は松本先生を冷たい目線で見つめる。

「……ちょっかい出しに来ただけですか?」

「まあいいじゃんか」

 そう言いながら、松本先生はカトケンと柚木の会話に混ざろうとする。柚木は松本先生が来ると、「来んな!」といやそうにしていたが、先生はしつこく絡みだす。マジで遊びに来ただけだなこいつら、と歩は額に手を当てる。松本先生も忙しいのに何遊びに来てるんだか。

 歩は大きく息を吸い、そしてはぁ、と声を漏らしながら息を吐いた。

「私、ちょっと水買ってきます。ちょっと見ててください」

 歩はそう言って部屋から出ようとする。いったんここから退散して休憩したい。昇降口横のピロティで一息するか、と考えながら美術室のドアへ歩いていく。

 しかし、ドアを開けると自分より背の高い生徒がドア前に立っていた。ぶつかりそうになった歩は反射で足を止める。目の前には、スマホを持った弦が立っていた。

「あ、よかった。まだいた。歩さん、ちょっといま話いい?」

 歩の口元が少し引きつる。どうしてこうも、悪いタイミングで人が集まってくるのか。

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