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忘れていたのは、一点だけ  作者: 朝倉 淳
第3章 クラス会議と反省は水面下で
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第3章 クラス会議と反省は水面下で 1

 ワークショップ二日目が終わった次の水曜日。毎週行われる学校のLHRにて柴高祭の出し物決め会議が行われたのだが、その会議はまさに紛糾した。

 毎年、二年生の出し物は食べ物系の屋台になることが多い。一年は屋台系の出し物が禁止されており、その反動なのか、二年になるとみんなこぞって食べ物の屋台をやりたがるためだ。歩がいる二年三組もその例に漏れず、会議では食べ物の屋台の案が続々と提案された。最初はクレープやタピオカといった流行り物が優勢だったが、「絶対にかぶるし、客が他にもってかれる。無難にたこ焼きとかにしよう」と全く別の案が挙げられ、話し合いは揉めに揉めた。女子中心のスイーツ派閥と、男子中心のたこ焼き派閥の不毛な言い争いの末、結果女子側の意向が多く汲まれる形となり、結果、屋台でも作りやすいベビーカステラにしようということで落ち着いた(やっぱりこういう時、女子の方が強いんだな、とつくづく思った)。そして、早く終わらないかとそれらを傍観していたその他大勢は、やっと終わった、と胸を撫でおろした。


 LHRが終わり放課後、歩が帰り支度をしていると、一部の生徒が黒板の前の教卓で柴高祭の準備について話し合いをし始めた。中には瑠美や弦も混じっている。もう一人、カトケンという弦の友達も混ざっていた。クラスの柴高祭実行委員だ。

 その様子を見ていたら、弦が気づき、歩に話しかけて来た。

「どうしたの? もしかして、歩さんもベビーカステラ嫌だった?」

 弦は少し申し訳なさそうに歩の様子を窺う。緩いパーマのかかった少し茶色い髪、高めの身長、整った顔、常に人の中心となるような性格。まさに人気者。歩とは間反対の人間だ。

「いや、そういうわけじゃない」

 急に声を掛けられびっくりした歩は、反射でそう言ってその場からすぐに離れた。

「なんか気に障ったこと言ったかな? 俺?」

 背中の方から弦の心配の声が聞こえる。それに対し、瑠美は「いいよ、気にしなくて。いつもあんな感じだし」と言い、ただの杞憂だと一蹴した。


 歩は文化祭というイベントがあまり好きではない。

 やることを決めるにしても、周りの様子を窺って決めなければならない。先のクラスの出し物決めも、瑠美などの一部リーダー格の人間が先頭に立って議論をしていただけで、それ以外の人たちはそれに合わせているだけだった。どれをやりたいかではなく、どれをやった方が当たり障りないかを考えている人がほとんど。そんなクラスの空気を読みながら、その場に一時間居続けるのはかなりしんどい。そのため、歩は話し合いの間、ずっと窓際の席でどれかに決まるのを待っていた。どれになってもやることはあまり変わらない。そうであれば、こういう話し合いには下手に参加しない方が得策だ。

 それが決まった後も、文化祭までの準備や役割分担、シフトなど、全体の空気を探りながらの話が延々と続く。そう、すごく面倒くさい。

 今回、歩はさっさとどこかの雑用係に入って、適当にやり過ごそうと考えていた。そんな考えの歩には、文化祭に積極的な人たちの気持ちが理解できない。屋台なんか面倒くさいことをせず、もっと楽な出し物で手を打ってやり過ごせばいいのに、その熱意はどこから来るのかと不思議に思う。

 ただ、そういう人が間を取り持ち、着地点までもっていったおかげで大きく揉めずに済んだのも事実だ。話し合いが何とか落ち着いたのは、弦が怒らすとまずい女子たちの意向を、他の反感を買わないようにそれとなく汲みながら、折衷案的に見せて案を決めたからだ。ああいう人のおかげで何とか回ってるんだろうなとも思う。なんであんな大変な役回りを、と思う反面、そんな弦のような人間には、いつも申し訳ない、と少し思って暮らしている。

 歩は帰り道、あのそっけないことこの上ない弦への態度を反省する。ただ、それでも文化祭が面倒臭いのは変わらないんだよな、と思い、その反省もだるさの中に消えていった。

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