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忘れていたのは、一点だけ  作者: 朝倉 淳
第2章 てんやわんやのワークショップ。その中、歩は少年と出会う
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第2章 てんやわんやのワークショップ。その中、歩は少年と出会う 6

 午後の回に入り最初は機嫌が良かった少年だが、一時間ほど経つと午前中と同じくまた頭を抱え悩んでいた。シートにある登場人物の欄は描けたようだが、起承転結の欄が埋まっていない。

「進まないの?」

「うるさい」

 少年はそう言って歩をはねつける。この調子だと来週まで絵本はできない。そもそも先週時点でシートが埋まってない時点でかなり無理がある。完成しないままワークショップが終わった場合は、こちらで準備した画材だけプレゼントして、あとは家で作ってもらうことになる。

 歩は少年が保護者への連絡を気にしていることを思い出す。息子が真っ白な絵本を家に持ち帰ってきたら、両親はどんな気持ちになるだろうか。気を遣って励ますだろうか、一緒にやろうと言ってくれるのか、もしかしたら、せっかく申し込でやったのに、と怒るような両親かもしれない。

 いずれにしても、少年はいたたまれない気持ちになるのではないかと歩は思った。

 少年の機嫌の取り方が分からない歩は、とりあえず、気になっていた事を聞くことにした。

「モンスラって、まだゲーム出てるの?」

「……一昨年出た。VS5で」

 モンスラの話だと、少年はすぐに反応してくれた。それと同時に、歩は「あ~VS5か」と声に出す。歩が小学生のころは別の携帯ゲーム機で出ていたため、今ではVS5で出ているのか、と思いもよらないところで時の流れを感じてしまった。

「モンスラ好き?」

「別に」

 この「別に」は「好きだけど恥ずかしくて言えない」の意である。

「描きたいなら、モンスラのキャラクター出してもいいんだよ」

 少年は顔をしかめる。

「それじゃあパクリになっちゃうじゃん」

「いいよ、別に売るわけじゃないし。この世には二次創作っていう限りなく黒に近いグレーなゾーンもあるんだよ」

 そう言いながら、歩は少年の方に体を向け直した。

「一から作りたい」

「でも、このままだと来週までにできないよ。絵本」

 歩がそう言うと、少年はホールにいる小学生たちの方を見る。ホールで絵本作りをしている小学生たちはすでにページ割を終えて、絵を描く作業に入っている子たちがほとんどだった。

 少年は少し膨れて、椅子の上で膝を引き寄せ顔をうずめた。自分のこだわりを捨てるか、周りの子たちと差をつけられながらでも今の方針を維持するかという、嫌な二者択一から現実逃避しているのだろう。

「……でも一から作りたい」

 そのこだわりを続けると後々後悔する。歩はそのことを、身をもって知っている。そこで歩は、まず少年のその「一から作らなきゃだめだ」という頑固な考えから直そうと考える。歩は肘を膝につけ、前かがみになって少年を見た。

「パクリじゃないんだよ。君が好きで、君が時間をかけて、考えて描くんだよ。それは君のものだよ。一から作ったかどうかなんて、些細なことだって」

 途中、松本先生が言っていたことと似たようなことを言っていることに気が付いた。

「まずは一個、完成させちゃお」

 少年は顔を上げる。すると目の前に歩の顔があって、真っすぐ見つめる目に少しひるんだようだった。

「手伝ってくれんの?」

「まあ、暇だしね」

「……」

 少年はまだ納得がいってなさそうな顔で、ゆっくりと頷く。なんでそんな不服そうなのかは分からなかったが、まあいいかと、歩は少年の隣に椅子を引き寄せた。

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