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自覚する恋心

 たとえば子供のころ、友だちに「誰々のことが好きでしょう」とか言われた時、違う、とかたくなに否定するタイプと、そうかもしれない、とその気になるタイプがいたと思う。

 どうやらあたしは前者のタイプだったらしい。

 さんざん龍之介に好きだと言われ、千紗にすら、

 ――絶対恋です。

 と断言され、改めて考えてみるとそうかもしれないという気分になってきた。いや、単にあたしが流されやすい性格だったって考えなくもないけど。

 それにしても、まさかあたしが恋をすることになるなんて、思ってもみなかった。だって最後に異性を好きになったのって、小学生のころで、好きだって自覚してからその先どうしていいのかさっぱり分からない。

 告白するべきだろうかとか、でもその後のこととかそういったもろもろのことを頭の中でぐるぐると考えていると、なぜかタイミングのいいことに体重計が壊れた。愛着があるわけではないけど長年使っていたものだけにちょっとショックで、そのせいだろうか、なんだか何もかもがどうでもよくなってしまった。



 さて、どうしよう。

 事務所の扉の前に突っ立ったまま、あたしは腕を組んだ。

 結局昨日はやけになって寝てしまったけど、結論を出さないままだったのでどうしていいのかわからない。

 いやでも今は仕事に集中よ。平常心、平常心。

 両手で両頬をパチンとたたいて気合いを入れる。

「おはようございます」

 突然耳元で思いがけない声をかけられて飛び上がった。

「ぎゃっ……! じゃなく、おはようございます」

 予想外の事態に、あたしの心臓は激しく動悸を打つ。なんで今朝に限ってこの男はあたしよりも後に出勤してくるのよ。

 睨みつけると龍之介と目が合って、急に恥ずかしくなって視線を逸らす。今、あたしの顔は絶対赤くなっているに違いない。

「どうしました。具合でも悪いですか?」

 覗き込んでくる龍之介は心配が半分、面白半分な表情をしていて、明らかにあたしの様子を見て楽しんでいる。

「いえ、全然、どこもなんともありませんから」

 本当は心臓バクバクいってるし、血圧も上がっているに違いない。

「昨日は暑くてあんまり眠れてないだけです」

 大丈夫です、と両手を振って逃げるように扉を開けて事務所に駆け込んだ。

 告白するとかしないとかの問題じゃない。まともに龍之介の顔を見ることすらできないなんて、どこの小学生ですか。この調子で毎日顔合わせるのは精神的苦行以外のなにものでもないわ。

 後ろに続いて龍之介が入ってくる気配を感じながら、動悸のおさまる気配のない胸を押さえた。


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