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最高過ぎる夫から「今まで冷遇してきてすまなかった」(土下座)と謝られたら?

注意:会話文中心・地の文少なめ、地の文はですます調が少々混在

 

「今まで冷遇していてすまなかった」

 ある日突然、全く冷遇された覚えのない夫から謝られた。それも土下座で。


 普通に、いえ、最高に理想的な夫だったんですが……?


 何かの冗談か間違いかと思ったが、夫の顔はひどく青ざめていて、真剣な様子だ。




 〜〜〜〜



 私はもともと侯爵令嬢だった。

 侯爵家嫡男と正妻である名家伯爵令嬢の娘。

 普通だったらお嬢様として大切にされる生まれだ。


 しかし、ロクデナシな父親は、母親を嫌って、浮気相手の元に通い詰めていた。


 状況が最悪になったのは母が若くして亡くなった、私が5歳の時。後妻として浮気相手とその娘を連れて本邸で暮らすようになった。これがロクデナシ2とロクデナシ3である。


 家の中で寝る間も無く働かされ、食事を抜かれ、持ち物も部屋も全てを奪われ、虐げられる日々だった。

 しかしそんな中、侯爵は外では私を溺愛しているふりをした。

 お前らが食事を抜いているくせに、私が我儘放題で好き嫌いが激しく、ガリガリなことにした上で、そんな困ったところも含めて愛していて、自分の何よりも大切な宝だと言う。


 後ろ暗いことをたくさんしてきて恨まれている覚えがあるから、私が身代わりになるようにと、我儘な娘に振り回されていてはいるが、娘を傷つけられるのがなによりも悲しい、娘を深く愛する父親だと思われるよう演じていたのだ。

 ならば、そんな父親が亡くなったらどうなるだろうか? 全ての恨みが父を失った私に向けられた。復讐者によって、死ぬよりも恐ろしい目にあわされるかもしれないと恐々としていた日々だった。


 そんなある日、継母と妹から、心底嬉しそうに、父を恨み、私を虐げようとしている男との婚姻が決まったと告げられた。


 そう!ここで旦那様(ヒーロー)の登場!!!!



 子爵家嫡男であり、商会を新規立ち上げ、大成功させたイケメン!!婚活市場の人気者だった!!



 正直、変態でも老人でもなく、お金を持っていて、イケメン、当たりだと思った。


 初対面からよそよそしくはあるが紳士的な態度で、しっかりとした結婚式までしてくれた時点で、大当たりだと思った。


 その予想通り結婚生活は幸せいっぱいの大正解だった。



 〜〜〜〜




 もともと虐げられていて、さらに悪化しそうな状態から救い出してくれた上に、甘やかして、気遣ってくれて、やっぱり思い返してみても冷遇の”れ”の字もなかった。


 ふと、旦那様の方を見ると、あらやだ!? 土下座のままだったわ!!


「まず、椅子にでも座ってください!!! で、ええとなんでしたっけ? 冷遇? 旦那様は一旦辞書で意味を調べ直した方がいいと思いますが……」


「初夜に、「これは復讐だ。愛されるだとかは期待するな」と伝え、一度も夫婦の寝室に行かなかった上に、今までたくさんの嫌がらせをしてきただろう?」


「嫌がらせとは? そんなものありましたか? 私は最高に幸せな結婚生活ですよ? 共寝がないのも婚約期間のない婚姻だったので、心の準備ができていなくて、ありがたいくらいです。別に、妻の私を特別大切にしているのが伝わる上、他の方と浮気しているわけでもありませんし……」


「結婚したのだから当然だろう!! 他の者とだなんて、許されざることだ。

 嫌がらせなら、家族にも友人にも合わせず、家から出さない生活だっただろう!」


「侯爵家に家族は残っておりませんし、私には友人などいませんよ。肩身の狭いどころか危険な状態で社交界にも行きたいとは思っておりませんでしたわ。

 それに旦那様を筆頭にこの家の皆様が、日々楽しく過ごさせてくださいました」


「何を言っている!! 人と交流することを望んでいなかったとしても、過ごしやすい家ではなかっただろう。妻としての責務だと習い事などを毎日のようにつめられて、妻としての権利も無く、義務ばかりの日々で嫌気がさしたのではないか?」


「習い事の(たぐい)は幼い頃にやめてしまったので、大変ありがたいと思っておりました。お金もかかることですのに、親切でわかりやすい一流の先生方を、本当にありがとうございます。

 楽しく過ごしていたことに間違いはありませんよ。習い事も楽しかったですし、妻としての権利はなかったと感じなかったどころか存分に満喫しておりました。

 それに家の中で優しい使用人の皆様とおしゃべりをしたり、お忙しい中、毎日必ず夕餐には帰ってきてくださる旦那様とお話ししたりする時間は至福でした」


「い、いや、そんなわけは……

 そうだ、食事のメニューはどうだった?? 好き嫌いが激しいということを聞いて、苦味など味の好みが分かれるものばかりを出していただろう!」


「それは栄養満点で、貴重で高価な、野菜や香辛料の話でしょうか? おかげさまで痩せ細っていた体も無事に一端(いっぱし)の婦人のようになれました。確かに癖の強めな食材だったかもしれませんが、美味しく調理してあって、好きな方が多い味だと思いますよ。旦那様もおいしそうに召し上がっていらっしゃったではありませんか。

 まあ、もともと私はあまり好き嫌いをしないのですが、嫁いできてから食べた料理やお菓子が大好きですわ」


「食べ物を無駄にはできないのと、うちの料理人が優秀すぎたせいだ。好き嫌いが激しいというのが間違っていなければ嫌がらせだったはずだ!

 な、ならば朝はどうだ? 毎日見送りにくるようにと、朝早く強制していたではないか……!」


「朝の6時、早いですが嫌がらせになる程かと言われると微妙だと思います。それに夜のお勤めがなかった分早寝だったので、寝不足だったことはありませんよ。こちらに来てから充分な睡眠って健全(まとも)な精神状態と美しい肌に必要不可欠だったことを思い出せました」


「そうか……」


「他にはもうありませんね? いきなりどうなさったのですか?」


「私が君の父を恨んでいることは知っているだろう。あいつが死んで、君を通して復讐していたが、やはり間違っていたと分かったんだ。もともと薄々気づいてはいたんだ。何も悪くない君を虐げるなどあの男にも並ぶロクデナシだと。しかし、復讐心に囚われて気付かないふりをしていたんだ。しかしもう限界だった。

 それに何も悪くないどころか君は健気で賢くて美しくて優しい素晴らしい女性だ。それに比べて私は卑劣で生きる価値もないうじ虫のような存在だ、何食わぬ顔で君のそばにいるなどなんと罪深いことか……

 もちろん償いはなんでもしよう。許さなくてもいい。本当に申し訳なかった」


「そこまで悩んでいらっしゃったなんて……! こちらは虐げられたと思ってないので、そんなに悩むことも謝っていただくこともありませんのに。

 まあ、土下座の概要はわかりました。良心が痛み、罪悪感に耐えられなくなったというわけでしょうか? あの……旦那様は復讐向いておりませんね。この程度のことでそれほどまでに悩む、あとまだ始めてから1年も経ってないのに限界だなんて、優しすぎます」


「復讐が向いてないだと……!」


「はい。でも旦那様は幸運ですよ。私は復讐にぴったりですもの」


「どういうことだ?」


「旦那様がそこまで悩んでいるとは知らず、伝えていなくて申し訳ありません」と前置きした上で、父の私への実態を伝えた。


「そんな……私は今まで何を」



「こちら側には旦那様が私を虐げているつもりだとは全く伝わらなかったので、改めて憎き父の話を持ち出すのもと思い、伝え損ねていました。正直言っていなかったこと忘れてました!」


「嫌がらせが通じてなくても、初めの日に復讐だと言っただろう!」


「復讐にしてはあまりにも優しいので、ちまたでツンデレと言われる照れ隠しか、私が罪悪感を覚えないための配慮かと思いました。結婚生活も順調なので、この辺りの話はタイミングがあるときに話せばいいかなーと」


「そんな馬鹿な話があるか!」


「私は旦那様が悪いと思います。あんなに優しくされて復讐のつもりだったなんて信じられません!」


「すまない。いや、これは私が謝る話か?」


「とりあえず、復讐の話に戻りますが、父は私のことを嫌っていたので、私が幸せそうにしているってことは復讐大成功ですよ! よかったですね!!

 父がほんとうに大切にしていた妹を娶らなくてよかったです。普通の女性はもちろん、自堕落で、習い事を嫌い、社交を好み、好き嫌いが激しかったわがままな妹だって、しあわせになってしまいそうですもの」


「ふむ、成功ならよかったのか?

いや、それから、さすがにその妹君なら虐げられていると感じたはずだ!!」


「イケメンでお金持ちで誠実で優秀な旦那様が、気遣いながら優しく接してくれて、最高級の教師、料理人、使用人、食材、ドレス、アクセサリーなどが揃っていて、習い事も無理なくできる量で、家になんでも娯楽があって楽しく過ごせる環境ですよ?

 というか正直、旦那様は「習い事ばかりで、苦手な食べ物で、友人に会えなくて、辛い、気が滅入ってしまう」と言ったら、言うこと聞いてくれそうな気がしているのですが……

 まあ、それで満足できなくとも、一年後には旦那様が償いに何でもするというのでは、絶対に妹は幸せになって、復讐大失敗です。

 ここまできたからには言わせていただきますが、旦那様の復讐はぬるすぎます!

 まず、婚活市場で高い人気を誇る旦那様が娶るところから大間違いです。虚栄心の強い妹だけではなく、多くの女性にとって優良物件すぎですよ。

 性格が悪くて、家計が厳しくて、賭博・酒中毒で、浮気者と婚姻させるくらいはしなくては」


 本当はそれに加え、***(ピー)して、******(ピーーーー)(以下自重)と言いたかったところだわ。


 旦那様は私のマシンガントークに少し混乱していたようだけど、一応納得できたみたい。


「あ、ああ、なるほど?? 話を戻すが、償いの件はどうしようか」


「償いの必要はありませんが、旦那様のためには必要そうですよね……

 ならば、状況も落ち着き、マナーも身についたため、旦那様に恥をかかせることもありませんし、そろそろ我が家でパーティーを開きましょう。

 それから君と旦那様では寂しいですし、この機会に名前で呼び合いましょう!

 そして心の準備もできたので、今夜、初夜のやり直しでもいたしませんか?」


「……こんな私とこれからも夫婦でいてくれるのか。やり直させてくれるのか。なんて優しいんだ。本当に嬉しい、ありがとう。

 だが償いがそんなことで良いのだろうか」


「私が今一番求めていて、これからの私達にとっても大事なことですもの。

 では、私は今夜の準備がありますから、失礼いたします」


 まさかこんなすれ違いがあったなんて驚いたけど、これからは両思いのラブラブな、今よりもっと幸せな新婚生活にしていくのよ!!

 もちろん私がこんな素敵な人に恋してないわけなんかないんだから、あとは……!!



読んでくださりありがとうございました。


いいねや感想、ブクマ、評価など反応いただけると嬉しいです。


↓裏設定(読まなくても問題ありません)


夫: 侯爵からは何度も立ち上げた商会を潰されかけて、暗殺者も差し向けられたが、侯爵の関与はもみ消され、のうのうと暮らしている様子を見て、憎しみを強めていた。

実は侯爵本人相手なら結構残虐なこともできた男。(妹なら無理)


妻:夫とは対照的に、環境のせいもあって気に入った相手にしかあまり優しくないタイプ。実は金と時間と健康と自由と権力を得て、継母と義妹には復讐完了している。この後、社交界の華として名声すらも得る女。


もしかしたらその他情報を活動報告にそのうち書くかもしれないです。




本作とは少し雰囲気が変わりますが、5分以内に読める2000字程度の短編ですので、少しお時間ありましたら、こちら↓もぜひ読んでくださると嬉しいです!

「虐待赤ずきんと人食い狼」https://ncode.syosetu.com/n9019gu/

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