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「医者! 医者を呼んで!!」
陣痛の痛みにうなされながら、シエナが叫んだ。オレンジは突然の出来事に一瞬身体が固まったが、すぐさま屋敷のメイドを呼び、出産の準備と医者の手配をするように伝えた。オレンジとメイドがシエナの身体を支えて床に下ろし、そのままソファにもたれかからせる。違う部屋では産婦人科へ電話が行われ、また別の部屋では、自宅出産のためのお湯たきが始まっていた。
シエナの額に浮かんだ汗を拭き取りながら、オレンジは陣痛の痛みにうなされるシエナの手をぎゅっと握りしめた。時々シエナが痛みのあまり意味不明なことを叫び、一瞬気を失ったかと思いきや、再び痛みで意識を取り戻し、叫び声を上げる。その繰り返しだった。
そんな永遠とも感じられる一時間を経て、よういやく屋敷に産婦人科医がやってくる。お医者さんが来てくれたわよ。オレンジの声かけにシエナが反応し、メイドに案内されて書斎に入ってきた医者へと顔を向ける。その医者の顔を見て、シエナは痛みにうめきながら声を上げる。
「工場長ですよね? なんで、産婦人科医なんかやってるんですか?」
「工場経営とタロット占いだけでは生活できないので、副業として産婦人科医をやっているんです。まあ、今はそんなことを話している暇はないです。早速お産の準備を始めますよ」
工場長が要領よくお産の準備を整えていく。テキパキとメイドたちに指示を出し、オレンジにはシエナの手を握って励ますように依頼した。シエナが陣痛の痛みで再び叫ぶ。オレンジがラマーズ呼吸法をシエナに促し、シエナが三拍子のリズムで呼吸をする。
陣痛が始まってから何時間も経ったが、なかなか子供は産まれてこない。しかし、それでも長い長い時間がをかけてようやく、双子のうちの一人の頭が見えてくる。
「もう少しよ、シエナ! 頑張って!!」
オレンジの手を握りしめる力が強くなる。汗が滲んだ手と握る力からオレンジにもシエナの苦痛が伝わってくる。産まれますよ! 工場長の声が叫んだ。その声を合図にシエナがぐっと歯を噛み締め、身体全体に力を入れた。
そして、緊張感漂う部屋の中で、赤ん坊のけたたましい声が響き渡った。それからシエナは再び全身に力を入れ、勢いそのままに双子のもう一人を産み落とす。先ほどとは違う赤ん坊の声がもう一度部屋に響き渡り、シエナはその産声を聞いた瞬間、アドレナリンによって麻痺していた今までの疲れが一気に襲ってきた。
「シエナ! 産まれたわ!」
工場長とともに双子の赤ん坊を抱きとめたオレンジがシエナに呼びかける。
「元気な女の子と男の子と……それから……」
オレンジが少しだけ戸惑いながら、シエナの横へ歩み寄って告げる。
「それと……たくさんのひまわりの種!」
どうしたらいい? オレンジが羊水で濡れた両手いっぱいのひまわりの種をシエナの顔に近づけ、尋ねる。シエナは焦点の定まらない目でじっとオレンジの顔と、それから自分から産まれたたくさんのひまわりの種へと視線を移す。
「に……に……」
「に?」
「庭に……埋めておいて……」
それだけを言い残し、シエナは疲れのあまり気を失った。部屋の中には、新しい二つの生命の産声が響き渡っていた。




