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オリーブの葬儀は、半透明の月が浮かぶ、澄んだ青空の下で行われた。
漆黒の喪服に身を包んだシエナとオレンジは何の言葉も交わさないまま、ゆっくりと腰をかがめ、すみれの花を棺桶に入れられたオリーブの胸にそっと置いた。オリーブは両手を胸の前で合わせ、肌は死人とは思えないほどの薄い桃色をしている。オリーブが入れられた棺桶は薄紫色のすみれの花がいっぱいに詰められていて、オリーブの肌の色と残酷なほどに素敵なコントラストを醸し出していた。風に吹かれ、オリーブの胸に置かれたスミレの花が一輪、オリーブのお腹の上へと飛ばされる。オレンジは再び腰をかがめて、風に飛ばれた花を手に取り、もう一度オリーブの胸の上へとそっと置いた。
それからオレンジは、じっと姉の姿を見つめる。毎日顔を合わせ、くだらないおしゃべりをしていたオリーブの姿が頭の中で再生される。オリーブと最後に交わした言葉は何だろう。自殺した当日の朝に書斎で顔を合わせた時? ティールと地下室へと向かうときに、廊下ですれ違った時? しかし、そのどちらもオリーブと交わした最後の言葉だとはどうしても思えない。地下室で感じた理由のない焦燥感ともやもやと同じ感情が、オレンジの胸の中で渦巻いていた。
オレンジは隣を向く。横に立っていたシエナはハンカチで両眼を押さえながら、静かに泣いていた。啜り泣く声が、高く澄んだ青空へと溶け込むように消えていき、晴れた青空のあちらこちらに小さな筋雲を作っている。オレンジは悲しみに打ちひしがれる姉の腰にそっと手を回し、身体をくっつける。シエナの身体の温もりを感じながらも、オレンジは涙を流すことなく、すみれの花に埋もれたオリーブの姿を見続けていた。
葬儀に参加していたスプルース男爵が近づいてきて、シエナたちにお悔やみの言葉を投げかけてくる。スプルース男爵の頭部はあの後も結局見つからず、今の彼は首無しの人間としての生活を送っていた。顔がないため、スプルース男爵が悲しんでいるのか、自分たちを憐んでいるのか、オレンジには判別がつかない。ただ、彼がオリーブが最期に言葉を交わした人間が彼であると考えただけで、言いようのない負の感情が心の中で渦巻いていく。しかし、いつもなら皮肉という言葉で吐き出していたその感情を、オレンジはぐっと飲み込み、嘆き悲しむシエナに代わって男爵に葬儀へ参加してくれたことへの感謝の言葉を伝えた。
男爵は姉の横で毅然と振る舞うオレンジをじっと見つめた。それから彼女の身丈には合わない大人の影を一瞥した後で、そのまま姉妹の前から立ち去っていく。その入れ替わりに葬儀屋数人がやってきて、ゆっくりとオリーブが入った棺桶へと近づいていく。そのまま全員でオリーブの入った棺桶を持ち上げ、そのまま屋敷へと運び入れていく。棺桶がオレンジの横を通り過ぎる時、かすかにすみれの心地よい香りが彼女の鼻をくすぐった。
『よかったね、お別れの前に自分の気持ちをきちんと伝えることができて』
聞き覚えのある声。オレンジが声のする方へと顔を向けたが、そこには屋敷の漆喰の壁があるだけだった。これはいつどこで聞いた声だろう。オレンジのそんな疑問は、澄んだ青空へと吸い込まれ、消えていった。




