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聖女ミクリア・カチュアシリーズ

報われぬ生者の憎悪

作者: リィズ・ブランディシュカ
掲載日:2021/10/13



 その憎悪は、全てを燃やし尽くす炎だった。

 少女は瞳に憎しみをたたえ、この世の全てを壊し尽くす事を誓う。


 愛など忘れた。

 絆など捨てた。

 希望など不要。

 清廉など塵芥。


 少女はどこまでも憎悪と共に在り、そして死すべき時まで憎悪にまみれて生き続けた。

 安寧はなかった。

 少女が安らぐ時は、全ての命が終わる時か、少女の復讐が道半ばで途切れる時のみ。




 とある村に、一人の少女がいた。

 その少女は、何の変哲もない普通の村娘だった。

 面倒見がよく、ほんの少し人より健康で体が丈夫である。

 ただそれだけの、普通の……。


 しかし、普通の人間に必ず普通の人生が用意されているとは限らない。


 村の外で活動的になった魔物の群れ。

 その脅威によって、少女の村は一夜にして壊滅した。


 それが、ただの意思なき生物による災いだったなら。

 少女は、一時悲嘆にくれるものの、やがては前を向いて生きていたかもしれない。


 しかし、真相はそうではなかった。

 少女は、魔物の群れを操った人間に復讐を果たす事に決めた。


 かつて普通に生きていた少女は、普通に生きるはずの余生を手放し、激動の中に身を置くことになる。

 もっとも忌むべき存在、魔物を操る少年を味方につけてまで、仇を討った少女。


 彼女は、そこで復讐の道を引き返してもよかっただろう。

 しかし、歩き続けた。


 背後で村の襲撃を計画した人物。

 聖女と呼ばれる尊き存在。

 少女にとっては忌むしかない不幸。


 神出鬼没なそれを追いかける少女は、まぎれもない復讐人へと変貌していった。

 そして、長い旅路の果てに、全てを対価にさしだして仇を討った後、少女に残されたものは何一つなかった。


 己の命さえ。


 復讐を終えた後、憎悪を失った少女の瞳には何が映っていたのか分からない。

 ただ、一つだけ確かに言える事は、世界をよりよくする機会を彼女が奪ったという点だけ。


 聖女によって善なる世界へと生まれ変わるはずだった、その世界は混沌にまみれ混乱の渦にのまれていく。


 多くの犠牲が出て、多くの者が涙した。


 憎悪は憎悪を呼び、人々の心につめを立ててかきむしる。


 けれどもその憎悪を、亡き復讐鬼にぶつけようとしても、それは叶わぬ行い。


 後の世に、復讐者はいないのだから。


 曲がりに曲がり、淀みに淀み、汚れに汚れた憎悪が行きついたのは禁断の理。


 死者蘇生の技術だった。


 伝説の復讐鬼は、蘇る。


 けれど生者の想いが報われる事は永遠にないだろう。


 なぜなら、たとえ目標が復讐であっても、一つの人生を生きぬき、全てをやり遂げたそれは、もはやただの抜け殻で、なにものでもないからだ。



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