7人のインスタント
「ジュギィィイイイ!」
俺は目の前に出現したアニメのヒロイン、ジューギスティヌ・オルディット、愛称『ジュギー』のその姿に狂喜した。
「ジュギィィィィィ~!」
好きぃぃぃぃ~! と言ったつもりの言葉までジュギーになってしまった。
現れたばかりのジュギーはその場でよろめいた。
そうだ。ジュギーは病弱なキャラなのだ。
その身に纏った鎧が重いのか、立っているのも辛そうだ。露出が多く、鎧の面積なんてほとんどないのに。
「……私を召還したのは、あなたですか?」
ジュギーが言った。アニメそのままの、あの声優の声だった。
「ふぁっ……ふぁい! ぼ、私です!」
俺が頷くと、ジュギーはふっと笑って言った。
「ありがとう。あなたのお蔭で現世に転生することが出来ました」
えっ?
て、ことは……
これはインスタント恋人の偽物ジュギーじゃなくて、本物のジュギーってこと!?
感動に感電したようにビリビリ震えながら物凄い笑顔を浮かべているであろう俺の隣で、もう1人の俺……じゃなくて竹田ゆう子がジュギーを見つめている。
俺はゆう子に言った。
「どうだ? 世界一の美女を目の前にした感想は?」
ゆう子は答えた。
「マンガじゃん」
ムカついたので俺はリアルな人間の美少女を作ることにした。浜○美波だ。
頭に完璧な浜○美波をイメージしたつもりだったのだが、なんだかデッサンが狂ってしまった。左右非対称の浜○美波が産まれてしまった。しかも笑顔をイメージしたのが悪かった。表情が笑顔のまま固まってしまっている。
「美波です。ゆうじさん、好きだっちゅー!」
その声もなんだかおかしい。何かみたいだ。何だろう。げっ歯類っぽいというか……。
考えたら俺はテレビをあまり観ないので、浜○美波の声をよく知らないのだった。
「失敗だ!」
懲りずに続けて齋○飛鳥を作った。これなら大丈夫だ、美少女に罵倒されるのが好きな俺だから声もよく覚えている。
しかしいくらなんでも顔を小さくしすぎた。さすがにここまで小顔だと人間ではない。
リアル美女は諦め、俺は次に当初の計画通りフレディーを作った。
ムキムキボディーに仮面をつけた怪しげな女戦士が産まれた。
必殺技のムチムチ・アックスもちゃんと使える。よく考えたら鞭なのか斧なのかよくわからない技だが。
これで五人。
あと二人がどうしても思い浮かばなかったので、おじいさんとおばあさんを作った。
老人ばかりのこの未来の世界に解き放つならば老人が最も自然であろうと考えたのだ。
名前もちゃんと付けてあげた。
「けんしろうじゃ」
「ナオコでぇす」
これで7人の戦士が集まった。
使えそうなのはフレディーとジュギーぐらいだ。
これなら五つは肉にして食ったほうがよかったかなとも思ったが、産んでしまったものはしょうがない。
「インスタントホームを強盗する……のですか?」
俺の話を聞き、ジュギーが言った。
「そうだ。ついでに食糧も」
俺が言いかけた言葉をジュギーは遮った。
「ダメです! そのような悪行、この私が許しません」
そうだった。ジュギーは正義を貫く病弱な剣士。盗みなんかするわけがないキャラだった。
ということは、これはやはり、本物? 本物のジュギーなのでしゅかー!?
「アンタ……」フレディーがジュギーを睨んだ。「ゆうじ様のこと、愛してないの?」
「アタシは愛してるでちゅー!」浜○美波が言った。よく見ると歯が前歯2本しかなかった。
「愛! なんと安っぽい言葉であることか!」齋○飛鳥が言った。顔が小さすきるぶん声もめちゃめちゃ小さかった。
「しかし……家は……欲しいのう」けんしろうがぷるぷる震えながら言った。
「こう寒いのではのう。凍えてしまうぞい。特にワシら老人はのう」ナオコさんがお茶を啜りながら言った。
「それならば我らで力を合わせて家を建設しましょう」ジュギーが言った。
涼しいその声に俺は感動してニコニコと笑い、言った。
「面倒臭い。インスタントで簡単に建つならそのほうがいい」
「想像力の爆発を見よ!」齋○飛鳥がよくわからないことを突然言った。
「行きましょう、ゆうじさん!」ゆう子が音頭を取った。「あなたの為ならこの命、惜しくない!」