美味い飯が食えるんだ……やっと。団長の飯なんか二度と食いたくない
仕事は仕事だ。例え面倒くさいとしても『ポイズ』を稼ぐ為には必要不可欠なんだよな……。
『何で俺が『ガキ』二人のお守りをしなくちゃいけないのかね?憂鬱……』
『リュウセイ。稼ぐ為だろーが。最近依頼も少ないし、おれらがどんだけギリギリの生活してんのか分かってんの?』
久しぶりに『団長』として動くはめになったリュウセイは少女から依頼された仕事内容を確認しながら、エンザの煩い小言を聞きながら準備をしていた。
『おい。リュウセイ!聞いてんのか?ああん?』
『……エンザ兄さん。煩いよ。黙ってくれないかな?読書の邪魔なんだけど』
『ヒユウ、お前何、本なんか読んでんだよ。仕事の用意しろよ。久々に美味い飯が食えるんだ』
リュウセイとヒユウはエンザの発言を聞いて、互いに視線を合わせた。そういわゆるアイコンタクト。『ああ、そういう事ね』と全て理解した二人は、エンザに気付かれないように、溜息を落とした。
ヒユウは、この先の展開がどうなるのかを予測しながら、知らない振りをし、再び本を読み始めた。用意をしろと言われたのに、何故読書を再開したのかと言うと、エンザの一言がきっかけで、リュウセイが荒ぶるのを理解しているからだ。
『な、エンザ?一つ聞きたいのだけど、良いかね?』
『あ?なんだよ。言いたい事があるならさっさとしろよ』
『オーケオーケ。じゃあストレートに』
スウと大きく息を吸う姿を見ていると、不思議だ。機嫌が悪いはずなのに、落ち着いている雰囲気を醸し出しながら、その瞬間を待っているエンザにトドメをさそうとしているなんて、誰も想像しないだろう。
――ヒユウを除いて……。
『美味い飯か。お前がいつも食べている飯はまずいと言う事かね?』
悪魔のように、ふふふと微笑みながらも、言葉はトゲがある。ヒユウは心の中で『また始まった』と呟きながら、小説の世界に没頭する準備を始めた。こうなると、リュウセイは止まらない。
地雷を踏むのが上手な兄を馬鹿だな、と思いつつも、楽しんでいる弟でもあった。
『は?あんなの食い物じゃねぇだろうが』
切れたように、当たり前の言葉を口走ると、続きの言葉を吐こうとしたその瞬間……リュウセイが遮るように、口を開いた。
『へー。俺の飯って食い物じゃないんだねー、へー』
『……あ(やべぇ)』
『心の準備はいいかい?エンザくん』
『いや……あのさ、これは違うんだ』
『ふうん?何が違うのかなー。団長『リュウセイ様』に教えてもらえるー?』
そう。この世には言っていい事と悪い事がある。その一言を呟いた瞬間に待っているのは『地獄』一択。それに気付こうとしない兄エンザを哀れに思いつつ、今日は何時に収集がつくのだろうかと、頭の片隅で考えながら、額に手を当てた。
『……頭痛い』
ヒユウの呟きは、風と共に消え去りながら、別空間を作り上げていた。
勿論、読書を続けている。
『物語は現実とは違う』
リュウセイの逆鱗に触れた、エンザの叫び声をBGMにしながら、楽しむ事が出来るのはヒユウだけかもしれない。