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能力

 ムシャクシャする感情は捨てて、再びゴロンと寝転がった。昔から不思議に思う事があるのだが、何故僕の涙は右目からしか流れないのだろうか。周囲の人間達にはいつも奇妙だと(ののし)られて初めて知ったあの頃を思い出す。


 僕の中では当たり前だと思っていた事が、周りからは反対の目で見られていたなんて気付く事もなかった幼少時代。それでもあの出来事があったからこそ、色々理解も出来たし、把握もした。当時は悲しくて泣き虫だったけど。枯れる程、涙を流したせいだろうか、慣れてしまった自分がいる。


 フッと哀しく自傷気味に微笑むと、体と意識が分裂して、走馬燈のような映像を見せてくれる。


 (何で今更、この感覚がよみがえるのかね)


 大人になるにつれて、成長するにつれて、正常になったはずなのに、またこの『記憶の断片(だんぺん)』を見てしまうなんて。五歳からパタッと感覚が消えて安心していたのに、どうしてだろうか。


 ――何かの予兆。


 ◇◇◇◇◇


 カキーンカキーンと金属を叩く音と一人の男の声が、新しい音楽を創り出す。それはそれは、楽しく愉快で、僕からしたら『腹立たしい』くらいの自由な曲。嫉妬なんて言葉で終わらせたくないんだ。それほど、自分にないものを持って人生を楽しんでいる、そうとしか見えないからね。


 『ねぇねぇおじさん』

 『……』

 『あ!間違えた。お兄さん(・・・・)

 『お前わざとだろ』

 『えーひどーい』

 

 エンエンと嘘泣きをする少女の姿を呆れた瞳で傍観する男の名はリュウセイ。深いため息を吐きながら『仕方ねぇな』と呟くと、僕と同じように右手で指を鳴らす。するとどうだろいうか、彼の周りの金属とフラスコが踊り出し、物語をお披露目する。まだ声を持たないそれ(・・)達に魂を吹き込むかのように、今度は左手で指を鳴らす。その音を聴いた瞬間、形を変えながら、声を創り出す。


 『めんどうだから、これでも見とけ』

 

 その一言が合図なのだろう。金属もフラスコ達も、激しい破裂音を鳴らしながら砕け散る。そして新しい姿へと再生されるんだ。


 『え……!?何これ』


 初めて見る光景に、嘘泣きをしている事も忘れてしまった少女を意地悪そうな目で見つめながら、ニヤリと笑う。


 『おーう。エンザ、ヒユウ。後は頼んだぞー。そのガキ黙らせろー』

 『はぁあああ?何でおれがお守りしなきゃいけねぇの?』

 『……エンザ兄さん。口塞いでいいかな?』

 

 ガラスと金属から現れたのは二人の少年だった。リュウセイがどんな『マジック』をしたのかは不明だが。僕と同じ力を持っている事は明白だ。僕は右手で空間の裂け目を創り出し、左手で修復する。でもこの男は、また違う能力を持っているみたいだ。


 リュウセイが創り出したのか、呼び出したのか分からないけど。


 感情的な兄のエンザと冷静的な弟のヒユウ。二人の平行線な喧嘩は、まだ続いている。

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