表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/80

二人の涙

 現実から逃げるように、いつの間に夢の世界へと逃亡をしていたようだ。夢から覚めた脳みそは、まだ上手く機能出来ていないみたいでボーッとしている。少し『痺れ』があるような感じがする。


 「……気分わりぃ」


 こんな事、初めてなのかもしれない。自分の創造した夜は絶対的な心地よさを保証していたのに、どうしてだか、吐き気を覚える程『(おぞ)ましい』ものに思えて仕方なかった。


 「チッ」


 負の感情に縛られた自分を吐き捨てるように、舌打ちをした。感情を失いつつある自覚はなかったはずなのに、無意識に感じているのかもしれない。自分の中のプラスな感情が消えていっている事に……。


 (なんなんだよ、凄いイライラする)


 複数のもので成り立っているバランスが崩れてしまうと、その先に待つものは、果てない闇なのかもしれない。そう考えると苛立ちとは別の感情が沸き上がってくる。そう、これは『恐怖』だ。


 現実から逃げるように、(うずくま)るとふんわりと優しい風が包み込んでいく。その風の音の中に懐かしい声の欠片が聞こえた。微かに覚えている『完全に失っていない』記憶。あの時のユウと名乗る女の子が(そば)で微笑んで『大丈夫だよ』と僕の荒んだ不安定な心を癒そうとしてくれる。


 (そんな訳ないのに。あの子(・・・)がここに戻ってくる事なんか……)


 幼子(おさなご)のように泣きべそをかけたらどれだけ楽だろうか。そんな事を想いながら、口元は微笑む。そして瞳からは一粒の涙が流れ落ちた。


 まるで孤独になりたくないと助けを求めるように、彼女に(すが)り付くような涙だった。


 ◇◇◇◇◇


 私は貴方の傍にいる。例え貴方が私を忘れてしまっても、必ず『(むか)え』に行くから。


 昔は正反対だったのにね。私が泣いてばかりで、それをサポートするのが貴方の役割だったのを覚えている?


 同じ事の繰り返しの中で違う運命を選ぼうとしている私達『二人』


 私の未来は明るく、貴方の先は闇なのかもしれない……でもね。


 貴方がプラスな感情を失う事と同じように、私もある感情を失ってきているの。


 その事実に気付いていないから、余計、悲しく、苛立たしいのかもしれないね。


 ――なんで自分だけなんだって。


 それは違うよ。


 貴方だけじゃないから。


 『私も貴方と同じなのよ?アズマ』


 ◇◇◇◇◇


 右目から流れる僕の雫と左目から溢れる君の無垢さが混ざり合う事なんてない。いつもすれ違い通信。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ