二人の涙
現実から逃げるように、いつの間に夢の世界へと逃亡をしていたようだ。夢から覚めた脳みそは、まだ上手く機能出来ていないみたいでボーッとしている。少し『痺れ』があるような感じがする。
「……気分わりぃ」
こんな事、初めてなのかもしれない。自分の創造した夜は絶対的な心地よさを保証していたのに、どうしてだか、吐き気を覚える程『悍ましい』ものに思えて仕方なかった。
「チッ」
負の感情に縛られた自分を吐き捨てるように、舌打ちをした。感情を失いつつある自覚はなかったはずなのに、無意識に感じているのかもしれない。自分の中のプラスな感情が消えていっている事に……。
(なんなんだよ、凄いイライラする)
複数のもので成り立っているバランスが崩れてしまうと、その先に待つものは、果てない闇なのかもしれない。そう考えると苛立ちとは別の感情が沸き上がってくる。そう、これは『恐怖』だ。
現実から逃げるように、蹲るとふんわりと優しい風が包み込んでいく。その風の音の中に懐かしい声の欠片が聞こえた。微かに覚えている『完全に失っていない』記憶。あの時のユウと名乗る女の子が傍で微笑んで『大丈夫だよ』と僕の荒んだ不安定な心を癒そうとしてくれる。
(そんな訳ないのに。あの子がここに戻ってくる事なんか……)
幼子のように泣きべそをかけたらどれだけ楽だろうか。そんな事を想いながら、口元は微笑む。そして瞳からは一粒の涙が流れ落ちた。
まるで孤独になりたくないと助けを求めるように、彼女に縋り付くような涙だった。
◇◇◇◇◇
私は貴方の傍にいる。例え貴方が私を忘れてしまっても、必ず『迎え』に行くから。
昔は正反対だったのにね。私が泣いてばかりで、それをサポートするのが貴方の役割だったのを覚えている?
同じ事の繰り返しの中で違う運命を選ぼうとしている私達『二人』
私の未来は明るく、貴方の先は闇なのかもしれない……でもね。
貴方がプラスな感情を失う事と同じように、私もある感情を失ってきているの。
その事実に気付いていないから、余計、悲しく、苛立たしいのかもしれないね。
――なんで自分だけなんだって。
それは違うよ。
貴方だけじゃないから。
『私も貴方と同じなのよ?アズマ』
◇◇◇◇◇
右目から流れる僕の雫と左目から溢れる君の無垢さが混ざり合う事なんてない。いつもすれ違い通信。