魂
人間の記憶って本当に正確なのかな?余計な事を覚えて、膨らませて口にしちゃうのは勿論、都合が悪いと消しちゃうんだよね。矛盾の中で生きている僕達に本当の意味の『正確さ』って必要ないんじゃないかって思ってしまう。昔の僕は太陽が嫌いではなかった。どうしてだか、いつの間にか『嫌い』になっていたんだ。その嫌いになるきっかけがあるはずなのに……何処を探しても見つからない。
――まるで宙に浮いているみたいだ。
『ドクン』と胸の奥底から血が滲んできて、心臓を爆発させようとしている。まるで『病』に蝕まれていくようで、嫌悪感を感じてしまう。そこでハッ、と我に返るんだ。
(まだ……嫌悪感、この感情は薄れていないのか)
現実から逃げるように、頭をボリボリと掻きながら、見て見ぬふりをしようとしたんだ。表情から滲むものは『痛み』なのかもしれない。
(なのに……どうして……)
続きの言葉を心の中でも現実でも口にする事が出来ない。勿論音にするなんて無駄な足掻き。嫌悪感なんて感情を一番捨てたいと思った。昔から昔から、ずっと……。なのに一番欲しいものが僕の掌から水が毀れるように堕ちていって、欲しくないもの程、残したくないもの程、僕の感情の軸になるなんて想像もつかなかった。
憎しみ、悲しみ、歯がゆさ、痛み。そんな負の感覚は、全て僕を作り上げている人格であり、感情の欠片。その反対のものには選ばれず、皆逃げていった。愛情、優しさ、慈しみ、憂い。僕は本当の意味で『人』ではなく『悪魔』になったのかもしれない。
――ある意味『殺人鬼』になれるかもしれないな。
僕の創り上げた『夜の世界』は、居場所は居心地のいいもののはずなのに、感情が乱れて、闇に染まってしまいそうで落ち着かない。何が原因なのか分からず、苦しい。
コボッと息が吸えない海の中で溺れているみたいだ。空気を吸いたいのに、生きたいのに、それが全て消滅して、僕の足を飲み込むのは深い深い闇の世界。
自分の感情に溺れるってこんな感覚なのかな?初めての感情だから、名前をつける事も出来ないんだ。
(……でも、どうして懐かしいんだろう)
遠い昔、同じような感情を抱き、そんな僕を支えようと、誰かの優しい温もりが体を包み込んだ、そんな映像が流れている。
◇◇◇◇◇
遠い昔、ある女の子と男の子がいました。
二人は別々の名前を持ちながら、出会ってしまった同じ『魂』
昔では『ドッペルゲンガー』と呼ばれているみたいですが
姿も、形も、性別も、声も、何もかも違う二人には、その用語は相応しくないのです。
女の子は言いました。
また出会えると。
同じ魂を半分こ、している事に気付いているのは女の子だけなのでしょう。
時々いるのです『前世の記憶』を持ち生まれてくる子供が……。
そして本当の名前も知っているのでしょうね。
二人は誓いました。
失い続けても、約束は果たそう。
ユゲルとして。
◇◇◇◇◇
風が吹き荒れる、僕の心の奥底にある、思い出してはいけない映像が壊していく……。