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太陽と月

 太陽の光に照らされながら、逃げようとする僕の名前はアズマ。苗字のように思えて、名前なんだよね、これ。


 「眩しすぎ」


 溜息を吐きたくなる程、嫌になる。僕は太陽の光が大嫌いなのだからさ。その反対に月夜が凄く好きなんだ。目も眩しくない、痛くない。(ほの)かに香るキンモクセイのいい匂いが広がりながら、僕達の望む『夜』が始まりを告げるんだよ。


 幾億の時が過ぎ去りながら、人は肉体、精神、沢山のものを変えていった。本来なら大切にしないといけないものを捨て、その代わりに、違うものを取り込む。その繰り返しで人は感情を少しずつ失いつつあるのが現状だ。


 「消えてく感覚ないんだけどなー」


 光から逃げきる事が出来た僕は、右手でパチンと指を鳴らすと空間の歪みを創り出し、その中へと入り込む。


 「太陽なんか嫌いだね。僕はいつもの特等席に行くんだ!」


 その声は先ほどまでよりも喜びを含ませながら、指を鳴らした右手で空間の亀裂をなぞると、最初から何もなかったように、消え去り『夜の空間』が広がった。


 「やっぱ、ここは落ち着くよ」


 暗闇の中にボンヤリと映り込むのは、沢山のキンモクセイ達。赤色、黄色、紫、赤。複数の色彩で彩られる『樹木(それ)』は楽しそうに微笑みながら輝いている。


 昔の人の残した論文を読んだ事もあるけどさ。昔は綺麗な緑があって、太陽と月は背中合わせだったんだとさ。一つの空間で共存しているなんて、今の状況を考えると夢物語みたいでさ。少し羨ましくなるんだよね。


 ――太陽の光を浴びるのは苦痛だけどさ。


 ゴロンと寝転がると、真っ黒だった地面に沢山の草が現れ、温もりを与えてくれる。微かに匂うのは『自然の香り』


 基本『キンモクセイ』の香りで埋め尽くされているから、他の匂いなんて何も感じないだろうけど、僕には……僕だけには感じる事が出来るんだ。不思議なんだけど、子供の頃にさ、偶然出会った女の子をここに招待したんだ。その子は初めて見るような瞳で、キラキラ輝かせて、質問ばかり投げかけてきたのを今でも覚えてる。


 (不思議だったよな。夜を失った代わりに自分で夜を作れるシステムなのに。何であの子は何も知らなかったんだろ……)


 幼い頃は少し変わった子だなと感じるだけで、違和感を感じるまではなかった。それだけ僕自身が子供だったって事なのかもしれないね。大人になって気付くって事は、の成長だけではなく心もきちんと成長している証なのかも、なんてプラスに考えながら、口元を(ほころ)ばした。


 ◇◇◇◇◇


 『あたしの名前はユウ』

 「僕の名前はアズマ」

 『二人の秘密だよ?』

 「うん」

 『また会えるから』

 「……」

 『男の子なんだから泣いちゃダメだよ?』

 「僕の方が年上なんだから……泣くもんか!」

 『うん』

 「うん」


 ――ユゲルの名を忘れないでね。



 ◇◇◇◇◇




 ――なんだか懐かしい声が聞こえた気がした。

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