美しい夜空とキミへ誓う約束。
その後もパーティーは盛り上がり、有栖の誕生日では毎年恒例だという七夕の準備を始めていた。
「それでハ、みなサん短冊に願い事を書イてくださいね!」
エミリーさんの掛け声と同時に、皆真剣な面持ちで短冊に願い事を書き始めた。
そう言えばまともに七夕やったのって幼稚園くらいだったかな?
俺と美夜、それと昌宏さんと美代子さんでごちそうを用意して……楽しかったなぁ。
いかんいかん、前に進むって決めたばっかじゃないか!気を抜くとすぐこれだ。
「できた!」
「ん、美夜は何て書いたんだ?」
美夜がじゃじゃーんと自信満々に短冊を突き出す。
【翔吾とみんなとずっと一緒に居られますように】
少し汚い字でそう書いてあり、思わず笑みがこぼれる。
「なんていうか美夜らしいな」
「えへへ……!」
俺につられて嬉しそうに微笑む。
「私もできました!」
美夜に続いて詠も立ち上がる。
「私の願いはこれ……」
ちょうど聞こうと思って声を掛けようとしたタイミングで、自分から見せてきた。
美夜と比べてかなり綺麗な字で書いてある。
【学校に行けるようになって一人でも友達ができますように】
「……頑張れ、詠ならきっとできる!」
「うん……!」
つい嬉しくなって頭を撫でると、双葉先輩がジト目を向けるので、バツが悪くなってすぐに手を離す。
「……せ、先輩も書けたんですか?」
「ええ、ばっちり」
【病院の子達がはやく元気に退院できますように】
「先輩らしい素敵な短冊ですね」
善人感溢れる願い事に少し心苦しくなりつつも、俺もいつかそうなれるように頑張ろうと思う。
「ちなみに僕も書きましたよ、翔吾さんはまだなんですね。遅漏は捨てられますよ」
【自力で自重できるようになってクラスの女子からモテたい。けど下ネタ言いたい】
「お前は相変わらずブレないな……それに随分と欲望に忠実だ、自重がどうこうって書いといて遅漏とか言うのはどうなんだ?」
「この短冊は僕の中のジレンマを忠実に再現しているんです。下ネタ言いたい……でも女子に嫌われる……自重しないと……でも言いたいって感じで」
「見れば分かるわ」
本当にこいつと話すと疲れる。
が、俺以外は何を言おうと依然として態度を変えないので無知って怖いと改めて思った。
詠や有栖達は気付いてるだろうけど流してんのかな、壮馬も有栖の前ではかなり自重してるっぽいし俺まで流し始めたらツッコミ不在になるし仕方ないのかもな。
「ワタシもできまシタ!」
「僕もできたよ」
「なんて書いたんデすか!?」
「【有栖とエミリーと幸せに暮らせるように】ってね」
「さすがアナタです!」
「エミリーはなんて書いたんだい?」
「【アナタと有栖とずっと仲良く暮らせますように】って書きましたヨ!」
「さすがエミリーだ!」
こっちも仲睦まじいようで何よりです。
「有栖!いっせーので何書いたか見せ合おうぜ」
「わかった、それじゃあいくよ?」
「「せーのっ!」」
【壮馬くんとずっと一緒に居られて、それでもって最終的には専属の奴隷兼彼氏に出来ますように】
【有栖にいつか本物の指輪渡せますように】
「奴隷は勘弁してくれぇ!」
「え、本物の指輪って……!?」
「なんでもない!」
こっちもこっちで噛み合ってるんだか凸凹なんだか分かんないけどみんな楽しそうで、なんかこういうのってすごくいいな!
よし、俺も何書くか決めた!
「じゃあ皆さん、短冊を笹に飾リましょう!」
各々が、笹の木に短冊を飾り付けられ、色鮮やかに
彩られる。
【翔吾とみんなとずっと一緒に居られますように】
【学校に行けるようになって一人でも友達ができますように】
【病院の子達がはやく元気に退院できますように】
【自力で自重できるようになってクラスの女子からモテたい。けど下ネタ言いたい】
【有栖とエミリーと幸せに暮らせるように】
【アナタと有栖とずっと仲良く暮らせますように】
【壮馬くんとずっと一緒に居られて、それでもって最終的には専属の奴隷兼彼氏に出来ますように】
【有栖にいつか本物の指輪渡せますように】
そして、最後に俺の願い事を飾り付ける。
「そろそろお星様ガ見える頃だと思うノでベランダに出ると綺麗に見えると思いまスよ!」
エミリーさんに言われ、ベランダに出て空を見上げると日が落ちた空に無数の星が輝き、ばっちし天の河まで良く見える。
「綺麗だな!有栖!」
「そうだね、壮馬くん!とっても素敵……!」
「詠さん、りくと、あれが夏の大三角で上からベガで左がデネブ、右がアルタイル。アルタイルが彦星で、ベガが織姫だよ」
「へぇ双葉さんは博識なんですね」
「そのくらいは僕でも知ってますよ」
各々が夜空の景色を眺め、感想を述べ、楽しそうに笑い合う。
色々あったけどこうして皆で綺麗な星空を見れて、今日はなんて素晴らしい一日だったんだろう。
たった数ヶ月でここまで大事に思える人が何人も増えるなんて、俺はきっと出会いに恵まれて生きてきたんだろうな。
「綺麗だね……凄く」
「ああ……こんなに綺麗だなんて知らなかった」
なんかこの状況とてつもなくロマンチックじゃないか?美夜との距離もかなり近いし……ドキドキする。
「翔吾、また来年も絶対一緒に見ようね」
「ああ、再来年もその次の年も更にその次の年もその次も、いつまでも絶対にだ」
「それは流石に約束しかねます」
「ぐはっ……」
ちょっと調子乗り過ぎたか……このまま告白してたら危うくフラれて撃沈する所だった。
「だっていつまで一緒に居られるかなんてわかんないもん……お母さん、お星様からちゃんと私達の事見守ってるのかな?」
なんだそういう意味か。心細く寂しそうで儚げな表情でじっとこちらを見つめている。
前までの俺ならここで一緒に悲しみにくれる事しか出来なかったのかもしれない。
でも、今の俺はもう今までの俺じゃないんだ。
美夜の左手を俺の右手で優しく強く握り締める。
「え……?」
「……あ、あそこで見てるかは分かんないけどちゃんと今も俺と美夜が頑張ってるとこ見ててくれてるから……元気出せよ!」
「そうだね、きっと今も私達の傍で見守ってくれてるよね……それに今は翔吾が、有栖ちゃんが、壮馬くんが、詠ちゃんが、双葉先輩が、りくとくんが居るんだもん……心配する事なんて何にもないじゃない」
美夜の言葉に思わずハッとする。美夜といい、詠といい今日は大切な事を教えて貰ってばっかりだ。
「そうだ、お前も俺もはなから何も心配する事なんてなかったんだ……馬鹿だな俺は。そんな簡単な事にも気付かずに居たなんて。でも美夜のおかげでやっと気付く事が出来た、心からありがとう」
「え、私大した事言ってないんだけどな……でも、悪い気はしないしいっか!」
目を細めて笑う美夜を見て胸の高鳴りが更に加速する。
今すぐにでも告白したい。付き合いたい。後ろめたさを感じる事なく存分にイチャイチャしたい。結婚したい。ずっと一緒に居られる権利が欲しい。
でも今までだってずっとひた隠しにして抑えてきたんだ、この程度我慢できないはずがない。
周りに壮馬達が居るおかげで大勢の前でコクる勇気なんてないびびりな俺は、突発的な衝動に流されずに済む。嬉しいんだか悲しいんだか分かんないけど、多分今はきっとこれでいい。
今日を機に、俺の時間は再び進み始めたんだ。
先に歩み始めた美夜に追いつくまでは当然時間がかかると思う。でももし美夜と同じ場所に立てたと感じたらその時は。
「あ、流れ星……お願いしないと!」
流れ星が見えると、皆は急いで流れ星に向かってお願いを始めた。
いち早くお願いを済ませた美夜が俺に問いかけてくる。
「翔吾はお願いしてないの?」
「考え事してたら通り過ぎてたわ」
「そっか、勿体ない事しちゃったね」
わかりやすい嘘で誤魔化した、いつもは絶対騙せないのにな。
でも勿体なくなんかない。
俺の願いは叶えてもらうモノじゃなくて、俺が自力で叶えないといけないモノだから。
「そう言えば翔吾が短冊になんて書いたか聞いてなかったね、なんて書いたの?」
せっかくだから一応短冊にはちゃんと書いた。
でも叶えてもらうつもりは無い、ただほんの少しだけ自分を勇気づける為に書いた短冊だ。
「なんか結構恥ずかしいな、
【みんなにはやく追いつけますように】
ってな」




