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意外な進展

  岩倉の件が原因で美夜は学校に行けなくなった。

 あんな事があれば誰だって行きたくないだろう。


  人が傷付く姿を見るのは昔から苦手だった。

 だから美夜がもう傷付かずに済むのなら、学校だって辞めてくれたって構わない。将来が困ろうと俺が養ってやる。そのくらいの覚悟はあった。


  だがそれと同時に美夜ともう一度学校に行きたい。

 ちゃんと一度きりの青春を楽しんで欲しい、そんな気持ちが芽生え始めていたのも確かだった。

  普通に友達を作って、部活に入ったりして、授業を受けて。そんな当たり前の日常をまた一緒に送りたいと。


 俺も既に前の学校はやめて、今は別の高校に通い始めている。

  岩倉の件を話してもまともに取り合ってくれない、学校の名誉の為に誤魔化し続ける事しかしない。そんな所にいつまでも居られない。


  でも今の学校は一人一人が中途半端な時期に転校してきた俺を歓迎してくれたんだ。

 みんなともすぐに打ち解け、仲のいい友達も何人かできた。この学校だったらもしかしたら美夜に、楽しい学校生活を送らせてあげられるかもしれない。


  とりあえずこの学校で一番仲のいい親友にこの事を話してみよう。

 きっと親身になって考えてくれるはずだ。


「壮馬、ちょっといいか?」

「んーナニ?」

「俺の幼馴染の話なんだけどさ」

「あぁ、うん?美夜ちゃん! だっけ?」


  一応、壮馬には美夜の事を一通り説明済みでよく会話にも名前が上がる。でも今回は少し普段とはパターンが違うからか緊張している。


「そう、うちの学校に美夜を通わせたいと思って……!」

「マジで!?」

「マジマジ。友達作って欲しいしほら、一度きりの青春だから絶対後悔して欲しくないから。ダメかな?」

「でも翔吾以外要らない! とか言いそうだけど?」

「まあ模範解答だな」

「じゃあ別に要らないんじゃね? オレとしては是非とも仲良くなりたいけど」

「……でも、もし俺が居なくなった時にあいつ一人じゃ心配だろ」

「その年でもうそんな事考えてんの? それに死んだ後の事まで考えてるってほんとお人好しというか……おせっかいな奴だね」

「この年でそんな事を考えるのはおかしい、ほんとにその通りだと思う。

 でも、美代子さんが亡くなった時めちゃくちゃ辛かったんだよ。いつまでもみんなで一緒に居られるって思ってたのにさ。もし美夜が居なかったらきっと耐えられなかった、まあ美夜が居なければ出会ってすらないかもしれないけど。今の美夜には俺と昌宏さんしか居ない、それに美夜自信だっていつ何に巻き込まれるかなんて分からない。普通に考えたらそりゃそんな事あるはずないと思う。でもそのありえない事が起きたんだからそれはありえない事じゃなかったって事だろ?だから心配してんだよ、やっぱり美夜には他の友達が必要なんだって!」

「お前の気持ちはよーく分かった、長文お疲れ!要はオレがお前の保険になればいいんだろ?」

「そう!俺の保険!補欠!いざって時の為に俺は美夜にみんなと仲良くなって欲しいんだ!」

「そんな強調すんなよ……分かった分かった、全面的にオレも協力するから任せろ」

「いつもありがとな、感謝してるぞ、壮馬」

「それはいいけども、その幼馴染ちゃんオレが貰っちゃっても知らないからな」


  冗談交じりにひゅーひゅー口笛を吹き始めるクラスのお調子者。


「壮馬に限ってそれはないな」

「あはは、まあな」


  今爽やかに笑っているこのイケメン。比嘉壮馬は、イケメンなだけでなく人当たりも良くコミュ力も高い上にスポーツも得意。格闘技だかの心得があるらしく喧嘩も強い、らしい。

 聞いた話だから詳しい事は知らないが。


  ただ難点を上げるとすれば、頭が悪い所と金槌な所。それに小さな女の子が大好きな所だ。


  そう、比嘉壮馬はロリコンなのだ。

 年齢は同い年以下、身長は150センチ以下、童顔貧乳でなければほとんど興味を示す事はない。よって、その心配には及ばない。


  今までだって美人で有名な先輩や、学年で一番可愛いと言われる女子も条件を満たしていないという理由で平気で振っているとんでもないやつだ。


「おかえりなさい翔吾」

「ただいま美夜、飯はちゃんと食ったか?」

「うん、食べたよ」


  ぎゅーっと無表情で抱き着いてくる美夜の頭を撫でるとなんとも言い難い感情に襲われる。父性かそれに近いものだろう、庇護欲かな?

  新婚夫婦みたいなやり取りをしているが美夜の家なのにこの家の家事のほとんどは俺がしている。


「ちょっと大事な話してもいい?」

「……いいけど、大事な話って?」

「美夜と一緒に学校に行きたい」

「なんで……?」


  美夜の表情が分かりやすく曇った。

 が、ここでやめるわけにもいかない。


「ああ、どうしても嫌ならいいんだ。でもお前に後悔して欲しくないから」

「後悔? 私は今の生活も凄く幸せだし、昼間翔吾と会えないのはちょっと、いや、結構寂しいけど。LINEとかでも話せるし、こうやって放課後うちに来てくれたりしてるから平気だよ」

「そうか……けど、少しでもその気持ちがあるんだったら俺は力になりたい。強制はしないけど」

「でも、またあの時みたいな事になるかもしれない……翔吾が傷付くとこなんて二度と見たくない」


  あの時、忘れもしない岩倉の事件だ。


「前も言ったけど美夜の為なら平気なんだよ。むしろ肩代わりできるなら喜んで罰を受ける。それに今の学校はみんな優しい、もし居たとしても今度は俺がずっとそばに居る。二度と目を離したりなんかしない、ずっとお前だけを見てる。だから少しずつでもお前と一緒に前に進みたい」


  綺麗事のように聞こえるかもしれないが、この気持ちは紛れもない本心でどうしてもこの気持ちを伝えたい、叶えてやりたいんだ美夜の為に。


「翔吾ちょっとキザ……でも翔吾がそこまで考えてくれてたのは凄い嬉しいよ。また一緒に翔吾と学校通えるなら私も通いたい。その代わりずーっと一緒に居て私だけ見てなきゃダメだからね」

「約束する、絶対に傷付けさせない」

「泣かないで? そんなんじゃ私の事守れないよ」


  簡単に話進んじゃったけど頑張ってちょっと背伸びしたセリフ言ったんだ、もうちょっと葛藤があっても良かったんじゃないかなって思う。もちろん凄い嬉しいんだけどね。まあでも美夜が幸せならOKです。


 転校の事は既に美夜のお父さんの昌宏さんに話してあった事もあってスムーズに進んだ。


 教室のドアがガラリと開き、見慣れた黒板の前に天使のように可憐な少女が現れ担任の紹介が始まる。


「今日は転校生が来ています。えー突然の転校でしたがまあ、みんな仲良くしてやるように」

「姫川美夜です、よろしくお願いします」


 転校生の挨拶から、数秒遅れて大きな歓声が上がる。

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