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院内の悪魔

  部屋を出た後も、微笑ましくも妬ましい会話が聞こえてくる。

  こんなん見せられると俺も彼女が欲しくなってくる。余談ではあるが、俺は年上がタイプなのだけど、あ、もちろん年下も好きだぞ。


 それでだ、先輩の彼女とか欲しいなーなんて思う訳だけれど、いかんせん先輩との出会いはなかなかないわけで、可愛い女の子の先輩降ってこないかなぁなんて思うわけだが。


  酔っぱらいの愚痴みたいになって悪い。壮馬達が惚気けてるの見て酔ったみたいだ。

  喉乾いたし酔い覚ましに(酔ってないけど)とりあえず水でも買って帰るか……。


「いやー、それにしても俺大活躍だったな」


  院内は所々暗くなっていて心細いので別の事を考えて気を紛らす。ちなみに不安になった時は毎回この方法を行使しているが効き目はあまりない、ソースは俺。


「よし、この辺か……って!うおぉっ!」


  驚いた衝撃で尻もちをつく。体制を立て直そうと前方に目をやると、自動販売機の前に悪魔が居た。

 何言ってんだって?いや、ほんとに目の前に黒い尻尾が!

  骨に響いて痛いのもあるが、それ以上の恐怖に襲われてそれどころではない。


 いつもなら全力疾走して逃げるとこだが、ここは病院、走る訳には行かない。

 なんて真面目な事言ってる場合じゃない、本当は腰が抜けてしまって動けない、もちろん冗談を言ってる余裕もない!


 そんな事はつゆしらず、悪魔の影が刻一刻と歩み寄ってくる!


「来るなっ!やめろ!こら、こっちに来るんじゃない!話を聞け!待て、待て待て待て、そうだ!ジュース、ジュース一本奢ってやるからそれで見逃してくれ!ココアか?ちょっと高いけどメロンソーダでもいいぞ!?」


  ブンブン足を振り回し、前方の悪魔を牽制しながらジュースで買収する為の財布を探すも見つからない。


「……一人で何言ってるんですか?」

「え、人間?しかも女の子??よかったぁあ!」


  遂に姿を表した悪魔は可憐な少女の姿をしている。

 というか女の子だった。

  全く、つくづく俺という人間はびびりだな。


「頭大丈夫……?」

「昨日何度か打ったから正常かは分かんない」

「絶対に何かなってるから、一回医者に見てもらおうね」

「ありがとう、そうするよ」


  意外と優しい悪魔ちゃん、少し硬い病院の椅子に腰掛けて話を聞く事数分。


「……それでその格好をね、大変恥ずかしい姿をお見せしました。今あった事はどうか忘れてください」


  話を聞いた所、悪魔ちゃんこと五月双葉ちゃんは、

 入院している人の為に病院でボランティアをしてあげているらしく、その一環で悪魔コスをさせられていた双葉ちゃんに俺が驚いて転んだらしいです。


  ほんと恥ずかしい限りです……それと良く見えなくて怖がってたけど悪魔コスの双葉ちゃんは結構可愛い。でも、この服装子供には刺激強くないかな?サイズ的にはそんなにアダルトな感じではないけど。


  脳内でセクハラを楽しんでいると、双葉ちゃんがおもむろに立ち上がりどこかへ行こうとするので引き止める。


「どうした、帰る?」

「帰んないけど、喉乾いたから」

「これ、要らないから良かったら飲む?」

「え、いや……悪いし要らない!」


  飲みかけと勘違いしたのか凄い慌てよう。


「いいって、暗くて見えなかったから間違えて要らないの押しちゃったんだよ」

「あ、あぁ……じゃあ貰う!最初からそう言えばいいのに……」


  俺の手から、乱暴にコーラをひったくると幸せそうにちびちび飲み始める。喉乾いてたのかな?それとも、炭酸が好きなのかな?


「うぁ……あ……喉がしゅわしゅわする、これが炭酸なんだ……!」

「もしかして炭酸初めて?」

「うん、でも結構癖になるかも……」


  コーラが気に入ったのかずっとボトルに口を付けて居るので、この子の為にも一応教えておかなくてはいけない。

「炭酸は一気に飲まない方がいいぞ」

「え、なんで?あ、お腹冷えたり?」

「それもあるけど、一気に飲むと口から炭酸出てきたりするから、女の子は特に注意しないと」


  ゲップだろうとなんだろうと男は気にせず出来るのに、女の子はそういう所まで気を遣わないと行けないのは少し気の毒だと思った。


「き、気を付ける……」


  少し恥ずかしそうに俯くが、それでも尚ボトルから口を離す素振りは見せない、相当気に入ったのだろう。


「そう言えば、稲畑くんはなんでここに来てたの?」

「翔吾でいいよ。友達が昨日から入院してて、それの見舞いにね」


 さっき会ったばっかの子にベラベラ有栖達の事を話すのも気が引けるので、骨折の事だけにしておこう。


「大変じゃない、大丈夫なの?」

「ひとりじゃ何も出来ない程度だから平気平気」

「それ全然大丈夫じゃないよ……??」

「可愛い子達に献身的な介護受けてるから大丈夫だよ」

「そっか、それなら良かった……のかな?」


  今日一日で出来上がった壮馬ハーレム、努力の末手に入れた理想郷、それなら俺も二人の為に努力したじゃないか……でも、見返りを求めたらダメだよね。


  大好きな有栖と詠に看病してもらえるなんて、それもうなんてご褒美なわけで……いつか翔吾ハーレム作れるように頑張るぞい!


「そう言えば双葉ちゃんって学校どこ?」

「キミと同じとこ」

「なんで俺の学校知ってんの!?」

「制服見れば分かる」

「あ、そっか……何年なの?」

「二年三組だけど」

「え、先輩なの!?」

「え、後輩なの!?」


  全然そんな風に見えなかった、気安く双葉ちゃんとか呼んでたんだけど。

  うちの学校の校則では、どんなに仲が良かろうと年上には敬語、さん付け、または先輩付けが義務付けられている。知らなかったとは言え、バレたら問答無用で罰せられる。うちの学校そういう所だけ厳しいからなあ……今からでも「五月さん」とか「双葉先輩」って呼んだ方がいいかな?いや、でもそれはさすがに白々し過ぎるし……。


「とりあえず気安く双葉ちゃんとか呼んですいませんでした、教師ににチクるのだけはほんと勘弁してください」

「この事は内緒にしとく、コーラも貰っちゃったし」

「恐縮です!五月先輩!」

「下の名前がいい」

「やば、可愛い。です」


  どうしても双葉先輩と話しているとタメ語になってしまう。なんというか彼女から溢れ出るオーラがそうさせている気がする。

  ていうか、可愛い年上の先輩とか素晴らしい。


「別に可愛くないし……さっきと九十度くらい態度違うけどプライドとかないの……?」


  事を穏便に済ませる事だけ考えて生きてきた為、変なプライドは持ち合わせていない。やっぱ環境に適応するのは大事だからな。

  ——プルルルルル。

  静かな病院に携帯の着信音が鳴り響く。


「ごめん弟から、……うん、うん、おばあちゃんがケガした?すぐ行くから泣かないで」


  さっきとは打って変わって、しっかりお姉さんしているみたいで少し安心。


「おばあさんのケガ、大丈夫ですか?」

「ちょっと転んだだけだから大丈夫だと思う。でも心配だから行かないと」

「そうですか、それじゃまた会ったらそん時はよろしくお願いします」

「うん、また。コーラありがと」


  颯爽と帰って行ってしまったけど、もしかして来る時もあの衣装で来たのかな……そんな事よりまた会えたら嬉しいな。

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