わたしはただうなずくことしかできなかった
『いいよ』
春佳さんは、綾乃の『一緒に死んでほしい』っていう突然で無茶苦茶なお願いに、笑顔のままあっさりとうなずいた。
安堵と、春佳さんのところにたどり着くまでの疲労で、その場に崩れ落ちてしまった綾乃に、春佳さんがそっと歩み寄ってその場にしゃがみこむ。
そして、綾乃の両手をそっと握ってくれた。
『いいよ。僕もひとりは寂しいから。ずっとひとりだったから。でも、最期がふたりなら、僕の人生は寂しいだけじゃなかったって、そう思える』
春佳さんの手は、乾燥していて、冷たかった。とても。
それでも、その手に両手を包まれて、綾乃はひどくほっとした。
恋人でもなんでもない。
知り合って、まだ半年ほどしか経っていない。
最初は、正直に言うと春佳さんのことを鬱陶しいと思っていた。
せっかくひとりきりになれるお気に入りの場所に、ふいに踏み込んできた人。
でも、春佳さんはひとりの時間を持て余していたのか、何故かその後も綾乃に会いに来た。
次第に、綾乃も春佳さんが現れるのを待ち遠しく思うようになっていった。
それを態度に出せない程度にはひねくれてしまっていたから、春佳さんに自分が思っている
ことを伝えたことは一度もなかったけれど。
伝えたところで、なんになるっていうの。
歩くだけでもしんどくて、寝ているだけでも苦しくて。
もう、すぐそこに自分の終わりが近づいていることは、嫌というほど知っていた。
だから、春佳さんはただのわずらわしい顔見知り。
そういう態度を、ずっと取り続けていた。
それなのに、突然、ひとりでいるのがどうしようもなく怖くなって、療養所を飛び出してしまった。
途中で死んだらそれまで。
春佳さんのところにたどりつけて、そこで命が尽きるならそれでもいい。
そう思っていた。
『ごめんなさい、春佳さん。こんなことをお願いしてしまって』
『謝らないで。そのかわり――ひとつ約束してくれる?』
春佳さんの瞳が、すぐそこにあった。
春佳さんの命をもらうんだから、約束をひとつやふたつするくらい当然だと思った。
『わたしにできることなら』
『できることだといいんだけど。ねえ、もし、いつかどこかで、また僕と綾乃さんが出会えたら、そのときは僕のことを好きになってくれないかな?』
綾乃は驚いて、嬉しくて、でもなにも言えなくて、ただうなずくことしかできなかった。




