あの日、わたしはあのひと言を口にしてしまった
ハルがわたしを心配してくれる度に、わたしは申し訳なくて胸がぎゅっとなる。
ハルがわたしよりも一学年下なのは、高校で留年しているから。
春佳さんのころの記憶が戻ってからしばらく、ハルは学校へ通えなかったらしい。
そのあいだに、春佳さんに所縁のある場所を彷徨っていたんだって聞いた。
あれから100年近くが経っていて、街並みはもちろん変わっている。
血縁はいるかもしれないけれど、その人にとって今のわたしたちは全くの他人。
たとえ見つけたとしてもどうしようもないって、身に染みてわかってる。
――だって、わたしも綾乃の記憶が戻ったあと、必死に綾乃の、春佳さんの、痕跡を辿ろうとしたから。
そして、そんなことしたって、春佳さんは生き返らないし、綾乃だってもう戻ってはこないって。
どこにも綾乃はいないし、春佳さんもいないって、嫌というほど実感してしまったから。
わたしも、とても、それまでと同じように学校に通うことなんてできなかった。
頭ではどうしようもないことなんだと理解していても、心がついていかなくて。
そのうち出席日数が足りなくなって、留年するか、退学するかの選択を迫られた。
そして結局、わたしは高校を退学した。
なんとかこれからのことを考える余裕ができたころ、高認(高等学校卒業程度認定試験)を受けて、大学も受験した。
だから今、わたしはこうしているんだけど……。
ハルは、どうやってふんぎりをつけたんだろう。
それを考えると、怖い。
綾乃のしたことは、どう謝罪しても、許されることじゃない。
そのせいで、春佳さんだけじゃなくて、ハルの人生すらめちゃめちゃにしてしまっている。
それなのに。
わたしとしての感情と、綾乃としての感情がごちゃ混ぜになって、わたしは今でも混乱してしまう。
罪悪感で息もできないくらい苦しくなることもあれば、ハルの優しさにすがってしまうこともある。
ハルを自由にしてあげたほうがいいと思っているのに、ハルを手放せないでいる。
卑怯で自分勝手なのは、綾乃もわたしも同じだ。
あの日――。
『綾乃さん? どうしたの?』
思いつめて春佳さんの住むお屋敷へ押しかけたわたしは、優しく微笑んでくれる春佳さんに向かって、言ってしまった。
『春佳さん、一緒に死んでください』
って。




