彼の声がふいによみがえってしまったから
「……どうしたの? 突然」
わたしはひとつ息を呑んでから、ハルに訊いた。
「行ったことある?」
「ないけど……」
「だと思った」
ハルが、少し哀しそうな、でも少しだけ嬉しそうな顔で、小さく笑う。
「別に、興味ないし」
「そういうことにしておいてもいいけど。ね、浅草十二階はもうないけどさ、おれと一緒に、スカイツリーに行こうよ」
春佳さんと綾乃は、死ぬ前に話していた。
『いつか一緒に浅草十二階に行きましょう』
そのときのわたしたちはふたりとも、浅草まで出かけられる状態じゃなかったし、浅草十二階は関東大震災のときに半壊して、その後解体されてしまった。
だから、もう二度と叶えることはできない。
浅草十二階とスカイツリーじゃあ、高さだってまるで比にならないし、建っている場所だって違う。
それは、ハルだってわかってるはずなのに。
「ね? 行こ?」
そっとハルの手がわたしの顔に伸びてきて、思わず息を止める。
ハルの指が、目元にそっと触れる。
わたし、泣いてた?
そうされて、初めてわたしは自分が泣いていたことに気づいた。
ハルは、わたしと話すとき、まっすぐにわたしの目を見る。
逸らすのは、いつもわたしから。
だって、心臓がもたない。
この人は、春佳さんじゃなくてハルなのに。
それでも、その眼差しは春佳さんと変わらない。
『浅草十二階から見える景色は、どんなだろうね。僕も見てみたいな』
春佳さんの声がよみがえる。
――だから。
うん、とわたしはうなずいた。




