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もうずっと、わたしの想いは決まってる

スカイツリーの展望室からは、遥か遠くまで見渡すことができた。


綾乃と春佳さんが死んだあの場所の方角も。


ふたりが海に沈んだ日、関東大震災があった。

津波も起きた。


ふたりの遺体は、発見されていない。


わたしは無意識にハルの手を探していて、でもいけない、とそれに気づいて手をひっこめようとした。


けれど引っ込める前に、ハルの大きな手につかまってしまった。


「ハル……」


「おれはこのほうがいい。ずっと、こうしていたいよ」


ハルはネットで綾乃を探していた。


それを見つけたわたしが連絡をとって、それ以来こうして頻繁に会っている。


綾乃は春佳さんを好きだった。


春佳さんはいつも優しくて、春佳さんはたくさんの書物を読んでいて、いつもいろんなことを教えてくれた。


でも、大人な春佳さんが綾乃に恋愛感情を抱いているとは思っていなかった。


ただ、自分みたいなのがめずらしくて、それで相手をしてくれているんだろうって。


だから、あの約束には驚いたし戸惑ったけど、それ以上に嬉しかった。


でも今考えれば、それはあのときのふたりだったから起こりえたことだと思う。


あのとき、春佳さんの近くには綾乃しかいなかった。

だから好きになってくれた。


どこにでも行けて、誰とでも恋愛ができる今、ハルが選んでくれるほどの魅力がわたしにあるとは思えない。


可愛げはないし、おしゃれだって苦手だ。


あの約束がハルを縛ってしまっているのなら、わたしは――。


「ハル、もういいんだよ?」

「なにが?」


「わたしなんかに構ってないで、自由になってよ」


勇気を振り絞って伝えたわたしの言葉に、ハルは一瞬の間をおいて、小さな息を吐いた。


「――どうしても、おれのこと好きになれない?」


「そうじゃないよ。でも、わたしは……」


「アヤ。おれは、アヤが好きだよ。綾乃さんのことも好きだったけど、アヤのことがもっと好き」


「え……?」


「なに、え? って。疑ってたの? 仕方がないなぁ」


ハルが、わたしの手をぎゅっと握って、正面からわたしの目をのぞき込む。


「おれはアヤが好き。誰よりも。だから、ね、おれを好きになってくれるんでしょ?」


ハルの両手があたたかくて、その瞳が優しくて。


「……もうずっと前から、春佳さんのことも、ハルのことも好きだよ」


その無邪気さと押しの強さに戸惑いはするけど、本当は優しくて心配性なハルが大好き。


心の中から、閉じ込めていた想いが、涙と一緒にこぼれだす。


好きだよ。

100年近く前から、もう、ずっと。

そんなの、あたり前じゃない。 


わたしの告白に、ハルはふわっと笑った。

とても、とても、柔らかく。


そんな顔をされたら、涙が止まらなくなっちゃう。


「ハル……」


「ありがとう」


ハルはそういうと、ぎゅっとわたしを抱きしめた。


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