家族
別作品のページを間違えてこっちに書いてしまいました。担当者はケジメしたのでお許しください
後太郎を呼び止めたのは、牛の頭をした少年だった。背丈からしてまだ二桁の齢にも達していないだろう。
「パパ、どうしたの?今日は早くお仕事終わったの?」
無邪気な瞳、だがそれは牛の目だ。
──やめろ、そんな目で俺を見るな。俺は……お前の父じゃない。
言葉に出かけた心の声を飲み込み、後太郎はその場を取り繕うための言葉を考える。
「あ、ああ。今日はちょっと早く終わってね。一緒に帰ろうか。」
「ほんと?やったぁ!晩ご飯、一緒に食べられるね!」
名も知らぬ息子は、後太郎に手を差し出す。人間と変わらない、小さな手を。
「手つないで帰ろうよ、パパ!」
恐る恐る握ったその手は暖かく、目で見るよりさらに小さかった。
少年に手を引かれついたのは、木造の一軒家だった。
「おかえりなさい、タウ。今日はパパと一緒に帰ってきたの?」
二人を出迎えたのは女のミノタウロス。多分妻で、タウと呼ばれたこの子の母だろう。
「うん、今日は一緒にご飯食べれるね!今日のご飯は?」
「はいはい、今用意するから。先に手洗ってきなさい。」
息子と──タウと一緒に手を洗い、食卓につく。焼いた肉と付け合せの野菜、そして柔らかそうなパンがその日の夕食だった。
──この肉は、まさか……
後太郎の脳裏に蘇るのは、牛のように繋がれた人間たち。
「な、なあお前。この肉はなんの肉だっけ。」
おずおずと妻に尋ねると、彼女は怪訝な顔をして言った。
「何言ってるの。少し疲れてるのかしら。人間よ、人間。お仕事頑張って来てくれているあなたと学校で頑張ってるタウに豚や鳥じゃ貧乏くさいじゃない」と。
「ああ、そうか。そうだよな、ありがとう。今日はちょっと胃もたれがひどくてな。タウ、父さんのぶんの肉、食べていいから」
「いいの?ほんとに?」
タウは目を輝かせ、嬉しそうに言う。
「あなた、大丈夫?本当に働きすぎなんじゃないの?寝室に行って休んだら?」
「あ、ああ。そうするよ。」
後太郎は2階に上がり、あてずっぽうに扉を開いた。
どうやらここが寝室で正解だったらしく、柔らかく大きなベッドが壁に沿って置いてあった。
彼はベッドに横たわり、溜息をついた。
──人間を食らう牛、か。本当は今すぐにでも殺したいが……
そうすればまた槍に刺されて死ぬだけだ。今は、耐えるしかない。
そう決意し、後太郎は目を閉じた。




