転生
「くっ……ここは、どこだ?」
俺は目を覚ます。白んでいた視界が、少しずつ形を取り戻していく。
「俺は──」
──牛を殴ってTwitterで炎上して、そして……
そうだ。俺は崖から身を投げて……なら、ここはどこだ?地獄か?
身を起こし、あたりを見渡す。幸いというべきか、不可解というべきか。ここは地獄ではなさそうだった。豊かな緑、石で舗装された道。空には小さな龍のような何かが飛んでいた。まさかこれは……
「異世界、転生?」
だとすればありがたい。日本には居場所がなくなった俺ではあるが、まさか異世界にまで炎上が広がっていることもあるまい。また牛でも買って牧場を──
そう考え、舗装された道──多分街には繋がっているだろう──をあるき出した俺を、誰かが呼び止めた。
「おい」
振り向いた先には──人がいた。ただし、その首から上は牛だった。ミノタウロス、といったほうがわかりやすいだろうか。
「ひっ……!?」
理解を超えた現実。だが、ここは異世界だ。この程度で驚いてもいられない。
「全く、どこかの牧場から逃げ出した人間か?何故牛のように服を着ているんだ。変な知恵をつけたとしたら厄介だな……」
ミノタウロスは何事か喋っている。牛が服を着る?牧場から逃げ出した人間?理解するよりも先にすべきことは──こいつから、逃げることだろう。
「殴ってすみませんでしたああああああああああ!」
俺は前世の罪を侘びながら、逃げた。
数キロは逃げただろうか。森に逃げ込んだ俺を、流石にミノタウロスは追ってこなかった。
いや、それより──あれだけ走ったのに、息一つ上がっていない。
何かが、俺の体に起こっている。
「ひょっとして……」
俺は手近な木を殴りつける。
ゴッ、と音がしたが、木には傷一つない。
「そりゃそうだよな……」
拳は痛くないが──少し落ち込んだ俺の耳に、ファンファーレが聞こえた。
[レベルアップ!対木攻撃レベルが2になったよ!]
空中に現れたのはそんなわけのわからない文の書かれた板。そして切り替わるようにいくつかの数字が現れ、消えた。
「これは……?」
俺は試しにもう一度木を殴る。ゴッ、とさっきより大きな音。木はミシミシと音を立て、へしおれた。
「嘘だろ……?」
レベル2でこれ?
次のレベルに上がるためには、どれくらい殴ればいいのか?こういうときには……
「ス、ステータス、オープン?」
[蛇股 後太郎 レベル1 対木 レベル2 対鉄 レベル2……]
どうやら予想は正しかったらしく、レベルとステータスと、対〇〇のレベルが表示されたウィンドウが表示される。オレンジのバーが経験値だろうか?
何ページかあるようだ。めくっていると、最後のページに行きあたった。そこにはこう書かれていた。
[対牛 レベル99999999999999999999999999999999999999]と。