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ジュナイス王国記 ~タルカス伝  作者: すなふきん
1/1

旅立ちの朝…

俺はタルカス。


しがない商人の息子だが公爵の凱旋式を見て、俺は決めたんだ!


絶対、騎士になってやる!

「旅立ちの朝っていうのは、いいものだなぁ。」


ベッドの横に纏められた旅支度を眺めながら、俺は呟いた。


準備は万端、整っている。

とはいえ、俺がこの準備に使えた金は僅かなのだが…


村の鍛冶屋をしているドワーフのヘムレンさんが作ってくれたロングソードとカイト・シールド。

そして同じくヘムレンさんの力作、チェイン・メイル。

これを買っただけでほとんど金がなくなり、後はバックパックと保存食を買っただけ。


ティンダーボックスとか小物は家からちょろまかしてきた。もう帰らないしいいだろう。


公爵軍で近衛兵だったヘムレンさんは、俺をガキの頃から鍛えてくれた。

もう戦いに疲れたんだよ…と言いながらも、木製のバトルアックスで散々、殴られたなぁ。


そのおかげもあって、俺はゴブリンぐらいなら戦って勝てるぐらいの実力になった…らしい。

まだ一度も実戦の経験はないのだ。

ゴブリン程度なら勝てる、というのはヘムレンさんの弁。

不安は残るが、俺は騎士になると決めたんだ。


まだガキだった5年前、この村にゴブリンの軍勢が押し寄せてきたとき、白いフルプレートに身を包んだ騎士達が数の劣勢などものともせず、撃退していく姿を見て、俺は騎士に憧れた。

そこからずっと鍛錬してきたのだ、そこそこの実力にはなっている筈だ。


俺は装備を身につけ、家を出た。

家族のいない俺しか済んでいない家だ。

隣のファーレンさんに家を譲っているし、この家に戻ることはないだろう。


まずはうちの村から一番近いオビーロの街を目指す。

恐らく夕方には着くだろう。

夜が明けると共に俺は生まれ故郷の村を出発した。


うちの村からオビーロの街まで森の中を通る小道を抜けて、まず街道を目指さなければいけない。

森の小道で食べられる実などをたまに見つけてはつまみながら、俺は街道を目指した。


…突然、目の前の藪が大きく揺れた。


(ワイルドボアか?)


弓は高くて買えなかった俺は、ロングソードを引き抜いた。

藪の中から出てきたのは、灰色のローブを身に纏い、頭に枯れ葉が乗っかっている怪しげな男だった。


「あんた、そんなところで何をしている?」


「藪の中に入ってすることなぞ、それほど多くないぞ?」


「え?」


「見て分からないか?ウィザードが藪の中ですることは、マテリアルコンポーネントを探すことと、野ぐそぐらいなものだ。」


「どっちなんだ?」


「両方だ。」


俺はだんだん何を話しているか、分からなくなってきた。

・・・俺がしばらく黙っていると、その自称ウィザードは、俺に何処に行くのかを尋ねてきた。


まずはオビーロへ、そして公都へ向かうと話すと、自称ウィザードは同じ方向に向かうから同行してやろうと言ってきた。

胡散臭かったが、ウィザードならば魔法の支援を得られるだろうと思い、僅かに諮詢した後、同行に同意した。


彼の名はヴァーゲン。何故かローブに恐ろしく汚い字で名前と番号が書かれていた。

どうにか読んでみたら、2番、ヴァーゲンと書かれていた。


理由を聞いたら、そのローブは"ウィザードスクール"での制服だそうだ。


(制服ってまだ見習いかよ…)


その奇妙な男と俺は一緒に森を抜け、小さな果実を食いながら街道に出て、オビーロへと歩いて行った。


オビーロは人口300人程度の小さな街だ。

とはいっても、俺の村の50人に比べれば遙かに多い。


夕暮れになる頃、俺達はオビーロにたどり着いた。


・・・が、オビーロにあったものは、焼き払われた廃墟だった。

家は焼け落ちており、ところどころに血痕が生々しく残っていた。

しかし、死体はひとつもないのだ。


「ここでは泊まりようがないな。ここにいると何やらに出会うかもしれんしな。」


そういいながらも廃墟から使えそうなものがないかを物色するヴァーゲン。

なかなかたくましい。


とはいえ、死体もないのでは供養のしようも無いし、敵もいないのなら戦いようもない。

隣のアーサウは男爵の領地だから、そこで見たことを話せば良いだろう。


使えそうなランタンと砥石を見つけ、俺達は街道を進むことにした。

とはいえ、次の街、アーサウまでは少なくとも4刻はかかるだろう。


ランタンをヴァーゲンに持たせ、俺達は警戒しながら街道を進んでいった。


夜の帳の中で夜行性の動物の鳴き声が聞こえる中、俺達が歩を進めていると、けたたましい馬車の音と聞いたことのない爆ぜる音、そして激しい剣戟の音が聞こえてきた。


全力で音のする方に走っていくと、燃え上がる2台の馬車と車輪が外れ、横たわっている1台の馬車、そして横たわっている馬車を守るように戦っている騎士の姿が見えた。

敵は炎の灯りに照らされた漆黒のフルプレートの騎士のようだ。

その足下には白骨化した馬の残骸が転がっていた。


騎士を助太刀するためにヴァーゲンにバックパックを投げつけ、俺は抜刀して駆け出した。

不思議と恐怖はなく、戦いの高揚に包まれていた。


「騎士殿!助太刀する!」


そう俺が吠えた瞬間、騎士は裂帛の気合いと共にスマッシュを繰り出し、黒い騎士は左の手のひらを騎士に押しつけた。


騎士のロングソードは黒い騎士のフルプレートをまるでバターのように切り裂き、頭から又までを一撃で切り裂いた。

魂切る絶叫が森を揺らし、その直後には黒い騎士は塵となって風に溶け込んでいった。


・・・しかし黒い騎士が押しつけた左手が騎士の体を離れたとき、黄色い暖かな光が騎士の体から引き抜かれ、騎士はそのままうつ伏せに倒れ込んだ。


「お、おい、大丈夫か!」


俺は騎士を仰向けにし、アーメットを外した。


そこには干からび、生気を感じない、まるでミイラのような顔があった。


俺は絶叫を上げ、後ずさり・・・そして少し股間を濡らした…

大昔にオリジナルのワールドでやっていたTRPGのキャンペーンでとてつもなく破天荒なプレイヤーがいて、そいつをネタにしたら面白かろうと思って書いてみました。

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