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8話

 本日2話目


「じゃ、それまでテキトーに回ろうか」


 チケットを買って彼女の元に戻った僕は、そう言って、また彼女の手を握った。

 やっぱりまだ緊張する。慣れない。


「買えないけどねー」


「なんかごめん」


「いや、いいよいいよ。私だって、君に財力は求めてないから。君は今のところ十分うまくやってるよ。及第点」


 謝ると、彼女は繋いで手を見て、そうフォローしてくれた。僕は彼女の優しさに甘えるほかなかった。


「及第点なら、どうして5点も減点されてるんだろう?」


「それはー、まっ、君がヘタレだからだよね」


「せめて小心者って言い方にしてくれない?」


「嫌だー。ふふっ。そんなことより回ろ? 君の服を選んであげるよ」


「買えないけどね」


 僕たちは顔を見合わせて笑った。


 それから僕たちは、まず衣服を見て回った。


 ただ、僕は元来着飾ることに興味はなく、それは彼女も同じようだった。


「重要なのは動きやすいことだよ」


 そう言う彼女に、僕は本心から同意した。その意見の一致に盛り上がったのが服屋の前であったことは、TPOを弁えていなかったと、2人で笑いながら反省した。


 どうせ買わないのに服を見ていても面白くないという、彼女のとても素直な進言を受けて、その後は電気店へと行ってみた。


「君、ゲームはそれなりにやるんだよね?」


 ゲームなんてそんなに置いてないのに、彼女にとって電気店といえばゲームのようだった。まぁ、家電とか買う歳でもないか。


「人並みには。ただ、アクションは苦手だから、RPGが主かな」


「エンジョイ勢だけど、私このシリーズはゲームも好きだよ」


 彼女が指差したのは、映画を見ることにしたRPG。子供の頃には夢中になった。僕にもそんな記憶がある。


「君の手持ちは毒タイプで統一されそうな気がする」


「そんなことないよ。カメとかワニは水タイプだし、火を吹くトカゲとかいるし」


 そんなことないと言いつつ、予想通りな感じだ。

「でも、哺乳類優遇な感じあるよね、このゲーム」なんて不満げにいう彼女に、「僕は火を吹くトカゲが1番好きだよ」と言ったら喜んでくれた。

 あのトカゲ、最終的に羽が生えるけど、それでもたぶん爬虫類。……なら、ドラゴンはみんな爬虫類では?


 電気店を出て、隣の本屋に向かおうとしたら、「本屋さんはダメー」と止められた。

「僕は本が結構好きなんだけど?」と言うと、「だからダメなの。私のことをほっといて、読書始めちゃうもん」と彼女は言った。その通りだと思ったので、本屋には入らなかった。

 今日は彼女と過ごすための1日なのだから。……ちょっと気恥ずかしい。


 それからも、楽器店や雑貨屋など、いくつかの店を回った。それぞれの店で他愛もない、くだらない話に興じると、時間はすぐに過ぎていって、あっという間にお昼ご飯という時間になった。


 フードコートで手製の弁当を広げることに抵抗のあった僕らは、外のテラスとでもいうような場所で昼食を摂ることにした。

 外なのでもちろん暑いのだが、許容できないほどではなかった。


「おぉ! 小学校の時の遠足みたい!」


 それが弁当を見ての彼女の感想。その感想は、残念ながら大いに的を得ていた。


「なんか、工夫とかなくて恥ずかしいけど」


「ううん。私、こういうシンプルな方が好きー」


 彼女ならそう言うだろうと思っていたけれど、実際にそう言ってくれて、自分がとても安心しているのがわかる。


「食べていい?」


「ウェットティッシュ持ってきたから」


「おぉ、気が利いてるー。女子力高ーい」


 女子力が高いというのが、僕に対して褒め言葉なのかよくわからなかったので、曖昧に笑って流した。


「いただきまーす」


 美味しそうに僕の作った弁当を食べる彼女は微笑ましく、僕は自分の食事もそこそこに、彼女を眺める。その笑顔が、自然と嬉しかった。


「美味しー。君が私の赤色になるってことは、こんなご飯が毎日食べられるってことだよね。幸せー」


 そんな気恥ずかしさが込み上げて来るようなセリフを言う彼女。僕は彼女に向けていた視線を、咄嗟に弁当へと移す。


「あっ、照れた」


 露骨だったのか、それは彼女にバレバレだった。勘弁してよ。


「君は料理する気とかないの?」


 照れ隠しに会話を始める。これも逃げか。僕は本当に小心者、いや、ヘタレだ。


「私の作った料理と、君の作った料理のどっちが美味しいと思うのさ」


「お世辞を混ぜても君のだと言えないことが悲しいよ」


「素直でよろしい」


 彼女は、自分が料理ができないことをなぜか自信満々に誇る。


「なんでそんなに誇らしげなのさ……」


「料理ができないお陰で、君の料理が食べられる。こんなに料理ができないことが誇らしい日はほかにはないよ。うん」


「そう。お気に召してもらえたみたいでよかったよ」


 何気ない風を装ってそう言ったけど、内心では本当に安心していた。

 今日1日の中で、僕が自信を持てるのはこの弁当だけだったから。


「ごちそうさまー」


「お粗末様でした」


「こんなに美味しいと、明日も明後日もお願いしたいな。うん。ぜひ!」


 そう言われて、無意識に材料費の計算を始めた自分に少し嫌気がさす。でも、やっぱりお金は問題なわけで。


「週に1回くらいなら。まぁ」


 彼女に弁当代を要求するなんて真似はしたくなかったので、毎日というのは諦めてもらった。


「けちー。でも、週に1回ね! 約束だよ!」


 満面の笑みでそう切望されてしまっては、断るなんてことはできない。


「さて、じゃあ映画行こうか」


「うん!」


 僕たちは映画館へと足を向ける。

 さて、デートに似つかわしいか否かはこの際置いといて、彼女が楽しめる作品だといいな。



 夕飯はラーメンにした。理由は単に安かったから。向かい合いの席に座って、2人してラーメンをすする。


「本心では子供向けアニメだと思ってました。ごめんなさい」


「僕も同じでした。ごめんなさい」


 2人で誰かに頭を下げる。誰だろう? 監督? よくわからないけど頭を下げた。


「なんかさ、ガツンって来ないけど、ふわって感じによかったよね」


「ニュアンスだけで話してるのになんとなくわかるのがすごいよ。うん。僕もそう思う」


「ただ、残念だったのが」


「ん?」


「もっと、ワニをね、こう活躍させてほしかったな」


「完全に君の好みの話だよね」


 僕と彼女は目を合わせて笑う。

 それからしばらく、僕らは映画の感想をおもいおもいに言い合った。

 映画のチョイスは案外正解だったようで、彼女も満足した様子だった。


「いやぁ、なかなかよかったよ。うん。で、この後はどうする?」


 時間はまだ16時台。映画を見終わってすぐに夕飯となったので、かなり早い。まだ解散という時間ではない。


「何時くらいまでいられるの?」


「限界まで一緒にいたい?」


「茶化さないでよ……」


 ニヤける彼女は楽しそうなので、まぁいいかとも思えてくるけど。


「私は、うーん、頑張って20時まではいられるかなぁ」


「頑張らないなら?」


 頑張ってという響きは少し不穏だった。僕のせいで親から怒られるなんてことにはなってほしくない。


「19時? ここから鎌倉まで、1時間あれば着くよね?」


「1時間見ておけば大丈夫だと思う」


「なら、うん。19時」


 あと2時間ちょっとは一緒にいられるらしい。が、僕はこの後のプランを何も持ち合わせてはいない。


「なら、ゆっくり食事ができるね」


「2時間かけて!? 間違いなく麺のびるし、冷めるよ?」


「まぁ、そうだね」


「あぁー、この後どうするか考えてなかったと見た」


 そう言って箸をこちらに向ける彼女に、僕は「ははは」と乾いた笑いを返した。あー、どうしよ。


「そっかぁ。この後のことは決まってないのか。なら、マイナス5点ね」


「えっ!? いくらなんでも理不尽じゃない?」


 僕の残りのライフを一瞬で奪い取る宣言には、さすがに異議を申し立てたい。


「マイナス10点になったから、残りの時間は、2人でゆっくりお話ししましょ。お昼食べたところなんていいんじゃないかな」


 彼女の顔がほんのりと赤い気がした。

 さっきのは理不尽ではなく助け船だったらしい。乗り込んで救われる保証はないけど、せっかく出してくれたのだし。


「わかった。そうしようか」


「よーし。今日も君をフトアゴヒゲトカゲにしてやるぞー」


「残念だけど、僕は哺乳類なんだ」


「えー。私と一緒に退化しようよー」


 戯言の応酬。これは照れ隠しの意味が強いけど、結構 心地がよかった。


 僕たちは和やかに食事を終えて、照れ笑いつつもテラスへと向かった。

 そこは無人ではなかったけど、僕たちの同類と(おぼ)しき2人組しかいなかったので、僕たちもあまり遠慮することはなかった。


 向かい合って座ろうとしたら、彼女の顔が険しくなったので、曖昧に笑いながら隣に座った。


 僕は誰もいない正面を向いて、この時間でもまだ明るいなーなんて不毛な考えを巡らせる。


「こっち向けー」


 案の定彼女に怒られた。彼女に無理矢理首を曲げられて、僕の視線は彼女の顔を捉えた。


「今日はいい天気だね」


「口下手にもほどがあるー。ヘタレすぎるよ、君」


「その服、とても似合ってるよ」


「制服だよ!」


「まるで高校生みたいだ」


「高校生だよ!」


「うん。今のやりとりでちょっと落ち着いた」


「君にとって私は漫才の相方なの?」


 そう言われても、彼女とは戯言を言い合っている方が落ち着けるのは否定しようもなかった。


「僕にとっての君か。少し前なら、友人、親友って自信を持って答えてたかなぁ」


「今は、恋人って答える勇気がないから、そう言って誤魔化すと。ヘタレー」


 彼女には僕の逃げが大体見透かされている……。


「君と私は赤色になるんだよ」


「うん」


「ねぇ、私と赤色になりたいって思ってる? 朱音さんのこと抜きでさ」


 彼女の真意がわかりかねた。朱音さんのことを抜きにすれば、僕は彼女と緑から赤になる必要はない。


「朱音さんのことを抜きにするのは、本末転倒じゃない?」


「……朱音さんを死なせない。それが目的だけどさ。今日1日、君はその目的のために、義務感でデートしてた?」


 そう問われると、そうではない。僕が今日1日見ていたのは彼女であって、朱音さんではない。当然だ。


「いや、君と楽しい1日を過ごしたかった。それだけかもしれない」


「例えば、今度朱音さんに会った時に、あれは全部嘘でしたーって言われたら、君は緑に戻ろうと思う?」


 あの慟哭を思い出せば、その可能性は低く感じる。でも、仮にそうであったなら。


「僕は、赤にも緑にも、君の望む方になると思う」


 ひどい答えだ。自分でもそう思った。

 それを聞いて、彼女は不満げになる。当然だと思う。


「そこで丸投げなのー? 今のって、意思が問われる質問じゃなかった?」


「君の意思を蔑ろにしたくない。僕は、親友の君も、こ……赤色の君も、どっちも、……好きだから」


「どこまでもヘタレだなぁ」


 そう言う彼女の顔は、優しく笑っていた。


「朱音さんのあれが嘘だったら、とりあえず私と朱音さんの間には青い糸が通るけど」


 まぁ、『ふざけんな、こっちはどんな思いで』とはなるよな。


「君との間は、クリスマスカラーになるかもね」


 ……どっちだ? あれ、クリスマスカラーってどんな色だっけ?


「ごめん。クリスマスカラーでググっていい?」


「緑と赤だよ! まさか通じないと思わなかった」


「いや、そうだよね。急に自信がなくなって」


「君と私は、緑と赤のシマシマって感じ」


「それがありなら、いいね、それ」


 親友と恋人の間。彼女との関係において、それはなかなかしっくりくる。


「私さ、完全に緑だった時に比べれば、精神的にも赤くなったと思うんだ。例えば、今、君がほかに好きな子ができたとか言い出したら、ガチでキレるもん。包丁持ち出して刃傷沙汰だよ」


 彼女は冗談めかしてそう言ったが、冗談には聞こえなかった。

 僕だって、彼女がほかに好きな人ができたと言ったら、キレるじゃなくて、たぶん泣く。包丁を彼女じゃなくて自分に向けそうだ。


「だから、緑には戻れない。でも、真っ赤になる自信も、実はない」


 真剣になった彼女の眼差しから、目はそらさない。そらしてはいけない。


「今のところそんな感じ。どうかな?」


「どうかなって言われても困るけど。そう言われると、確かに君と完全な緑に戻るのは難しい気がする」


「私が、"好きな人ができたのー"なんて言ったら、包丁でグサリ?」


「自分を包丁でグサリ」


「なんで自分なの!? 君が死んじゃうの嫌だよ!」


「なんでだろ。君は傷つけたくない」


「それで自分に行くあたり、どこまでヘタレなのさ、君は」


 そして2人で笑い合った。

 クリスマスカラーの距離感は、それはそれで心地がいい。


「で、クリスマスカラーいいよねーって話をしておいてアレなんだけど、赤、目指すんだよね?」


「朱音さんの話が嘘ならクリスマスカラーもいいんだけど、朱音さんを死なせないためには、赤くならないとって感じはする」


 色は変えられることを示さなくてはならないのだ。朱音さんの場合、黒が少しでも残っていたら意味がない。


「なら、関係は進めて行くって方針で」


 そう言われると、頷くのが恥ずかしかった。今の、『今日キスしないの?』みたいな催促の意味じゃないよな? これは僕の気持ち悪い妄想だよね?


「さて、じゃ、新婚旅行はどこにしよっか?」


「は?」


「関係進めるなら、そういう話もねぇ」


「随分と先を見据えてるんだね。感心したよ」


 彼女が戯言パートに移行してくれたのに内心ホッとする。


「私、どこに行きたいと思う?」


 そう問われて、僕の知る範囲でありえそうな答えを出す。


「ガラパゴス諸島とか」


「おぉ! いいね! 行きたい! イグアナとかゾウガメとか、もうパラダイスだよね。……でも、ハズレ」


 うーん。それ以外だとどこだろう。コモド島とか?


「正解は、君と一緒ならどこでも、でしたー」


「嘘だ」


 さすがにこの言葉に照れたりはしない。いくらなんでもあざとすぎる。


「えー、模範解答だと思ったのになぁ。まっ、本当のところを言うなら、ジュラ紀か白亜紀に行きたいな」


「無理難題すぎる」


 ご所望は時間旅行らしい。タイムマシンを作れと。無理だよ。


「恐竜も好きなんだね」


 爬虫類なんだけど、僕の中ではなんか別枠な感じがする。


「うーん、今いる子たちと比べるとそこまででもないけど、1回は見たいって思う。でも恐竜って一概に言うけど、色々……おっと、爬虫類トークは封印したんだった」


「楽しそうに話す君の話を聞くのは、存外に楽しいよ」


 僕は別に、爬虫類ラブではないけれど、彼女の爬虫類の話を聞くのは好きだ。

 いくら赤になりつつあるとはいえ、爬虫類に嫉妬したりはしない。ヤモリに嫉妬する人間とか嫌すぎる。


「うち、お母さんが爬虫類ダメだから、家で飼えないんだよね。だから、大人になったら絶対に飼うから」


「いいよ。君が爬虫類を愛でる姿は、……可愛いし」


 サラッと言ってしまうつもりだったのに、ちょっと言葉が詰まって、一気に恥ずかしくなってしまった。


「自分で言って、自分で赤くなってるー。かわいー」


「うるさい」


「そういえば、私は君を辱めるんだったね」


「思い出さなくていいよ」


 彼女が心なしかウキウキしだしたように感じる。勘弁してくれ。


「私の顔をよーく見て」


 彼女は両手で僕の顔を抑え、目線を自分の顔に固定させた。


「見えてますよー」


 僕は努めてふざけることで、恥ずかしさをなんとか御そうとする。あまり成功しているとは言えないけど。


「君のカノジョは可愛いかな?」


「可愛いよ。鏡に訊いてもそう答えるくらい」


「むぅ。こう訊くのは結構勇気いるのに」


 僕が軽口を含ませて答えると、彼女は不機嫌そうな顔になった。


「今、私と君は手の届く範囲にいるよ」


「そうだね」


 なんと言っても、君の手は僕の顔を現在進行形で掴んでるからね。と思ったらその手が離れた。


「私は昨日頑張ったよ」


 一言そう言われるのが、1番効果があった。顔が赤くなるのがわかる。彼女を見ていられなくなる。


「こっち見る!」


 怒られた。逃げ場がない。


「君も頑張ってよ」


 ここまで彼女に言われないと行動できない。そんな情けない小心者の僕も、この状況になれば、勢いに身をまかせるしかなかった。


「ごめん」


 なぜかそう口にして、僕は隣の彼女を抱きしめた。


「なんで謝るしー。これじゃ子供をあやすみたいなバグだよ、もぅ」


 そう言いつつも、彼女も僕の背中に手を回した。


「はい、ぎゅー。……なんか、結局 私がリードしてる気がする」


「ごめん」


「もっと気の利いたことを言いなさい」


「……好きだよ」


「私もー」


 それから数秒、僕たちは抱き合っていた。

 どのタイミングで離れていいかわからず僕が混乱状態に陥りそうになったあたりで、彼女が背中に回す手の力が弱まり、自然に離れることに成功した。


「うにゃああ!!」


 離れた瞬間、彼女は両手を顔を抑え、足をバタバタさせて叫び出した。ちょっとデジャヴ。


「君がすごく恥ずかしがるから、逆に私は大丈夫って思ってたのに、ダメだー! 冷静になったら恥ずかしくて死にそー!!」


「うん」


 冷静になると、ここ外だし。人いるし。

 彼女とは対照的に、僕は暴れるのではなく固まる。隣で彼女がバタバタする中、僕は微動だにしなかった。


「今日はいい天気だね!」


 彼女が怒鳴りつけるような声でそう言ってきた。これはきっと、元の調子に戻るための儀式。


「口下手にもほどがある」


「その服、似合ってるよ」


「制服だよ」


「まるで高校生みたい」


「高校生だよ」


「ふぅ。確かに、ちょっと落ち着く」


 2人で苦笑した。僕たちはまだ、赤色になりきれてはいない。


「君にとって僕は漫才の相方なの?」


「ううん。愛しの君。……あーあ、恥ずかしくて恋人って言えなかったぁ。私もヘタレー」


「愛しの君も、十分恥ずかしい表現だけど」


「なんかこう、迂遠な言い回しに逃げちゃいましたよ。えへ」


 そう微笑む彼女が可愛くて、僕はまた少し恥ずかしくなった。


 帰路についた時も、僕たちの顔は少し上気していた。

 そのまま家に帰って両親に何かを察せられるのが嫌なので、帰る前に本屋に寄って気持ちを落ち着かせた。気づいたら閉店とアナウンスされてた。

 帰ったら、帰りが遅すぎたせいで何かを察せられた。僕はバカだ。


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