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――…“コワレる”のは私だけで十分だから。でも、貴方の前でコワレテシマウのは物凄く怖いから。
「何……を言っているんだ。こんな状況で笑える筈ないだろ」
――…だから、
「笑ってよ……。最期くらい、貴方の笑った顔が見たい」
(あの時に言った大嫌いという言葉は嘘だから。大好き……ううん、愛してる。それが私の本心だから)
重く力が入らない腕を上げて、青年の頬にそっと手をあてる。
「……ねぇ、“ ”。貴方は、この先もずっとずっと……生きて。そしてこの世界の行く末を……見守って」
「はっ……? なにを言っ…――「生きて。そして貴方が言ったあの日の約束を果た、して。私はずっと、ずっと貴方が創る世界を見てる。……それと」
「……愛してる」
「!」
「ううん……。愛して、……た……よ」
「! 銀姫……?」
“ ”
「っ! お……い?」
ずるり……、と。力なく重力に従って頬から落ちていく手を、青年は思考が追いつかないまま、ただ目の前の光景を目を見開いたまま見ていた。
暫くの間、時が止まったかのようにシンっ…――とした静寂に包まれる。それまで感じられていた筈の微かな温かさが感じられない。そして先程から頭の中で愛しい彼女が囁いた言葉が五月蝿いくらいに何度も反響した。
――…まるで鈍器で頭を殴られたような感覚。
『信じたくない、信じない』という思いと警鐘が心の大半を占める中、動揺と現実に対する否認とで揺らぐ瞳を徐々に下方へと向ける。
――…そして露わになるゲンジツに、青年は狂ったように取り乱した。
身体中の全てが現つの世界を拒絶する。