千年の恋
真っ赤な太陽が私達の影を随分と細長く写し出している。
すっかり夕刻になってしまったようだ。
産まれてから今まで村から出た事と言えば昨日が初めてで、神龍守から魔道街までの距離しか無い私には外の世界と言うのは非常に新鮮で危険なものだった。
まず、初耳だったのがそれぞれの村や街には結界が張られていて、外に居る魔物が中へ入れないようになっているらしい。
そしてその魔物達は人間を見つけると襲ってくる。更に驚く事にその魔物達はさも当たり前かのように魔法を使ってくるのだ。
私以外はみんな…魔法の使えないリリーでさえも小さな刀を持ってクルクルと身軽に振り回して魔物を倒していたのに、私は只の足でまといだった。
そもそも私は、神龍守以外の村や街があるなんて昨日初めて知ったし、考えた事も無かった。この世界は私にとって…いや神龍守の人にとっては知らない事だらけだ…。
そしてジェラルドが何やら手続きをしてくれて無事に私達は火の村へ入る事が出来た。
魔道街には何もしなくても入れたのに火の村では手続きがいるのか…。
「夜になる前に火の村へ入れて良かったね。」
リリーがホッとした様子で話しかけてきた。
「暗くなると何も見えなくなっちゃうもんね。」
「それだけなら魔法で灯りを出せばいい。問題はそこじゃなくて、暗くなると魔物は力が増大して更に危険になるんだよ。流石にあたしでも夜になると魔法が使えなきゃ魔物を倒す事は無理だよ。」
「そうだったんだ。」
「あかりさ、結構危険な時もあったのに魔法…使わなかったね。」
「それは…」
やっぱり龍の石の事をリリーに知られるのに抵抗があった。
リリーを信用していないわけでは無いのだけれど…少しバレるのが怖い…。
まだ使いこなせていないのもあるのだけれど、流石に鈍臭い私でも何となく使い方はわかってきていて、必死に魔法を使わないようにしていた。
「使わないのか、使えないのか…まぁ今のあかりは言いたく無いみたいだし。」
「ごめん…」
「まぁ別にいいよ。そのうち言いたくなったら教えてよ。」
「うん。」
リリーは色々私に良くしてくれたけど龍の石の事はまだ秘密にしててもいいよ…ね?
「とりあえず残り香のある場所へ行こうか。あんたが行かなきゃあの光は動かないんだ。」
瞭然がそう言ったので私達は光のある場所へと向かった。
これでテンテンに会えるかもしれない。そんな少し浮ついた気持ちを抑えながら…。
数十分歩くとキラキラと輝くそれはあった。
「これは…どういう事…?」
私の目の前には光を見失った時と同じの、魔法ショップ-アレギラ-と書かれた全く同じ外見の店があった…。
「たまたま似た風になっただけかもしれないし、中にあの爺さんがいるか調べてみる?」
そう言うとリリーは中へ入ろうとした。
「まって…。もしお爺さんが同じ人なら…リリーが疑ってた様にあのお爺さんがわざと血の契約書の事を話さなかったとしたのなら…何か裏があるのかもしれない。」
「あんたらさっきから何の話してるんだ…血の契約書ってどういう事だ?」
話を聞き流せなかった瞭然が聞いてきた。
「えっと、−−−−−−。」
私とリリーは今朝起こった出来事を瞭然とジェラルドに一通り話した。
「なるほどな。もし同じ建物に同じ爺さんなら空間魔法がこの店に仕掛けてあるんだろう。」
「問題はもしそうだったとしたら、この爺さんはアレリーの仲間の可能性が高いって事だね。」
ジェラルドは何やら難しい顔をして言った。
「この状況から察するにほぼ黒だ。今爺さんと接触していろいろと勘付かれるのはまずい。このまま光を追ってテンテン君の居場所を探そう。」
アレリーの得意とする魔法マリオネットや、血の契約書…色んな不安が私の中を駆け巡って行くのがわかった。
テンテン…どうか無事でいて…。
私は店を後にして、テンテンの残り香を進めた。




