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となりの空は紫い  作者: 須野 セツ
18/73

story2 その5

「おー、しばらく見ないうちに背伸びたねえ 」

「久しぶりに会う親戚みたいなこと言わないでよ。たった一週間ぶりだし 」


画面越しの芽衣を思い、今しがたまで憂鬱な気持ちを抱えていたが最初のやり取りでどこかに吹き飛んだ。だが吹き飛ばしたままではそれは現実逃避に過ぎないと蓮は分かっていた。けれど芽衣になんて声を掛けたらいいのか、その答えも未だ模索中だ。

 アサミは気を遣ってなのか付いては来なかった。場を荒らすジョーカーみたいな存在なので正直助かったといえばそうなのだが。

 公園の中を駆け抜けていく秋風は季節の変わり目をどことなく伝えているらしかった。隣にいる芽衣は風に触れた腕を軽くさすっている。蓮は生きていた頃の感触を探り、何週間か前の風は天の恵みだったのにな、と世界は日々変わっていることを変わらない今で教訓として零れ落ちてくるのを受け取る。

 場がそよそよとしてきて今度は芽衣のスカートが一定の調律を保ちながら揺れる。たまに露わになる太腿は艶めかしい白桃色に染まっていて、目に入った途端に身体の奥底は勝手にかあっと熱くなってしまった。

 

「小学生まではこんなところでも遊んでたよねー 」

「こんなところでも、だね。”最近の小学生”はインドア派みたいだったから 」

「あはは。こないだTVで見たけど、今の子どもは私たちよりもどんどん世界が狭くなってるんだって。外っていう地球丸ごとから家の中になって。家の中でも今は自分の目の前だけが世界だってよ。ほら、ゲームとかスマホとかそういうのばっか 」

「じゃあ最近の小学生はやっと進化したってわけだ 」

「進化じゃなくて退化だよ。深海魚が暗いとこでずっと生活してて目が見えなくなるのと一緒なの 」


家でかくれんぼするのってすごいドキドキするのにね、と芽衣は嘆息をもらした。それから思い出したように、


「おじいちゃんとおばあちゃんは元気なの?  」


と懐かしむというよりは割と真剣な面持ちで聞いてきた。あまり触れて欲しくないテーマだった。


「実は芽衣がいなくなってからほぼ会うことはなくなったんだ。だからどうしてるのかも知らない。不思議だよね。お隣さんなのに会わないと思った途端に全然会わなくなるんだから 」


蓮は半分は本当のことを言い、そしてもう半分は嘘をついた。死んでしまった今も含め、芽衣が引っ越してから田中さんの家に行くことは一度もなかった。けれどお隣さんの宿命があるのだから、たまには外でばったり会うことはあった。しかしそんなとき蓮はおじいさんたちを避けるように歩き、挨拶すらもしなかった。疎遠になった原因は蓮のみにある。


「そっかー。じゃあ今から行っちゃおうか 」

「勘弁して。本当に無理だから。それに帰りが遅くなったら家族が心配するよ 」


これはうっかり滑って出た台詞ではなくわざと家族を滑り込ませた。それほど蓮は行けない理由があるのだ。背に腹は代えられない、を初めて体験できたことに少しだけ感動を覚えた。案の定、芽衣の表情は青空に厚い雲が覆うように明るさが失われていく。その表情の言い訳をするためか、芽衣はおもむろに話しはじめた。


「家族なんて別にいいんだ。今、家にいても一人ぼっちだから 」

「どうして? 」

「家族が四人になったの。お父さんと……妹とお母さん。蓮と一緒の中学に行けなかったの新しいお母さんと妹と一緒に暮らすからだったんだよね。こないだ変な感じになっちゃったの気付いてた。ごめんねっ 」


最後の謝り方だけは空元気でコーティングされていた。事前に芽衣の事情を知っておいて本当に良かったと蓮は思う。何も知らずにこの話を聞いてたらきっと何も言えなくなってしまう。こんなときに気の利いたことなんて言う才能がないことを自分自身が一番よく分かっているのだから。

 

「ほら、私は蓮の知らない私のことを喋ったよ。蓮も中学時代の話でもしてくれないとさ、不公平の罪で訴えることになるからね 」


芽衣は拒否なんて絶対させない、と蓮の目をじっと見つめる。この目には弱かった。とりあえず観念した、とノープランのまま蓮は口を開くことにした。



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