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となりの空は紫い  作者: 須野 セツ
13/73

story1 その13

story1最終回です。

 ソウスケの学校からの帰宅の時間の頃合いを見て、作戦成功のお祝い会でもしようか、と思っていたのに


「もうひと仕事しようか 」


とのアサミの一言で、その予定は先延ばしとなった。

 けれどもそのひと仕事とやらに蓮は思い当たることがあった。

 学校からしばらく歩いて、この街の雰囲気よりは幾分張り切っている商店街ゾーンを抜ける最中でひと仕事の対象である場所へと着く。目の前にはお弁当屋があった。店の扉には「高校生からバイト募集中 」との丸っこくレタリングされた貼り紙があるが、店内の様子を見るからに店員にも客にもフレッシュさはあまり感じられない。


「あれ、なんでお弁当屋なんかに!みたいな反応を期待してたんだけどな 」


アサミはいかにもがっかりといった様子で大げさに俯いてみせる。その後、目を泳がせてから蓮の顔をじっと見つめ、


「もしかして知ってた? 」


そう試すような目つきで嬉しそうな語気へと変わった。

 アサミの言う通り、蓮はこのお弁当屋がソウスケの母が働いている職場だと知っていた。それも毎日朝から夜遅くまで働いていることも。

 ソウスケの家に貼ってあるシフト表を一度見たことがあったが驚いた。ソウスケの母だけ他の人よりも働いている量が異常な多さだったのだ。それを見てからは気になってソウスケの担当時間が自分じゃないときに、ここに来ることが多くなった。ここに来るようになって分かったのは、ソウスケの母が賃金以上の労働を強いられているということだった。店長がブラック企業にかぶれているような人で、ソウスケの母にお金が必要なことを利用して断れない迫り方で働かせていた。


「あの店長は本当に気に食わない。なんとかしてやりたいよ 」

「——なんとだな、今日は運のいいことにあのブラック店長よりも偉い親玉みたいな人がこの店の視察をしに来る日らしい。あのやりたい放題の店長もその人には逆らえないとか。これを使わない手はないよな 」


昔話の語り部みたいな仰々しい口調でアサミはやろうとしていることを遠回しに匂わせてきた。蓮はそれだけでは何なのか分からず、たまらなくなって詳細を聞いた。



 商店街からアパートまでの道を一人の女性は、軽やかすぎるくらいの足取りで躍り歩く。周りの人が見たら彼女に何か良いことがあったのだろうと容易に想像がつくほどだ。しかし陽が落ちた浅葱色の空の下では彼女の姿は目立たないのが幸いである。

 店長にこんな早く仕事に上がっていいと言われたのは本当に久しぶり、いやもしかしたら初めてだったかもしれない。それにシフトを見直すとまで言われてしまった。突然の店長からの扱いの変化にしばらくどういうことか、と頭を抱えそうになるほどだった。でもとんでもなく嬉しい出来事なのは不変の事実だ。

 そうだ、今日はソウスケにハンバーグを作ってあげて一緒に食べよう。あの子はいつも冷えているご飯しか食べられていないのだから。

 あの子の学校のことも聞きたい。どんな友達がいるのか、勉強にはついていけているのか、何か楽しいことはあったか。

 それにしても店に来たエリアマネージャー。前に来たときはあんな人だったかしら?



「——憑依なんてもの、本当にあるんだな 」

「まあ俺くらいのベテランになりゃ、あれくらいは容易いもんだ 」

「あの店長、今までの悪事をバラされて焦ったり、黙りこくってたりだったね 」

「これでソウスケはお母さんと一緒に過ごせる時間が多少増えるだろうさ 」

「もうソウスケも家に帰ってるだろうし、声掛けていこうよ 」


饒舌だったアサミが急に黙ってしまった。どうした、とそんな一言を掛けるのが何故だか無性に怖くなる。なんだか望まない答えが彼の口から出るのが分かっている気がして。


「もうソウスケに俺たちの姿は見えない 」


唐突だった。「なんで 」とかそんな無粋な質問をする心の余地はない。


「生きている人間が俺たちを見れるようになるのは、普通はその人が心に大きな不安や悩みを抱えているときだけなんだ。しかもそのときに見えやすいってだけさ 」


友達を取り戻し、問題を解消したソウスケの目にはその世の人間は映らない。簡単な方程式の解を出すときのように答えだけが頭に跡を残した。 

 その世にはまだ蓮の知らない秘密が、時には苦しみを与えるものがある。今、少しだけ死んでいることが苦しかった。


「だからその世に帰ろう 」


笑顔にはなり切れなかったかもしれなかったが、それなりに明るい顔で頷くことにした。


————ありがとう


マジック中のソウスケからの言葉。言われたときの耳を擽った感覚を思い出すように耳たぶをつまんでみる。その世で生きていける、根拠なんてあるはずもなく蓮はただそんな気がした。



————十八時のニュースです。〇〇日未明、トラックの暴走で三人の被害者うち一名が死亡した事件ですが、事件当日の様子について興味深い証言を得られたということです。警察によるとトラックの目撃者は「運転席には誰も乗ってなかった 」と発言しております。証言を踏まえ、警察は引き続き慎重に事件の捜査を進めていくということです。

 

 

今後の参考に大いになるので感想など、何かしらリアクションを頂けたらありがたいです。


引き続きよろしくお願いします。

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