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となりの空は紫い  作者: 須野 セツ
10/73

story1 その10

 小学校に入るのは久しぶりだった。赤と黒のランドセルを背負ったちびっ子たちがはしゃぎながら廊下を駆けていく。学校という場所を見るのはそんなに久しぶりではないはずだったが、中学校や高校とは別種の独特な雰囲気を今だからこそ感じる。

 その独特さが何に起因しているのか。カラフルだからかな、とふと思った。女子児童が背負う赤いランドセルを筆頭にして、各児童の個性が浮き彫りになっている衣服、動きに合わせて揺れるキーホルダーなどそれぞれが明るくそして鮮やかだ。思い返すと中学や高校は制服やら、なんでもかんでも学校指定が多くてどこを見ても同じ色が連なっていた。学ランなら黒、セーラー服なら濃紺色といった具合に主に暗い色のオンパレードである。

 小学校は明るく、中学と高校は暗い。まるで自分自身の学校生活をなぞるようで蓮はフッと笑ってしまった。


「そんなに小学校は楽しそうか? 」

「別に。そんなんじゃない 」

「ふーん、それよりマジックは大丈夫なんだよな? 」


自信をもって「大丈夫だ 」と言えない。躊躇ってしまう。昨日までの練習ではいいとこ五回やって三回くらいの成功率だった。ソウスケが作戦でやる二種類のマジックの内、最初にやる方は危なげなく成功させるのだが、二つ目のマジックはお世辞にもマスターしたとは言えないほどの出来、不安を当日まで持ち越すことになってしまっている。

 だが練習中にマジックが失敗して、蓮がその度に「もう少し簡単なマジックに変えようか? 」と提案するもソウスケは黙れ、と言わんばかりの形相で睨みを利かすのみだった。

 そのマジックは例えばAを四枚、Kを四枚といった同じ数字の束を二つ、つまり計八枚のカードを使う。手にAの四枚の束を持っている状態から次々とAのカードをKのカードへと変えていき、そして最終的にはAの束をKの束に変えてしまうというものだ。説明の字面だけを見るには簡単そうな印象を覚えるかもしれないが、これがまた厄介なマジックだった。素早さと手際の良さ、そして若干ややこしい動きを正確にこなしていく必要があり、初心者には中々成功し辛い。

 だがそんな厄介者にソウスケが拘るのにはある理由があった。


「よし、二つ目のマジックはこのリセットってやつに決まりだな 」

「リセットってどういう意味? 」

「えっと、それはだな…… 」

「うわー高校生なのに分からないって。蓮は本当にダメダメだなあ 」

「ちげーし。お子さまに分かりやすく説明するのが難しいだけ 」


————全部を元に戻して、また始めからやる……それがリセット。


蓮の答えはソウスケを分かりやすく発奮させた。リンゴのように紅潮した頬がそれを物語っている。

 以前のように友達と仲良くできるようになる。過去のイタズラでの失敗を消滅させる。それはリセットと表すのが笑っちゃうくらいピッタリだったのだ。自分と重なるこのマジックは今を変えるためには通らなきゃいけない道なのだと、その瞬間にソウスケは決意したように思えた。

 リセット、リセット……力強くしなやかに響くソウスケの呟きは恐ろしいほどに無垢だった。

 

「それより、そっちの謝罪とやらは大丈夫なのかよ 」

「まあこっちは見てからのお楽しみってことでな。大人の本気の謝罪ってやつをお見舞いしてやる 」


アサミがなんでこんな余裕でいられるのか、蓮は不思議で仕方なかった。自分は昨日ソウスケと別れてから今も進行形でソワソワしっぱなしだというのに。これが大人というやつなのか、はたまたソウスケのことを真剣に考えていないだけなのか。後者だったら一発殴ってやろうと思ったが、アサミはそこまで薄情な人ではないとそのくらいの信用はさすがにあった。


「お前はソウスケの前でオタオタするなよ。一番不安なのは間違いなくソウスケだ。俺たちが堂々としてないと不安があっという間に大きくなるからな 」

「わ、分かったよ 」


分かってるよ、と言えばよかったとすぐさま後悔した。けれどアサミのことだから蓮の落ち着いていない様子を察したうえで、忠告を飛ばしたような気もした。

 目の前にはソウスケとクラスメイトの教室がはっきりと存在感を示していた。


 

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