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となりの空は紫い  作者: 須野 セツ
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story1 その1

拙い文章ですが、是非とも読んでみてください。


よろしくお願いします!

 新野蓮は今日もこの世界に絶望している。ずっとそうやって生きている。


 街角ですれ違う人は誰しもが醜い姿に見え、彼らの周りを彩る建物や車さえ歪んだものに思えてしまう。そんな風な思いが厚さを増すにつれ、蓮は自分はこの社会が向かう方向と逆行して醜く生きている実感を抱えていた。


 死にたいな、という漠然とした考えがよぎるようになった中学も終わりに差し掛かる頃だ。「死にたい」と呟くたびに不思議と渦巻いた(もや)が蒸発していくようだった。

 数少ない友人や蓮の両親は彼の中がそこまで歪みを生じているのには気付くことはなかった。友人は蓮が急に自分たちから距離を置き始めたのを疑問に思うのみに留まったし、親も自分の子が関わることを避けているのを思春期だからという最もありそうな理由で家の片隅に追いやった。

 ただ蓮も本気で死のうとは一度も考えたことはなかった。自身の目の前に映る彩りや輝きのない世界からいなくなりたいとは確かに思う。だがそれをすることすらも諦めて風に吹かれる屍のようになにも無い毎日をただ繰り返していた。


 だから歩道に乗り上げてこちらに向かう大型トラックを目の当たりにした正にその刻も蓮は焦ることはなかった。


 トラックから発される轟音は日常の世界と蓮の繋がりを分断した。その音は蓮へとぶつかっていく。遠くからその光景を見た誰もが、一人の人間の死を前に目を瞑り、目を覆った。

 しかし蓮は抱えた気持ちの先に確かにあった死が現実になっただけだと冷めたままだった。


 正直もうどうでもよくなっていた。


 迫りくる大型トラック。自分を死にやる運転手はどんなやつなのだろうか。ぶつかる直前に蓮は上を見上げる。運転席にいたのは————

 高一の初秋に差し掛かった夕暮れの帰り道、新野蓮はこうして十六年の生涯を終えることとなる。




「——はい、どうもこんにちは」


 瞼の裏側まで鋭く光が差し込んで思わず目を開けた。ふと顔の先には明るく声をかけてくる一人の少年。蓮が寝ているベッドの横で体を乗り上げながら反応を待っている。

 腕の細さや手足の短さからして小学校三、四年生くらいといったところだろうか。こちらを覗く目は大げさに丸く、髪は几帳面に統一されていてどこかお坊ちゃん風だ。周りをゆっくり見まわしてみるとここは病院の一室のような、なんとも小ぢんまりとしたところに見える。ベッドの横にある窓は厚いカーテンで覆われていたため、外の様子は残念ながら確認することができない。

 死んだにしてはあまりに情報が多く、どこかそんな考えを否定するような世界が広がっている。

 

「君はもう死んでいるよ」


 微かな予感を持っていた蓮に対して少年は容赦なく言った。心なしか表情が笑顔のままなのがなんだか癇に障る。まるで決められた規則に沿ってしかこちらと交信を取れないロボットのようだ。戸惑いを抱えながらもなんとなくこの場に慣れてくる。蓮は恐る恐る口を開いた。


「君は」

「……」


 表情はそのままだ。反応を試しているのか、遊ばれているだけなのか。


「君は誰?」

「……」


 相変わらず返事はない。蓮は自分がこの世界に倣おうとしていたことに嫌気が差した。そんなの生きている内だけでお役目御免だと。目の前の少年に喧嘩を売るくらいの勢いで言葉を押し付ける。


「誰か話の分かる大人を呼んで。君でもそれくらいならできるだろ?」


 毒を持った余韻に少年は面白そうに目を細めた。

 合格。壁が一枚取り払われたのが蓮に見えた気がした。


「俺が子供に見えるのか。……まあ見た目はそうだろうが俺はこれでも三十歳の大人なんだよ。だからもっと敬って欲しいものだな。新野蓮くん」


 風が吹くみたいにゆったりとしている。

 見た目から発する幼稚なイメージとは一線を画する雰囲気は蓮を知らぬ間に気圧す。


 奇抜でとても信じられなそうな言葉とは裏腹に、少年には三十歳を裏付ける貫禄が不思議と言葉の端々から感じ取れる。名前を知られていることもすんなり受け入れそうで気味が悪い。


「ここは病院なのか、それともなんだ、死んでいるとしたらあの世ってやつなのか。それにしてはずいぶん現実味を帯びたところに見えるけど」


 少年が待ってましたとばかりに口角を上げる。


「残念だがあの世ではないんだな。ここは君が今まで生きていた”この世”と、死んでしまった人が行きつく”あの世”のちょうど境目。通称、”その世”と呼ばれる場所だ。ちなみに自己紹介しておくと俺はアサミ。年齢は死んだときが三十歳だったからここでもずっと三十歳のまま。これからは蓮の上司となる。どうぞよろしく」


蓮が首を傾げるのとは逆にアサミと名乗る少年は子どもの高い声で笑った。

story1はその13までです。


忘れていなかったら毎日投稿するつもりです。



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