序章:決戦の時
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データ1:決戦の行われし地・朽ちた古城
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その横たわる長大な胴体のあちこちに入った亀裂から暗黒のオーラを放射する、闇色の水晶で全身を構成された巨大な毒蛇が、甲高い断末魔の叫びを上げて、もたげていた鎌首をついに古城の床へと落とす。
最終連携奥義『超新星武級破断』を放った直後の硬直姿勢から解放された『秩序のクリスタルの勇者』クロトが膝を突き、仲間達が彼に駆け寄っていった。
「やった……のか……?」
細身の長剣を杖代わりにして体を支えるクロトの顔は疲労と全身の痛みに歪み、既に体力も限界だ。
それでも仲間たちとの連続した奥義を絶え間なく連携させて、蓄積した気力を解放させる最終奥義まで繋げることができたのは、殆ど奇跡に近い。
『治癒師』アイリの、彼女自身とっくにボロボロな上に残り少ない魔力を振り絞って発動した『応急治癒』を受けて、彼の表情は少し和らいだけれども、もう一度あの蛇が立ち上がったとしたら、これ以上戦う力はクロトにも仲間たちにも残っていないだろう。
「これで死んでなきゃ、もう打つ手がねえぜ……」
双剣を床に落とし、クロトの隣に座って両足を投げ出す『武侠』マキシが、やはり普段の彼女らしくない疲れきった力の無い声で呟く。
その視線はじっと動かない水晶大蛇の燃える様な赤い瞳に注がれていた。
既に亀裂からもれる黒いオーラは途切れているが、『混沌のクリスタル』そのものである体は血を流さず鼓動も発さないために死んでいるのか生きているのかも判然としない。
ふと、何か思いついた『獣戦士』ホノカが大蛇の方に駆け寄るとその下顎に向かって戦鎚を振りかぶった。
「おい! 何して……」
マキシや他の仲間の制止の声を無視してホノカが思いっきり大蛇の死骸をぶっ叩く。 金属と水晶が打ち合う大きな音がして、そして遅れてペキ、とクリスタルの大蛇の体に皹が入る音が鳴った。
「死んでる!」
「生きててたまるかバカ野郎!!」
無邪気に手をぶんぶん振りながら報告するホノカにマキシが怒鳴りつけ、クロトとアイリはほっと息をつく。
本当に生きていて、あれで大蛇が目を覚まされたら溜まったものではない。
「おい、アレなんとかしろよ。 もう少し脳みその方とか。 お前の妹だろ」
マキシはそう言って『装鋼人』スレイに抗議するが、スレイは意に介さず、接合したばかりの右腕の調子を確認している。
さっき大蛇の尾の一撃を受けて捥ぎ取られたものだ。
「ホノカは設計開発ナンバー上では人間で言う兄弟に相当するが、生産ロット及び製造ライン上では当機とは別の系統だ。
第一、合成獣であるホノカと自動人形である当機は種族分類的に異なる。
……右腕機能回復率32%、戦闘行動には耐えず。 全体の武装逸失率77%。 バッテリー残量14%。 一次装甲劣化率89%。 損傷が二次装甲へ到達。
当機のこれ以上の戦闘持続は不可能と判断する。 システム、待機モードに移行」
要約すると、スレイは「大怪我をしているし物凄く疲れたのでもう動きたくない」と言っている。
そのままプシュン、という音を立てて今まで両目や体の各所に灯っていた青い発光が消え、スレイは反応を返さなくなる。
完璧に知らぬふりを決め込んで眠るつもりのようだった。
「ったく……」
マキシはさっきよりも疲れた顔をして今度はあぐらを組み、頬杖を突いた。
蛇の頭の上ではホノカが戦槌を振り回しながら「ちゃちゃちゃーちゃーちゃーちゃっちゃっらー」とBGMを自分で口ずさみ、勝利のダンスを踊っている。
そんなホノカを見つめて、アイリはふと呟いた。
「本当に、これで終わったの……私達の戦いが……」
「終わりましたよ」
アイリにそう答えながら、『召喚士』ユノは彼の顔を覆っていた仮面を外した。
「月光で象眼されたような」と形容され王国中で称えられた美貌を久しぶりに空気に晒した少年は、自らの携える杖の先端に嵌めこまれた7つの宝玉を一つ一つ見つめ、それぞれが内部に蓄積しているエネルギーを使い果たしているのを確認してから、言葉を続けた。
「炎魔帝も水乙女も、雷公も、氷餓鬼も。 7つの召喚獣の力を全て使い果たしたんです。 終わってくれていなければ困ります。
『秩序のクリスタル』と『混沌のクリスタル』の戦いは未来永劫何度でも繰り返されるとしても……とりあえず、今の時代の僕たちの戦いは終わりました。
あーあ! これでやっと故郷に帰れる! 愛しい彼女に会える! 使命から解放されたぞー!!」
両手を広げて長い旅だった!本当に長い戦いだった!とさっぱりした笑顔で叫ぶユノを見て、クロトは少しその顔に笑みを取り戻したようだった。
まだ痛みの走る体に力を入れ、アイリに支えられつつ立ち上がる。
「……大丈夫なの? 無理をしないで、休んでいて。 一番傷を負ってるのは貴方なんだから」
「平気さ。 最後の体力が残っていれば死にはしないんだから」
彼を気遣うアイリに、クロトは強がりを返した。 本当はまだ立っていられるような傷じゃないだろうに。
ううん、それでも、何度でも立ち上がってきたのだ。 クロトは、そうやって、今までのどんな難敵強敵も倒してきた。
クロトは、『秩序のクリスタルの勇者』なのだから。
そんなクロトの姿を見て、マキシも立ち上がる。 そして彼の肩にポンと優しく手を乗せたあと、何か忘れていることがあったような? と言う顔をして頭を掻いた。
やがて、大事なことを忘れていたことを思い出す。
「いっけねえ! 爺さんとワンコロ生き返らせて無かった! 早く蘇生させないと本当に死んじまう!」
そう言ってマキシは後ろの方に並べられている体力の尽きた仲間の死体の所に急いで走って行き、蘇生の秘薬を取り出して、使用する。
『銃騎士』アレクが目を見開き、真っ白になっていた髭が生気を取り戻してみるみるうちに黒く染まって行く。
そして『悪戯師』ワンコロもその隣でガバ!と起き上がり、自分の頭に手を当てて騒ぎ始める。
「ボクの帽子! ボクの帽子がない! どこに行ったの! ボクの帽子さん!」
戦闘中にどこかに行ってしまった生き別れの帽子を探すべく、ワンコロは両手の大きな詰めでその辺りの瓦礫を引っ掻き回し始める。
彼にとって帽子はとても大事な存在であり、相棒なのだ。
それを見ながらアレクは周囲を見回し、そして『混沌のクリスタル』である水晶大蛇が倒れ伏しているのを確認すると、自慢の髭を撫でながら言った。
「……やり遂げたようだの。 これで、ワシもお前さんたちの旅に同行する役目を果たせたということか。
アークラントの連中も、これで少しは浮かばれるだろかの」
「ああ、やったよ。 フリズナールムやミッドバル、バリシオン、あとヒューベルト傭兵団の連中、みんなの仇を討ったんだ。 ようやく、ようやくだぜ」
「あったあ! ボクの帽子さん、お帰りなさい! もうどこにも行かないでね!」
肩を叩き合うマキシとアレクの背後で、ワンコロが大切な帽子との再会を喜んでいたその時、ふと古城の崩れた天井を見上げたクロトがある事に気づいた。
そして、叫ぶ。 彼自身、まだ信じられないという驚きに打ちのめされながらも。
「いや……終わってない! 『混沌のクリスタル』を倒したはずなのに、太陽が戻っていないんだ!」
その声に、仲間たち全員が驚愕して空を見上げる。 そして、口々に信じられない、嘘だろう、という呟きを発する。
天井にぽっかりと空いた穴からは、暗黒のオーラに包まれた禍々しい太陽が、『混沌のクリスタル』に変えられてしまったままの太陽が未だそこに存在していたからだ。
……そうだ。 『混沌のクリスタル』はまだ倒されていない。 まだ『混沌のクリスタル』はここに居る。
「私」はゆっくりと足を踏み出し、「仲間たち」に近づいた。
そして、口を開いた。
「その通りよ。 あれはこの時代の『混沌のクリスタル』では無いの。 前の時代に『秩序のクリスタルの勇者』に倒された古い残骸、抜け殻。
本当のこの時代の『混沌のクリスタル』は私。 私を倒さない限り、歪んだ太陽は戻らないし、まだ戦いは終わっていないの」
「アーシャ……!?」
クロトが私の名前を呼ぶ。
『剣舞姫』アーシャ。 私の名前。
『秩序のクリスタルの勇者』クロトの、ホノカの、アイリの、マキシの、スレイの、ユノの、アレクの、ワンコロの仲間……だった一人。
彼らが仲間だと思っていた一人。 彼らが『秩序のクリスタル』に導かれし戦士たちの一人だと信じていたはずの……。
「嘘だろ、いったい、何を言ってるんだよ! その笑えない冗談はなんなんだよ!」
マキシが、私の体から立ち上る暗黒のオーラを見て泣きそうな顔で叫ぶ。
さっき倒した水晶大蛇が纏っていたものと全く同じ、『混沌のクリスタル』でなければあり得ないはずのそれを見て。
「嘘ではないわ。 あなたが見ている通り。 この私の体が『混沌のクリスタル』である確かな証でしょう?
そして、そうだからこそ私は私の以前の体も操ることが出来る」
私は、冷淡にそう返す。 いつも気丈で豪放磊落な彼女は今まで見せたことのない、初めて見る表情をしていた。
アイリが、震える声で問いかけてくる。
「どうして……? 最初から? 最初から、私達と……敵同士だったのなら、どうして!?」
「最初からよ。 レーヴェンで最初に会ったとき、あの町を襲った幻魔獣を倒した私を、あなた達は『秩序のクリスタル』の仲間の一人だから力を持っているんだって、勘違いした。
そして、一緒に行こうって誘ってくれたわね、アイリ」
私達が出会ったあの日あの時の事を、交わした言葉の全てを、私は今もはっきり覚えている。
アイリが顔を伏せるのと入れ替わって、大蛇の頭から降りたホノカが寂しそうな顔で言った。
「一緒にケーキ作ったのに。 とても楽しかったのに。 ……敵だったの?」
「敵なの。 ケーキ作りは楽しかったし、アンフェルの劇場で女優の代役を一緒にやったのはもっと楽しかったわね」
それからの私達はずっと一緒に過ごし、一緒に戦ってきた。
ケツァルカトル号で世界中を旅して回り、色んな出会いと、色んな喜びと、色んな別れと、色んな悲しみとがあった。 毎日がとても幸せだった。
ホノカは、戦槌を握る手と空の拳をそれぞれぎゅっと握り締めて何かを堪えていた。
アレクがそんな彼女から私の姿を遮るように前に出た。
「『混沌のクリスタル』は何度でも復活し生まれ変わる。 そしてその度に違う方法で世界を滅ぼそうとしてくる……。 伝承をもう少ししっかりと頭の片隅に置いておくべきだったのう。
前の時代の『混沌のクリスタル』との決戦場で戦うとは、考えてみればおかしな話だわい」
「蛇は古い抜け殻を脱いで新たな体を得る。 この時代では人間の姿を取っただけ。
私こそが、あなたたちが倒すべき『混沌のクリスタル』なの」
その言葉を言い終えた次の瞬間、今まで沈黙していたスレイの両目と全身に青い光が点灯する。
「一次装甲パージ。 安全装置解除。 奥義『破砕終極拳撃』起動!!」
スレイの体を覆っていた鋼鉄の装甲が一瞬で消し飛び、その下の二次装甲とミスリル骨格フレームが露出する。
同時に全身から炎が吹き上がって彼自身を焼き焦がすほどの熱波が内部から周囲に放射された。
機械的に正確無比な正拳突きが私の胸を打ち、金属と水晶が激突しあう音が古城に響き渡る。
けれど、その右腕は接合したばかりの部位から弾け飛んで砕けた。
「……優しいのね、スレイ」
私はゆっくりと自分の腰の刀を抜く。 スレイの青いガラスの目が静かな光を湛えていた。
「発言の意図が不明だ。 『破砕終極拳撃』による攻撃は対象の残り体力に関係なく50%の確率で一撃死させる。
成功すれば当機の「元仲間」を苦痛なく撃破することが可能であり、これを選択しない合理的理由はない。 ……成功しなかったが」
それを、優しいって言うんだと思う。
私は、奥義の反動で自壊を始めるスレイの動力部に刀の切っ先を突きこんで停止させた。
それによって急激に熱の収まっていくスレイの体の影から、ワンコロが連携のために躍り出てきた。
「奥義ィ! 『毒々葬爪曲』だよぉ!!」
回転しながら爪による連撃を加えるワンコロに間髪を居れず、さらにアレクが連携を繋げて来る。
「ボクはなんかおかしいと思ってたんだよねぇ! だってアーシャは『竜熱病』にもかからなかったし、腐り沼で罠に落っこちた時も、一人だけ平気だったし、『混沌のクリスタル』の力の影響を受けてないのはさ!
アーシャが『混沌のクリスタル』そのものなら、当然の話なんだよぉ!」
そう、ワンコロはいつも私を見ていた。 私だけじゃなく、仲間たち一人一人の様子を注意深く見て、気を回してくれていた。
だから真っ先に私への違和感に気付いていたんだろう。 でも今まで全く疑念を口に出さず、ここまで来てくれた。
そのワンコロの爪が私の胸を引っ掻き、スタンを発生させている間に長銃の装填が完了した。
「ワシとワンコロは蘇生の秘薬のおかで気力が満タンだからのう! 遠慮なくやらせてもらうぞ! 奥義『竜撃凶哮弾』!!」
長大な銃身に大口径の特別強装弾を装填したアレクの銃は、巨大な爆弾が炸裂したかのようなマズルファイアを放ち、反動でアレクの体が転がりながら後ろへと吹っ飛んでいく。
私は、スローモーションな時間感覚で迫る凶悪な先端形状の銃弾を見つめながら、ワンコロと一緒に迷子になった猫を路地裏から森へそして洞窟に果ては雪山を経て火山まで追いかけた時や、アレクが世界のあちこちで無くした蒸気時計の部品を集めた時のことを思い出していた。
そして、スローモーションな速度で動くワンコロの足をローキックでこかし、迫る銃弾を刀の一薙ぎで叩き落す。
次の瞬間、時間感覚が通常の状態に戻る。
「あいっ……たー!? なに!? 今なにが起こったのボク! 急に転んだよ!?」
「なんとっ……! あれを剣で弾くことが出来るとは……!?」
こかされて顔面から床に激突したワンコロが鼻を押さえ、転がっていって壁際の瓦礫に激突して止まったアレクが信じられない、という驚きの表情で私を見る。
そこまで驚くことではないと思う。 だって、これは水晶大蛇も通常攻撃で使用していた技だから。
ただしあれは3手番ごとに1回の割合だけど。
「……反撃を、させてもらうわね」
そう告げて、私は手に握る刀を振りかぶる。
刀身からも暗黒のオーラが立ち上り、私の発する殺気が空気と古城の壁や柱をビリビリと音を立てて震わせた。
「不味いっ! 地巨人! 防壁でみんなを守れっ!」
ユノが杖を輝かせて岩の巨人を召喚する。 でも、召喚獣の力は既に使い果たしているし、気力は回復していない。
私が刀を振りぬくと、その剣圧を受けた地巨人は砂となって簡単に崩れ去った。
そして、その巨体を貫いた剣撃の威力が彼らを襲う。 暗黒のオーラは実体のような打撃力を伴って皆の体を打ちのめした。
全員が、床に倒れ伏す。
まだ力尽きては居ないようだけれど、戦いを続ける体力の残っている仲間は居ないだろう。
そう思って私はうつ伏せに倒れて居るクロトの方に向かってゆっくり歩き始めようとした。
すると、驚いたことにユノがまだ立ち上がろうとしてもがいているのに気付く。
「まだ……最後の、力が……ある! 神光竜! 行けぇっ……」
杖の先に光が灯る。 でも、7つの召喚獣最後の一つ、神光竜は出現することが無かった。
その最後にして最強の召喚獣の封印を解くために私たち全員と、6つの召喚獣それぞれの助力を得て手に入れた切り札。
それは既に水晶大蛇を倒すときに使ってしまっている。
連戦で充分な回復が得られていない状態では、神光竜がいくら私達に力を貸したいと思ったとしても無理だ。
愕然とするユノを尻目に、私は歩みを再開する。
その時、いつの間にかゆっくりと立ち上がっていたホノカが耳をつんざくような雄叫びを上げた。
「うぐるるるるぅあああああああ! ぐがあああああああああ!!」
比較的人間に近いタイプの合成獣であるホノカの肉体が急激に変化し、獣の部位の占める割合
が増えて行っている。
それは戦闘能力に極限まで能力値を振り分けた、彼女の切り札というべき特化形態だった。
普段とほぼ逆、9割が獣と化したホノカは既に人間の面影を残しておらず、どちらかと言えば幻魔獣のそれに近い。
人間が幻魔獣に対抗するために作り上げた究極生物兵器。 その進化と発展の行き着く先は、幻魔獣と同一の存在になることを示している。
(アーシャお姉ちゃん、私ね)
ホノカの爪を、牙を、殴打を、体当たりを、蹴りを、嵐のような絶え間ない猛攻を受けながら、私は思い出していた。
(この世界に生まれ来て、凄く幸せなの)
打撃を受けて吹き飛ばされ、激突した柱が砕ける。 ホノカが投げつけた巨大な瓦礫が私の頭部にぶつかって、粉々になる。
(だって、クロトや、アイリお姉ちゃんや、ユノくんや、アレクや、スレイや、ワンコロさんや、あとマキシも……もちろんアーシャお姉ちゃんとか、他にも今まで行った町の人たちとか、いろんな人に会えて)
ホノカが床に引き倒した私に拳を何度も叩き付け、床に敷かれた石タイルが砕けて体が埋まっていく。
(凄く凄く、楽しかったもの。 幸せだったもの。 私は兵器として作られた、可哀想だってお父さんは言うけど、私は私のこと悲しいって思ったこと無いよ?
だって、兵器って戦うためのものでしょ? 大好きって思った皆を守るために戦うなら、じゃあ私そのために兵器に生まれてきたってことだよね?
だから、私は凄く幸せなの!)
足を掴まれ、天井へと投げつけられる。 大穴の開いていない部分にぶつかった私の体は、天井の破片と共に落下する。
そこへ、ホノカの渾身の力を込めた拳が振りかぶられた。
「私もよ……幸せだった。 生まれてきて良かったもの。 あなた達に会えて」
私は、ホノカの拳が当る瞬間に全身から暗黒のオーラを炸裂させた。
カウンターの形で発動したその一撃は、ホノカの残り少ない体力を削り、魔獣と化した体を吹き飛ばし、壁に激突させて意識を刈りとった。
死んではいないだろうけど、もう起き上がる力は無いはずだ。 その証拠に、ホノカの体は再び人間に近い姿へと変化して行っている。
でも、私が一息つく暇も無くまた一人仲間が立ち上がった。
「よくやったぜホノカ……お前が時間を稼いでくれたおかげだ。 充分回復できたぜ」
マキシが口元を拭い、上位治癒薬の瓶を投げ捨てて呟いた。
足元にはさらに複数の空瓶が転がっている。
「体力も魔力も気力も全快だ! 今まで皆が繋いできた連携……無駄にしねえぜ! 食らえ!! 最終連携奥義『絶花繚乱舞踏』!!」
マキシの発動させた秒間千回の斬撃を放つ最終連携奥義が私の全身を打つ。
水晶大蛇の体でも切り刻むことができたであろうその凄まじいまでに容赦なく壮絶な攻撃は、途中で金属の砕ける音と共に停止した。
彼女が、マキシが驚愕で目を見張る。 自慢の双剣は二つとも、刀身の中ほどから折れて空中を舞っていた。
これまで度重なる激しい戦いを続けてきた彼女の両手の剣は、最終連携奥義の発動に耐え切れず限界を迎えていたのだ。
同時に、私の体とマキシの双剣が打ち合って生じた無数の火花が赤い光の花のように咲いて周囲を彩っている。
「とても綺麗……」
思わず私は呟き、その声を耳にしたマキシが私を見た。 互いの視線が交錯し、マキシが複雑な笑みを浮かべる。
しょうがねえな、これじゃ。 そんな事をマキシの目が言ったような気がした。
私も、そうだね、と笑みを返した。 そして、マキシの腹部に渾身の掌底打ちを入れる。
奥義。 『紫電飛穿剣/拳』。
全身を稲妻に纏わりつかれたマキシの体が糸の切れたパペットのように崩れ落ち、そして今度は起き上がらない。
体力が全快の状態のマキシを速攻で倒す方法が、奥義を使う以外存在しなかった。
それほどまでに、マキシは強い。
他の皆が居なくて、たった二人きりで敵と戦うときでも、マキシが背中を守っている、あるいはすぐ隣に居るってだけで安心できた。
そして、私は今度こそクロトの方へと歩き出す。
クロトの傍らにはアイリが倒れていた。 いつでもどんな時でもを皆を支え、癒し、守り、励まし、奮い立たせて来た彼女。
彼女こそがこの仲間たちの要であり、回復役。 それを欠いたりしたら私達は瓦解するだろう。
アイリさえ居れば、アイリの奥義『不死霊鳥の尾羽』によって全員が瀕死状態から復帰することができるし、何度でも仕切りなおすことができるだろう。
その彼女が、今はもう動くことも立ち上がることも出来ない。
すなわち、それは全滅を意味する。
それでも、クロトは……『秩序のクリスタルの勇者』は立ち上がるんだ。
私の目の前で、彼は今まで何度も何度でもそうだったように、細い長剣を支えにして立ち上がった。
「最後の体力が残っていれば死にはしない。 そうよね、クロト」
「そうだ……そして死んで居なければまだ負けていない」
そう言ってクロトはいつもみたいに笑った。
勝てないと思うような敵にも、そうやって臆さず立ち向かっていく。
その後ろに、マキシが続く。 スレイが追いついて、楯になって。 ホノカとワンコロが敵の足を止めて。 アレクが銃で、ユノが敵の性質に対応した属性の召喚獣で援護して。
アイリが、傷を癒しカバーする。
そして私が……そんな皆の背中を、追いかけて来たんだ。 いつも。
クロトの勇敢な笑みを、隣で見ていたんだ。 いつもだったら。
今は違う。
今は彼の隣でじゃなく、対峙してそれを見ている。
クロトの悲しそうな笑みを、正面から。
「アーシャは、いつか僕たちとこうして戦う日が来るって判って、一緒に旅をしてきたのか?」
クロトが口を開き、私に問う。
私は少しの間目を伏せて、覚悟を決めてからもう一度クロトの顔を正面から見つめた。
「ええ。 こうなる事はずっと前から判っていたことよ。 だから私は『混沌のクリスタル』がここにあるって嘘を付いて、貴方達を導いた」
その返答にクロトがやるせなさそうな表情を見せる。
そしてもう一度私に問いかけた。
「……全部、仕組んでいたことなのか? 僕たちの最初の出会いの時から」
「いいえ」
私はその問いに即座に否定の言葉を返した。
「あなた達とは偶然出会っただけ。 私のことを『秩序のクリスタル』に導かれた一人だと思い違いをするなんて、思っても見なかった。
途中で正体を明かす機会は何回かあったけれど。 でも、こういう結末に持って行くには、黙ったままあなた達を誘導するほうが、むしろ都合がいいって考えたの。
……そして、だいたいその通りになってくれた」
クロトはその返事を聞いて、長剣の柄を強く握り締める。
裏切られた気分でいるんだと思う。 彼がどんなに傷ついているのかわかる。
私はずっと彼らと一緒に居たのだから、その気持ちは誰よりも理解している。
「……これが、アーシャの望んだ結末なのか……!」
クロトが声を震わせて、激情を抑えながら言葉を吐き出す。
俯き加減のその顔は、泣いているように見えた。
だから、私は静かな笑みを浮かべでクロトに答えた。
「ええ、そうよ。 これが私の望む結末。 だって、楽しかったもの。 あなた達と一緒に旅が出来て。
あなた達と冒険して、色んな所に行って。 一緒に戦って。
だから、最後はこうしようってずっと思っていた。 ずっと決めていた」
「アーシャ……!」
クロトが、怒りや悲しみや寂しさや愛しさや……表現しきれない複雑な感情の入り混じった声をお腹の底から絞り出し、そして手の甲で涙を拭って、私に長剣を向け、叫んだ。
「僕は……君を倒す!」
そう、それが私の望んだ結末。 だから、私はクロトに笑みを返し、そして同じく刀の切っ先を彼に向けた。
刀身に暗黒のオーラが纏わりつき、それはまるで蛇のようにのたうって鎌首をもたげた。
クロトも、長剣の柄に左手を添え、左足を半歩下げて中段霞構えの型を取る。
そして、二人、同時に相手に向かって駆け出した。
私は下段から突きを放つ。 刀身から伸びたオーラが獲物に噛み付く毒蛇のような敏捷さでクロトに襲いかかり、そしてクロトはそれを斜めに切り落とす。
切っ先を切り返して、そのまま私の胸へと剣を突く。 その刀身を、私は左の手刀で横から叩く。
パン、といういい音がして長剣が弾かれ、クロトのガードが空いた。
そこへ、私は必殺の一突きを放つ。 足を大きく踏み出し、体ごと前へ。 ひたすら前へと刀身を押し出す。
「奥義。 『紫電飛穿剣/拳』」
でも、絶対に避けられないはずのタイミングと間合いで発動したはずのそれは、空を切った。
刀はクロトの脇をほんの少しだけ掠めて避けられ、刀身に走る電光だけがむなしく輝く。
本来ならそれだけでも、刀身から伝わる電流がクロトの体を打ったはずだ。
でも、既にマキシに奥義を使って気力を消費している私のそれは、元々発動するはずがない。
さらに、私がクロトの胴からわざと狙いを逸らさなければ、避ける事ができるはずがない。
ええ、そうよ。 全部、最初からそうなるように仕組んだのだもの。 これが私の望んだ結末。 私の狙い通りに、クロトのカウンター奥義が発動した。
「……奥義! 『因果悠久流転』!!」
クロトの長剣が私の胸を貫き、『混沌のクリスタル』の内部中心で光のオーラが爆発して私の体を完全に打ち砕いた。
全身に亀裂の入った私の体は床に倒れ、細かい破片が甲高い音とともに散る。
まだ原型を留めている私の上半身部分を抱き上げて、クロトは叫んだ。
「どうしてだ……アーシャ! どうして……最初からこうするつもりだったのか!? わざと僕に……」
「ええ、そうよ。 ……あなた達の仲間になって、一緒に旅をして、とても楽しかったもの。 世界中を回って、沢山思い出を作ったもの。
だから、私は思ったの。 この世界が好き。 クロトたちみんなが好き。 だから滅んで欲しくない。
そう思ってしまったのだから、しょうがないでしょう?」
そう言って、私はクロトの頬を伝う涙を拭ってあげようと腕を持ち上げて、手首から先が砕けてなくなっているのに気が付いた。
これじゃしょうがない。 諦めて、代わりにクロトに笑みを返した。
「でも……僕はアーシャにも死んで欲しくない。 世界を滅ぼしたくないって思ったのなら、そうすれば良かったじゃないか!」
「そうは出来ないの。 私は『混沌のクリスタル』だもの。 『秩序のクリスタルの勇者』とは戦わなければならない。
そのために私は何度も生まれ変わって、世界を滅ぼそうとする。 そういう存在だから、変えられない。
でも……もし、『混沌のクリスタル』に、生まれ変わらなくても、いいの、な……ら……」
クロトが何か叫んでいる。 クロトの声が聞きたい、言葉を聞き取りたいのに、もう耳が聞えない。
目も見えない。 クロトの涙が私の頬に落ちている。 とても熱い涙。 クロトの心の熱さが伝わる様。
クロトに、皆に最後に伝えたいことがあるのに、口も上手く動かない。
まだ終わらないで、私の体。 もう少しだけ。 あと少しだけ、これだけは。
「こんど、うま、れ変わった、ら……ほんとうに、なかまと、して……」
残念だったけど、私の言葉は最後まで言い終える前に意識が途切れた。
100年後。
再び、『混沌のクリスタル』は復活した。 世界を守護する『秩序のクリスタル』は、『混沌のクリスタル』を倒しうる力をもつ選ばれしものたちと、『秩序のクリスタルの勇者』を誕生させた。
こうして戦いは繰り返される。 新たな『秩序のクリスタルの勇者』の物語が始まろうとしていた……。
はずだった。
「なんて凄い! 何十匹もの幻魔獣をたった一人で倒してしまうなんて!」
「領主様の衛兵たちでも敵わなかったのに! あんな幼い少女が!」
「伝説は本当だった! あの子こそ『秩序のクリスタルの勇者』に違いない!」
村人たちの称賛を受け、砕けて消滅していく幻魔獣の群れの死骸を前にしながら、私は思った。
どこでどう間違えて、こうなったんだろう。
確かに、『混沌のクリスタル』には生まれ変わらなかった。 生まれ変わったのを認識したとき、私は狂喜乱舞した。
でも、なんでこうなったんだろう。
「『秩序のクリスタルの勇者』万歳! 新たな英雄が、オラたちの村から出るなんて!」
「素晴らしい! これで世界は救われるぞ!」
違う。 勇者違う。 私は『秩序のクリスタルの勇者』の「仲間」に生まれ変わりたかったはずなのに。
私は勇者じゃない。 クロトみたいな勇者じゃない。 マキシやアイリ達のような「仲間」の方のポジションでやり直したかったと望んだのに。
……おいこらあー! 『秩序のクリスタル』、あなたなの!? あなたの嫌がらせ!? いくら私が前の時代の『混沌のクリスタル』だからって、人間に生まれ変わった今は関係がないでしょう!?
私は勇者じゃないから! 絶対勇者じゃないから! 拒否します。 断固拒否します!
『秩序のクリスタルの勇者』は、絶対私とは別にこの世界のどこかに居るから!
そして絶対見つけて、仲間ポジションに訂正させるから!
……私を完全に『秩序のクリスタルの勇者』と認識し、お神輿に乗せて祀り上げ始めた村人たちにげんなりしながら、私は心の中で固く誓っていた。
フォン
火力
装甲
機動性
判断
指示
連携
情報
兵站
その全てに置いて、きみの活躍が戦線を左右する
英雄たちの戦いを追憶せよ
ハードミリタリーシミュレーションゲーム Dead Front 7
Ver2.7、3月21日実装 配信開始
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