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world online  作者: 気になる木の実
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職業と各々の道へ

ここで一旦区切りです!

 白髭を蓄えたおじいちゃんの前には他のプレイヤーがごった返してる、なんてことはない。神殿などの特定のエリアは個々に別れておりパーティーでなければ一緒には入れないらしい。

 おじいちゃんの側に近寄ると向こうから穏やかな声で話しかけてきた。


「ふぉっふぉっ、よくいらしたの。ここは力を授かる地。私はオリジン神殿の神官長〈ネセル〉と言う。何か聞きたいことはあるかね?」


 …………………………

 この地に伝わる神話について

 オリジン神殿について

 他の職業について

 具体的には何をすればいいの?

 何もないよ!

 …………………………


 見た目からどこか近寄り難い雰囲気のあるおじいちゃんだったが話し方は以外にも好々爺といった感じだ。どこか楽しそうな雰囲気さえ感じる。

 聞きたいことに関してはフェアラスさんが全部聞きたいと言ったので頷いておいた。俺も聞いておきたいしな。


「では、この地に伝わる古き神話について話そうよの。この大陸、〈アヴァロン〉はかつてはとても高度な文明を誇る巨大都市が、競い合うように屹立していたそうじゃ。人々は栄華を極め、その暮らしぶりはこれ以上にないほど理想的なものであったとの」


 文字板での説明がないと思ったらなんとネセル神官長が直々(じきじき)にお話を語ってくれるようだ。ゆっくりと、しかし揺るぎのないしっかりした声が朗々と響き渡る。ありがたく拝聴しよう。


「しかし! それほどにまで発展したそれら諸都市にも滅びの波は等しく訪れた。なぜか? 彼等はどれほど富を得ようと、さらなるものを望み続けたのじゃ。その飽くなき欲望のなんと愚かなことよ! とは言え、全ての銀の盃は既に黄金の美酒で満ち溢れておった。自らの欲望を満たすため、彼等はいったいどうしたと思うかの?」


 臨場感溢れるネセル神官長の語りは真に迫るものがあり思わず姿勢を正してしまいそうだ。さすがは神官長といった感じだな。

 しかし、満たされた銀の盃か。つまりは極限まで達した富ということかな? ならばだたい予想はついた。


「彼等は、隣人の銀の盃を、奪い、破壊し、砕き、そして棄てたのだよ。地べたに這い蹲り泥水をすする者を眺めることで初めて、彼等の肥えた喉は甘美なる美酒に潤されたのじゃ。彼等は富を成す叡智で兵器を作り、怨恨をもって神には復讐への渇望を捧げた!」


 やはりか。同じものしか持てないのなら他人のものを無くせばいい、そういうことだろう。これはもはやゲームのお話で済まないような内容になってきたな。


「繰り返される復讐は復讐を喚起し、より純化された憎悪と殺意は果てには〈暗黒神アーリマン〉様へと届いた。暗黒神アーリマン様はその欲望に望み通り、まさしく血と肉をもって応えた! 集いし膨大なる数多あまたの破滅の祈願、それらから破壊の代行者(モンスター)を生みだし、この地に解き放って文明と人々を喰らわせた! 愚かな者どもが気づいた頃には時既に遅く、取り返しのつかない所まで来てしまったのじゃ」


 人々の憎しみや妬み、それらを凝り固めて作られたのがモンスターなのか。その結果他者のみならず自分の身まで滅ぼすことになるとはなんとも皮肉な話だな。


「だが、全ての人が破滅を望んだわけではない。疲弊した戦乱の中で平和を願う者がいた。大切な者の安寧を、死にゆく者への哀れみを、輪廻に囚われし愚者の解放を祈る者達がいた。その小さな祈りを受けた〈光明神アフラマズダ〉様は我らに破壊を食い止めるための〈力〉を与えたのじゃ。その力こそが、この神殿にて授かる〈職業〉なのじゃよ。人々はその力をもってモンスターに滅ぼされるのを防ぐことが叶ったという。ほんとうにありがたいことだわなぁ。

 このようにして今の時代は大きな破壊の上に紡がれておる。そのことを夢々、忘れてはならぬぞ」


 ネセル神官長のお話はなかなかに興味深いものだったな。この世界はずいぶんと奥が深いようだ。


「はぁー、すごいな。職業は神に与えられた力なのか。まるで勇者みたいだ」


 言われてみればそうだな。職業という力を人類が得てからどれぐらい時間が経ってるかは知らないがこの構図は邪神とその悪の配下に抗う勇者たちさながらである。


「次にいっていいか?」

「ん、あぁ構わんぜ」


 フェアラスさんが次の項目を選ぶと再びネセル神官長は語り出す。しかし今度はさっきと違ってとてもゆったりとした口調でだ。


「このオリジン神殿についてじゃの? ここは英雄アレクセイが最初に〈職業〉を神から賜った地と言われておる。そして自然と職業を求める者はこの地へ赴くようになり、いつしか神に力を授かる場所として神聖視され、神殿が建てられのじゃ。それこそがこの〈オリジン神殿〉の起源であるそうよの。

 そして神殿はより多くの人々が〈職業〉を得られるようにする役割を担っておる。汝らも職業について知りたいことがあればいつでもここを頼るがよいぞ」


 神殿についての説明は比較的さっぱりと終わった。英雄アレクセイの物語についても聞きたいがそれはまた今度にしよう。


「様々な職業に興味があるのかね? この神殿で授かることが出来る職業は〈戦士ウォーリア〉〈狩人アーチャー〉〈魔術士(マジシャン)〉〈僧侶オラクル〉〈調教師テイマー〉〈無法者アウトロー〉の六つじゃ。

 どれも素晴らしいものであるのはもちろんじゃが、〈職業〉はこれだけに限ったものではないこともまた事実であるぞ。今では失われてしまった〈職業〉も数多あることは確かだが、各地にはまだ子孫代々その力を引き継いでいる者もいるやもしれん。そして彼等は己の職業を誇りとしていることじゃろう。その力を教わりたいならそれなりの実力が求められることもあるかもしれんの。もし職業の力を教われるようなことがあったら私の所に来るとええ、お主らのために一肌脱ぐぞい」


 職業は六つだがこの大陸を探検すれば失われた職業にもなることが出来るかもしれない、と。今はなきいにしえの力を求めてさすらうとは、なんともロマン溢れる設定じゃないか。そしておそらく、神殿に入るのに必要Lv10といった具合で他の職業になるにも満たさねばならない条件があると思われる。


「主らがやるべきことかの? これと言って縛られることはないぞい。ただ今も世にはこびるモンスターを倒して欲しいものよの。彼等の肉体を浄化することで純粋な祈りの力を解き放つことが出来る。その際に一部の力を吸収することが出来るぞい。

 それとの、もし古代の遺産を見つけたら報告してくれい。中にはとびっきり危険なものもあるかもしれんしの」


「分かりました。説明、感謝します」


 ぺこりとフェアラスさんがアタマを下げる。彼女もネセル神官長には敬意を払うことにしたらしい。いったいネセル神官長はなんの職業についているのだろうか?


「ふむ、ではよろしい。お主らは〈職業〉を授かりに来たのじゃな? 自分に相応しいと思う職業を選ぶが良い」

「私が先でいいか?」

「問題ないね、そちらの方が早いだろう」

「分かった」


 フェアラスさんはネセル神官長の前に行き仮想ウィンドウにある六つの選択肢の中から迷いなく〈狩人アーチャー〉をタップする。


「〈狩人〉でいいのかね?」

「はい、お願いします」

「あいわかった」


 ゆっくりと頷きその大きな杖が持ち上げられすっと自然な動きでその先端がフェアラスさんの額にあてがわれる。フェアラスさんの足元に二重の円が浮き上がりその中に二つの三角形が刻まれてゆき六芒星を形取る。


「光明神アフラマズダよ、ここに新たな〈狩人〉の誕生に喜びを顕し給え。祝福を!」


 杖の先端に光が集い出し、地面に刻まれた六芒星は沸立つような勢いで回転を始める。集まる光は次第に強くなり星のように淡く美しくも失せることない輝きとなる。やがてその光は杖から飛び出し、フェアラスさんの周りをくるくると回ってから胸の中へと溶け込んだ。


「ふぉっふぉっ、おめでとう。とは言えまだまだ分からないことも多かろう。〈アロ〉という〈狩人〉のもとを訪ねなさい。きっと力になってくれるぞい、場所は〈マップ〉に記しておいたからの。汝に神のご加護あれ」


 ほーっ、と息を詰めていたのかフェアラスさんが大きく深呼吸する。一見変わっていないが頭の上にある文字にはしっかりと弓矢のマークが付いている。上手く出来てるみたいだな。


「少し緊張した。でも儀式みたいで面白かったぞ、早くやっていただくといい」

「そうするかァ」


 儀式みたいというか儀式なんだろうけどな。まあかなり簡略化した感じではあるけど。

 同じようにネセル神官長の手前まで行くと六つの職業の仮装ウィンドウが開かれる。俺はまだ情報を集めてないので全部見ておこうか。


 ……………………………………………………


 ・戦士ウォーリア

 職業特性 : 武器のATK1.3倍 盾装備のDEF1.3倍

 適正装備 : 剣 斧 槍 盾 鎧

 剣と盾を手に最前線で戦う戦場の主役。癖が少なくどんな人にでも扱いやすい。


 ・狩人アーチャー

 職業特性 : 弓矢の飛距離上昇 命中補正

 適正装備 : 弓 短剣

 冷静な判断をもって遠くから弓を射り仲間を支える。状態異常攻撃などのサポートスキルも豊富だ。立ち回りが苦手な人などにオススメ。


 ・魔術士(マジシャン)

 職業特性 : 武器のMAT1.4倍 金属装備不適合

 適正装備 : 杖

 不思議な力で超常現象を引き起こす心理の探求者。強力な魔法は戦局を大きく左右する。しかし防御力は低いので注意!


 ・僧侶オラクル

 職業特性 : 回復力1.5倍

 適正装備 : 棍棒 小盾

 祈りのもとに奇跡を起こす修験者。仲間を回復したりとサポートが得意。


 ・調教師テイマー

 職業特性 : パートナーのATK,DEF,MAT1.2倍

 適正装備 : 鞭 小盾

 パートナーを中心に戦うモンスターの理解者。パートナーへの支援スキルを多く持つ。


 ・無法者アウトロー

 職業特性 : MOV1.4倍 ST消費軽減

 適正装備 : 短剣 投げナイフ

 素早い動きで相手の裏をかく自由な根無し草の流浪人。速い動きは癖が強いので上級者向け。


 ……………………………………………………



「光明神アフラマズダよ、ここに新たな〈無法者〉の誕生に喜びを顕し給え。祝福を!」


『〈無法者アウトロー〉に転職しました。

 スキル〈速攻〉を覚えました。

 スキル〈迅苦〉を覚えました。

 スキル〈投擲〉を覚えました。

 スキル〈奪取〉を覚えました。

 スキル〈毒の歯牙〉を覚えました。

 スキル〈風来坊〉を覚えました。

 スキル〈跳散〉を覚えました。

 スキル〈逃げ足〉を覚えました。

 スキル〈隠密〉を覚えました。

 スキル〈博打〉を覚えました。』


 いや、うん。まあなんだ、いつのまにかこうなってたな。というか、能力うんぬんの前に無法者の名前を聞いた瞬間これに決まっていた。なんか上級者向けらしいけど、そこは頑張って慣れよう。一応予定通り前線で戦う職業だしなんとかなるだろう。


「ふぉっふぉっ、おめでとう。とは言え、主もまだ分からないことも多かろうて。〈アイラ〉という〈無法者〉のもとを訪ねなさい。場所は〈マップ〉に記しておいたからの。汝に神のご加護あれ」

「分かった、あんがとよ」


 フェアラスさんは俺の文字プレートをマジマジと見つめている。無法者にするとは予想していなかったのだろう。戦士に収まりそうな雰囲気だったしな。だが彼女がキャラを一貫したように、俺もこの世界ではこのアウトローなキャラを貫き通すぜ。


「また変わったのを選んだのだな。ふふっ、まあでも、似合ってる、かも」


 そう言ってニッコリとフェアラスさんが微笑む。その頭の上でジト目をしたエンキドゥがこちらを見ている。バードナーが刃物のごとき三白眼に殺気をほとばしらせてそれを睨んでいた。

 俺の盟友は、礼儀というものを知らないらしく、場の空気というのが見えないらしい。

 だが、それに気づいてないフェアラスさんが面白いのでしばらくは素知らぬ顔で押し通した。





「私はこの後さっき教えて貰ったアロという方に会いに行こうと思う」


 神殿から出るとフェアラスさんがそう持ちかけてきた。その頭にエンキドゥはいない。バードナーの堪忍袋が粉砕したのだ。突然パートナーに飛びかかられた時のフェアラスさんの顔は一生ものの思い出である。

 それはそうと、俺もアイラさんという盗賊団の女頭領のような名前の人の所に行くつもりだ。場所はマップを見てみるとしっかり記されていた。


「そうか、じゃ、ここでお別れなわけだ」

「そうだな、えと、あの、フレンドに、なって、もらっていいか?」


 急にモジモジとした様子になったと思えばそんなことか。〈フレンド〉は仲の良くなったプレイヤーとお互いに登録することで連絡を取り合ったりする際にとても便利なものとなる。フレンドがイン(ゲームをプレイしている時のこと)しているのかとか、どこにいるのかとかがフレンドリストから見れるようになり、コールと言って電話のようなことも出来るそうだ。

 このゲームを始めて最初に一緒に遊んだ美人のエルフさんからのフレンド申請である。もちろんお願いしますと言いたいところだが――


「悪いが、そいつさできねェな」

「えっ!? そ、そうか……すまない」


 断られるとは思ってなかったのか、フェアラスさんはものすごい勢いでしゅんと萎れてしまう。滝のような罪悪感が俺を潰さんと襲いかかってくる。

 急いで理由を話さねばな。


「俺はそもそも、フレンドを作るつもりはないのよ」

「フレンドを作らない?」

「そうだ、この世界での出会いは一期一会。その時、その場所で、出くわした奴ら。そいつらと付き合うのが、俺のやり方ってわけだ」


 このゲームとは言え、広い世界でプレイしている数百万の人々、そこで偶然にも親しくなった者たちとほんの一時的な戦友となり、語り合ったりと過ごすこと。

 実際にはとても難しいことかもしれないが、それでもそんなロマンある冒険や物語をこの世界で、そしてギルガメッシュという俺に求めたい。


「だから悪いが、俺は誰ともフレンドにならねェのさ。もちろんフェアラスのことがいけすかない訳じゃあない。フェアラスのように実直なヤツはむしろ気が合う。だが、これが俺の方針だからよ」


 フェアラスさんの目を少し屈んで真正面から見つめ、出来る限り真摯に言い聞かせた。このやり方が要らぬ誤解を生むだろうということは分かっていた。だが、それでも既に決めたことだ。


「そう、なのか。すごいな、そんなことまで考えてるなんて。

 ……ふぅ、見れば分かると思うけど、私、昔からエルフが好きだったから、ちょっと真似てみたんだ」

「そうだな、そこそこ様にはなってるぜ?」

「うん、でも、実際ためらいはあったしね。だけど、やっぱもう少し続けてみよかな? あなたはとても楽しそう、それくらい開きなおれたらね」


 自分でもおかしいとばかりにフェアラスさんは口元を緩めてエルフらしからぬあけっぴろげな笑顔を見せる。俺も思わずつられてニヤリと笑ってしまった。


「勘弁してくれ、フェアラスさんは自分のやり方でやりゃあいいのよ。だがな、エルフはやっぱいいぜ。カッコよかったしな」

「そうか! そうかな! よし、やってみる!」


 フェアラスさんはグッと両手の拳を固めて気合を入れる。この人は、きっと天性の天然だろう。是非とも威厳を備えれるよう頑張って欲しいものだ。


「そいつァ良かった。まあなんだ、さっきはあんなこと言ったが……もし見かけるようなことがあれば声でもかけてやってくれ。きっと尻尾振って喜ぶぜ」

「ふふっ、そうだな、そうしよう」


 ガッシリと俺たちは道の真ん中で握手をした。フェアラスさんとまた合う機会はもうないかもしれないし、驚くほど簡単にばったり再見することになるかもしれない。

 ただ、今日共に遊んだことはきっと忘れることのない思い出となるだろう、それがゲームというものだ。


「またな、フェアラス」

「また会おう、ギルガメッシュ」


 しっかりと手を握り、俺たちは互いに反対の道へと別れていった。

ここまでお読みいただき、ありがどうございます。キャラクターはこんな感じでけっこうバンバン入れ替わります。

感想などのエサをくれるとやる気も育つかもしれません。

次は職業クエストが中心となります。

3月5日に更新予定!

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