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world online  作者: 気になる木の実
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森のエルフさん

 

「やぁっ!」


 フェアラスさんの気合いの入った掛け声で繰り出された一撃と共に〈トゲフラワー〉というトゲのついたしなる枝を振ってくる毒々しい色をした植物型のモンスターが光りとなり俺たちに吸収されていく。


「いい一撃だ」

「うん、ここでも行けそうだな」


 俺たちは〈ラージ平原〉でで片っ端から見かけた敵を狩りまくってLv5にまで上げた。お互いに物足りないとのことでラージ平原から東にある〈オリジンの森〉にやって来てる。ここではラージ平原よりも少し強めの魔物がポップするという話だ。もちろんフェアラスさん情報である。

 オリジンの森に現れるのは今のトゲフラワーのように植物系統のモンスターが多いようだ。森だって簡単に伐採されるわけにはいかないということか。現代の環境問題へのメッセージだろう、というのは深読みが過ぎるだろうか。


 エンキドゥと言えばぴったりとご主人の肩にとまってるバードナーとは対照的にあっちへふらふらこっちへふらふら忙しなく動き回って戦闘にはほとんど参加しない。たまに思い出したように石ころを投げつけてはケラケラと笑っていた。俺がやられたらブチ切れそうだ。


「エンキドゥ、さんはあまり戦わないのだな」

「あー、すまん」


 フェアラスさんも下品な笑い声をあげるエンキドゥにはちょっと微妙な顔をしている。なんかすごく申し訳ない。あれの責任の所在はどこか、といえば間違いなく俺に回ってくるだろう。あいつはいったい何がしたいのだか。収集をしているのかもしれないがそれならそっちに集中して欲しい。


「責めてるわけではないが、行動が読めないな」

「おそらく採集をしてるだろうよ。あいつはそれが好きらしいからなァ」

「そうか、そのようなサポートの形もあるのだな。私は迷わずこの子を選んだから知らなかったよ。でも、私はお前を選んで良かったぞ?」

「クゥー」


 フェアラスさんに優しく羽を撫でられてバードナーは気持ち良さそうだ。カミソリのような目もこの時ばかりは緩んでいる。なんだか、とっても懐いてないか? おかしいな、俺はまだあいつに触れてさえいないぞ。


「エンキドゥ、こっちへ来い」


 名前を呼ばれてジトリとこちらにうっとうしそうな目を向ける。何だその、好きな曲聴いてる時にイヤホン引き抜かれたみたいな反応は。そんなに俺のこと嫌いなのか?


「ケッ!」


 そして失せろ、とでも言いたげな吐き捨てる声を出してそっぽを向いた。こいつマジであれだな、うん。シバき倒してやろうか?


「ま、まあ無愛想なのも魅力のひとつじゃ、ないか?」


 フェアラスさん、無理にフォローしなくて大丈夫です。そして俺的には全然魅力じゃありません。ま、こういうヤツだから選んだってのは確かにあるがな。


 ふとエンキドゥがアゴで何かを示してるのに気づく。そっちを見ると、木の影から静かに這い出してくる大きな蜘蛛が。とっとと戦え、と言いたいらしい。

蜘蛛の白い体には赤と黄色が複雑に混じり合った奇妙な模様がある。細く黒い六本の脚が地面を忙しなく動いていて長くは見ていたくない相手だ。

 森のステージなだけあってやはり虫型のモンスターも出てくるようだ。風の谷のなんとかを思い出す俺がいるがさすがにあれを倒したら家みたいな虫が突っ込んでくるとかはないよな?


「次はあいつだ。後ろから頼むぜ」


 ここになるとモンスターに近づけば向こうから攻撃してくる。ラージ平原ではこっちが攻撃するまでぼーっとしているモンスターが大半だったが次のステージともなるとさすがにそれは少なくなった。


「よしきた。えっ?」


 返事をひて前を向いた途端、ひゅっとフェアラスさんの喉から掠れたような音がなる。何ごとかと振り返るとフェアラスさんは目を見開いてフリーズしていた。その先にいるのはやはりあの蜘蛛だ。


「どうした?」

「や、や、や、なん、でもないです! じゃないなんでもない!」


 めちゃくちゃどもってる。視線はうろうろと、口は上手く言葉が出ないようで開いたら閉じたりと忙しい。もしかしなくても蜘蛛とかダメな人か?


「虫とかは嫌いか?」

「えっ、えぇ!? へーきだ。問題ない! 後ろからだったな!」


 ブンブンと首を横に振ってから逃げるように俺から離れていった。何も無理しなくていいのだが。あ、森に住むイメージがあるエルフなのに森にたくさんいるであろう昆虫類が苦手なのは許せないのかもしれない。蜘蛛は虫ではないがまあ似たようなもんだしなぁ。


 俺が剣を抜いて蜘蛛改め〈フォレストスパイダー〉の前に立つとシーッと低い唸り声で威嚇してくる。糸とか飛ばしてくるのかね、初戦の敵はやり難くて仕方がないな。ジリジリと強張った顔で後ろから近づくフェアラスさんを視界に入れつつ、こちらもゆっくり近づいて行く。

 と、突然カサカサと猛ダッシュで接近してくる巨大蜘蛛。俺もちょっと声がもれそうになったが漢の意地で押し込み反射的に後ろへ下がる。


「や、やぁっ!」


 そこへ後ろからフェアラスさんの震えた掛け声と共に飾り気のない青銅の剣が舞う。威力は気合いがなくてもあっても変わらないので構わないのだが、姿勢が少しマズかった。大きいとは言え膝丈もない蜘蛛に勢いこんで上から剣を振ったのだ。当然フェアラスさん剣の重さに流されしゃがみこんだ姿勢であり、怒った蜘蛛は反対を向く。


「ーーぁ」


 とても悲しそうな声が聞こえた。至近距離でデカイ蜘蛛と向き合ったフェアラスさんは完全に硬直している。慌てて蜘蛛に接近、今度は俺が背中を切りつける。もともと挟み討ちとはこういうもんだ。

 ハッとしたように覚醒したフェアラスさんが再び剣を振り、ではなく転がってから猛然と走って逃げ出した。心の中で盛大にツッコミを入れたがあまり余裕がないので言及はしない。蜘蛛の腹が持ち上げられそこから蜘蛛の巣状の糸が飛び出す! 手で顔を隠してそれをくらうも少し体が重くなった。どうやら初の状態異常である。


「シッ!」


 蜘蛛の、おそらく顔面に蹴りを入れる。蹴りや拳はダメージがあまり無い代わりに敵を怯ませることがあるらしい。運良く怯んだのか蜘蛛は器用に後ずさったので腰を落として剣を叩きつける。そこへさらにバードナーが突っ込み迫撃を入れるとやっとのことで蜘蛛は光となって消えた。なかなかしぶといヤツだったな。


 木に隠れて気まずそうにこちらの様子を伺っている人がいる。もちろんフェアラスさんだ。あまり気にはしていないが、俺も自分があれをやったらと思うとかなり気まずいかもしれない。しかし、いたたまれない様子でいるフェアラスさんを見ていると何だか面白くなって知らぬ間に笑いがこぼれてしまっていた。


「わ、笑わないでくれ。その、少し驚いただけだ」

「クックッ、少し、ね」

「あ、いや、それなりに、かも」

「なに、無理するこたねェよ。誰にでも苦手なもんのひとつや二つぐらいある」

「そ、そうか。そうだな、うん。ギルガメッシュには苦手なものはないのか?」

「もちろんある。酒だ」


 当然とばかりに頷いてそう返すとフェアラスさんはちょっとダメな人を見る目をした。

 あいつのせいで俺の財布はすっからかんよ、ってわけではない。低めのもの一杯でも結構キツイのだ。中学生の頃の適性検査でもしっかりと陽性を示していた。だから嘘は言ってない、よな?


「なるほど、溺れないことだ」

「覚えれるだけ覚えとくぜ」


 もっとも、言葉の受け取り方は人それぞれである。フェアラスさんは違う意味でとったようだが、まあ訂正する必要はない。

 フェアラスさんもキリッとした顔になって持ち直したようなので次の獲物を探すとしよう。



 –––––––––––––––



 狩り続けること一時間以上、虫にビビりまくるフェアラスさんを眺めつつ遊んでいるとこんなにも経ってしまったようだ。そして俺たちのレベルはやっとのことで10にまで上がった。


 森を覆う葉の隙間から射し込む朝の陽光のおかげで森の中はほどほどに明るい。

 果たして初ログインから夕方や夜のエリアに行く酔狂な者はいるのだろうか? います。さっき見た時に確認しました。俺も見習わなければ。


「よし! 神殿に行こう! 私たちは結構早い方じゃないか?」


 フェアラスさんは嬉しそうにはしゃぎ待ちきれないとばかりにどこかそわそわしている。情報が確かならば、Lv10に達した俺たちはもう職業につけるはずだ。ところでフェアラスさんは何にするつもりなのだろうか?


「フェアラスは何にするつもりだ?」

狩人アーチャーだ! 前から決めていた!」


 どこまでもエルフ一直線で行くようだな。


「ギルガメッシュはどうするのだ?」

「それが、まだ決めてねぇ、近接系統だとは考えてるが」

「それなら戦士ウォーリアはどうだ? とても似合いそうだ」


 戦士か、悪くはないな。最も基本的な職業だが、その分応用性も高そうだ。ソロ多めで行く予定の俺にはいいかもしれない。


「まあ向こうで考えるとする」

「それが良いな」


 うろちょろと適当に動いたのでマップを開きながら歩き、未踏破地を埋めつつ帰路につく。どうやら大分奥地まで踏み込んでいたようだ。オープンワールドとはいえまだこの辺りを散策しているプレイヤーは多く何度も挨拶をすることとなった。


 グルリと街を囲む立派な外壁の門を潜って再びオリジンの街に戻ってきた。そして俺の頭には我が盟友エンキドゥが乗っかっている。

いや、お前さぁ、そこしか乗れる場所はないけど乗るか? お前浮けるだろうが、それにご主人様の御頭だぞ? おかげさまで道ゆく人は俺の頭を興味深げにしげしげと眺めており、その度にエンキドゥに睨まれて顔をそらしている。

 というかメルメルだったか、俺と同じパートナーを選んだ人は全く見当たらない。一番人気は男性プレイヤーが圧倒的にドラゴン、女性プレイヤーは妖精といった感じだ。次いで犬猫やウサギが多いように思える。先ほどチラッと小鬼ゴブリンは見かけたがゴーレムなどはまだ見てないな。


「楽しそうですね」


 俺の頭でグラグラと揺れてるのになぜか落ちないエンキドゥを見てフェアラスさんも楽しそうにそれを見ている。そして肩にはやはり彼女のパートナーのバード、バードナーが目をつむり厳かに佇んでいる。なんという貫禄、フェアラスさんよりエルフの威厳が備わってる。


『〈エンキドゥ〉よりアイテムの譲渡があります。受け取るものを選択してください』


 …………………………

 〈石ころ〉×15

 〈木片〉×9

 〈セラピ草〉×6

 〈再生花〉×1

 〈粘り茎〉×4

 〈モンスターのフン〉×3

 〈草蛇の牙〉×2

 〈大蛙の舌〉×2

 〈羊毛〉×1

 〈綺麗な小羽〉×2

 〈しなるツタ〉×3

 〈年季ある木片〉×2

 〈細やかな糸〉×1

 〈堅い羽〉×2

 〈光る鱗粉〉×1

 〈蝗の健脚〉×2

 …………………………


 ぬわっ! これはエンキドゥが広い集めてたもの? なんかすごいことになってんな。色々集めすぎだろ! スキル〈ボックス〉に入れれるアイテムは最大二百個までなのでまだ余裕がある、全部受け取ってしまおう。しかし、これは倉庫を買わなければすぐにでもパンパンになりそうだ。

 使い道のよく分からないものが多いがどこかで使うかもしれないと思うと捨てれないたちなんだよな。困ったもんだ。


 アイテムを見ながら使い道を考えていると神殿はもうすぐそことなっていた。微妙に読めそうで読めない漢字があって毛に埋もれて分からない俺の眉根は寄っていることだろう。最後の漢字は調べたところ、バッタと読むようだ。

だがな、エンキドゥよ、モンスターのフンっておい。お前手掴みか? どうしてなかなか、肝が据わっているではないか。これは負けていられねぇな。


「どうしたそんな怖い顔して。ただでさえ怖いのにすごいことになってるぞ?」

「むっ、そうか」


 今何気に元々の顔も怖いって言われたな。頼りがいのあるオッさんをイメージしたのに獣人風にしたのがマズかったか、いや傷のある隻眼か、はたまた赤い目か。今考えるとそれら全てかもしれない。まあもう今さらではあるが、金を使ってまで修正する気はない。


「ふむ、資格はあるようだな。通るがいい」


 神殿の前まで行くとドアの横に仁王立ちしている白銀のフルプレートに身を包んだ立派なヒゲがチャームポイントのオジさんが通行許可を出してくれた。


「おうよ」

「仕事ご苦労」


 軽く挨拶代わりの返事をしてその横を通らせてもらう。そして目の前には近くに寄ればよるほど大きくなっていく巨大な扉が。

 繊細な彫刻が施された扉は銀色の握れないほどの重圧な取ってと相まってとても重量感溢れる仕上がりとなっていたが、押してみればこれ意外なほどに簡単に開いた。これも仮想空間の為せる技か。


「わぁ〜、すごい……」

「これは見事だな」


 見惚れるようにして立ち止まるフェアラスさんが完全に素に戻ってしまってるがそれも仕方がないだろう。それほどに神殿内の作りは圧倒的だ。


 床には全てツルツルとした何かは分からないが風格のある石材を使っており、隙間どころか切れ目一つ見当たらない。今は火がついてないが渋みのある墨のように黒い燭台が一定間隔で並べられておりそれがほとんど何もないこの空間により味を出している。そして極めつけは様々な色が使われている美しいステンドグラス、それが神殿の奥を目一杯彩っており燦然と射し込む陽光が色に合わせて幻想的な光景を作り出す。宙にはその鮮彩さに応えるように不思議な光の玉が幾多も浮いている。

 厳粛さと絢爛さのハーモニー、あるはずのないものがここにある。


「ようこそ、オリジン神殿へ。どうぞごゆるりと」


 入口近くで待ち構えていた貫頭衣のような簡素な服を着ている女性神官であろう方が優美な挨拶をする。俺たちも場の雰囲気に流され慌てて頭を下げた。


「あのお方かな? いってみよう」


 フェアラスさんの声も神殿内ではどこか小声だ。祭壇の上には身長よりも大きな杖を手に、たっぷりと蓄えてある胸元まで垂れた白い髭を撫でつけているいかにもなおじいちゃんがいる。あの人がこの神殿で一番偉い人なのだろう。

 俺は先に歩み出したフェアラスさんの後ろについて、祭壇に向かった。


私めはエルフが好きなのであります。

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