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world online  作者: 気になる木の実
18/26

パートナー

お久しぶりです。

まったく投稿が追いついてないので本日から連日に切り替えます。

m(_ _)m

 

 ゴブリンの襲撃を経てからおよそ半刻ほど、目的地であるニルの村が見えてきた。


 ニルの村近辺はラージ大平原とはまた違った様相を呈している。灌木や草花に囲まれて、遺跡の跡地と思われるようなものがそこかしこにあるのだ。崩れて元の形も分からないものばかりだが、時に木よりも高い巨大な遺跡はかつての繁栄をうかがわせる。


「古代遺産探索ツアーでもあるのかね」

「ステキ! いいわねそれ!」

「なんだァ? マミは京都の寺とか好きなタイプか? 悪りぃが、俺は過去に用事はないぜ」

「……歴史嫌いなだけだろ」


 レックスさんや、それは違うのです。歴史はあくまで経験則に基づく未来への布石であって、わざわざ覚えることではないと思うんですよね、うん。


「へぇー、面白いのに。昔の人が暮らしていた文化に触れるって、なんかロマンじゃない?」

「ふん、ロマンじゃないな。浪漫とは、未知への探求、見果てぬ冒険。究極の浪漫は死の先にある」

「死ぬのは別として、まあ同意見だ」

「ふーん、バカみたい」


 キッと睨んでやるがマミは本心なのか、すました顔をしている。これだから女は、なんてことは言わん。きっと男の浪漫を解してくれる女もいるはずだ。


「しかし、結局それのまま来たな」


 レックスが俺を、正確には俺の下をを見る。ヴェスタロッサはマミと一緒に並走しているので、俺が乗っているのは例の猪だ。

 その名もヴィーナス、ギリシア神話における美と愛の女神アフロディーテのことである。

 なぜこの名前にしたのか、それは星にでも聞いてくれ。宇宙的法則が俺の本能に働きかけてきた、それだけのことさ。


「こいつ欲しいな。パートナーにはできないのか?」

「なんかアイテム必要だったろ? 馬扱いならいけるかもしれんが、お前全然乗りこなせてなくね?」


 先ほどまで怒涛の走りを見せていたヴィーナスだが、流石に疲れたか今はそれほどの速度はない。それでも馬とは勝手が違うわけで、今は打ち上げられた魚から打ち上げられて死にそうな魚になった、という具合である。


「まあ、聞くだけきいてみるか」


 そう言って目前に迫るニルの村に向かった。






「ぬ? そいつを飼いたいっぺ?」


 特徴的な話し方をするニルの村の馬屋番、ジョナールさんである。聞いてみたところ、なんかいけそうだ。


「飼えるか?」

「こいつは……〈ホーンボア〉だっぺ! とても破天荒な性格だから騎乗には向かないっぺ。でも飼うことはできるっぺ」

「それは身をもって知ってるぜ。だからこいつが良い」

「よく分からない理論ね」


 なにを言うか、これを乗りこなしてこそハードな漢に近づける。そう真理がささやいているのだ。


「登録には1000G頂くっぺ」

「ぐっ!? なんだと、そんなの聞いてないぞ!」

「手数料と登録印の代金だっぺ」


 残金1520G、払えばとうとう三桁へと突入だ。無法者は貧乏だと相場が決まってるが、これはもう窃盗暮らしに近づいてきてるぞ。


「まあいい、くれてやる」


 銀貨一枚を取りだし親指でペチンと弾き飛ばす。失敗して手前の草むらに落ちたのをジョナールさんは文句も言わずに拾った。代わりにレックスとマミから冷たい視線が飛ぶ。


 ちなみに硬貨の単位であるが、


 鉄貨=10G

 銅貨=100G

 銀貨=1000G

 金貨=10000G

 晶貨=100000G

 星貨=1000000G


 となっているそうだ。正直後半は名前がカッコいいだけで当分関係ないからどうでもいい。貨幣価値はゲーム内では共通なので、地域ごとに細かく気にする必要はない。


「名前はどうするっぺ?」

「ジャッキー、で頼む」

「あれ? ヴィーナスは?」

「そいつは過去の話さ」

「〈ジャッキー〉でいいっぺ?」

「もちろんだ、男に二言はない。あるのはいつも悔恨だけだ」

「ダメじゃない」


 ジョナールが猪改めジャッキーに触れるとシステムウィンドが表示される。


 ………………………………………………


【パートナーシステムが解放されました】


 新たなパートナーを仲間にしました。パートナーは最大三体まで連れ出すことができます。連れ出さないパートナーは〈モンスターガーデン〉に預けましょう。

 ※二人のパーティーでは二体まで、三人以上では一体までしかパートナーはフィールドにだせません。


 〈親密度〉

 パートナーのプレイヤーに対する好感度です。やる気やスキルの使用頻度などに影響を与えます。一緒に過ごしたり好物をあげるなどをすると親密度が上昇します。逆に下がることもあるので注意してください。


 〈進化〉

 パートナーには一定の条件を満たすとより強い個体へと変化するものがいます。進化には様々な分岐があることもあるので、自分のスタイルに合わせて選択してください。また、選択によっては特定のアイテムを必要とする場合があります。


 〈モンスターガーデン〉の解放

 オリジンの街にあるとても大きなパートナーのための施設です。冒険に連れて行かないパートナーはここで預かってくれます。預けたパートナーはエリア内全ての人との交流が解放されています。

 また、新たなパートナーとなる〈タマゴ〉を購入することができます。


 〈モンスターショップ〉の通知

 人間用ではないパートナー専用の装備を販売する店は世界各地にあります。その地域によって異なる様々な商品を取り扱っているので、是非探してみてください。


 ………………………………………………



「なんかきたな」


 突然のお知らせだ。ジャッキーはパートナーという括りで入れられてるらしい。確かに、どちらかと言えば戦闘員だよな。


「何がきた?」

「色々だな」

「天の啓示?」


 天の啓示、ある意味そうかも。この世界の神様からのお知らせだ。

 掻い摘んで話してみると二人とも興味深い様子である。このゲームの大きな醍醐味のひとつは、パートナーという存在にあるからな。


「俺もなにか欲しいな」


 レックスが少し羨ましげにジャッキーを見る。この巨躯の猪が仲間だと思うと頼もしいものだ。


「モンスターガーデン、カワイイ子いっぱい……いくしか!」


 マミは予想通りというか勝手に行くがよいというか、モンスターガーデンで一日中だらしない笑みを浮かべている姿が容易に想像できる。

 まだパートナーを預けている人はそこまでいないだろうが、調教師テイマーなら既にパートナーがたくさんいるかもな。



 〈ジャッキー〉Lv1

 種族 : ホーンボア

 猪突ちょとつ猛進を体現する猪型の魔物。非常に荒々しい性格でゴブリンなどが使役することもあるが正確には乗られていることに気づいてない。突き出た二つの牙は様々な生き物を貫いてきた。

 HP 300/300

 MP 20/20

 ATK80

 MAT5

 DEF30

 MOV60

 ・親密度 10/1000

 ・フレンドスキル

 〈突進〉勢いよく走り相手にぶつかる攻撃です。

 〈牙巻〉牙を使った範囲攻撃です。自分の周囲をかちあげます。

 ・進化

 現在可能な進化情報はありません。



 なるほど、ジャッキーは脳筋タイプのようだ。そして親密度と進化、この二つの情報がしっかり加わっている。

 今はあまり言えることはないがとりあえず親密度低いな、とは言いたい。まあ最初はそんなもんか。

 ちなみに、エンキドゥのを見てみると親密度は非表示であった。最初のパートナーはベストフレンドなのか、そういうことなのか。にしてはあまり俺の言うことを聞いてくれない気がするのだが。


 と、ジャッキーが光を放って消えてゆく。体が大きい分綺麗だ。今は三人パーティーなのでパートナーは一体まで、ということなのだろう。


「ま、とりあえず入るぞ」


 そう声をかけたレックスの先導のもと、俺たちはここまで運んでくれたペニー、リーラ、ヴェスタロッサに別れを告げてニルの村の入り口に向かった。





 ニルの村。

 村と言っても小規模な限界村落ではない。外壁として木の防柵や土壁が居住地を囲っているしざっと見ても多くの人で賑わっているのが分かる。プレイヤーと思われる人は、さすがに見かけないようだが。

 道半ばで多々見受けられたあの謎の遺跡群だが、この村はそれらを利用して作られているらしい。遺跡に少し手を加えて作ったような家がそこら中にある。

 人によっては街とも思える場所だ。もっとも、オリジンの街とは比較するのもおこがましいが。

 あれも街というより都市だよな。


「遺跡をぶっ壊して資材にしたのか。現代でやったらヤバそうだな」

「古代のロマンを知らないのね」

「こりゃ観光ツアーはなさげだな」


 でも遺跡ゆかりの敵やダンジョンはあるかもしれない。ダンジョンとはいわゆるRPGのダンジョンだ。洞窟や遺跡など、特定のステージのことを指す。

 オリジンの森やニア海岸などはダンジョンとは呼ばれない。それらはフィールドというのだ。


「で、どこに行くんだ?」


 村に無事到達したはいいがそこからの目的は決めてない。そもそもここに来ることが目的であったので。


「知らん」

「知らん、ってなんでよ! 言い出しっぺでしょ!」

「責任の押し付けか。聖職者とは思えんな」

「うぐ!」


 レックスの指摘にマミがおし黙るが俺たちとしては今さらな感じがするが。


「てきとうにまわりゃ良いだろ。面白そうなことがあれば、首を突っこみゃいい」


 いつからか流行り出したオープンワールド。ゲームのシナリオにあまり縛られず行きたい場所に好きなように行けるというシステム。まるで自分の足で知らない地に赴くような興奮がありその自由度の高さが画期的な面白さを生んだ。

 もちろん〈world online〉においてもそれは健在だ。このゲームの根幹を成すのは異界への訪問。自分の体を操作するVRから考えてもオープンワールド一択しかあるまい。

 だがオープンワールドでありがちなのが今回のような選択肢がありすぎてどこに行けばいいのか分からない、というものだろう。俺としては大歓迎な事態だが人によっては好まれない。

 確かに、古き良きRPGにも他にはない魅力はあるのだが。


「村を訪ねると村長宅に行くのが鉄板だよな」

「どうして? 突然やってきてトップに合わせてくれるものなの?」

「そいつはなんで魔物を倒すとお金が貰えるの? って聞くのと同じだぜ」

「そうなの? 魔物を倒すとお金が貰えるの?」


 俺がジト目をしてみるもマミは真剣な顔、というか好奇心に惹かれたような顔でこちらを見ている。最近では少なくなってきたが、知らない奴がいるとはな。

 俺も歳か、なんて言うがまだ二十代だ。


「わたし、これが初めてやるゲームだからそういうのあんまり知らないの」


 とここでマミの衝撃発言が炸裂する。俺とレックスの見開いた目が重なる。


「貴様、ゲームをやってこなかったとはなんという蛮行! 一片として赦免の余地もない! 即刻断罪してくれるわ!」


 俺が声を荒げて叫び、


「右に同意する。お前は人間としての育むべき教養を空っぽのままに仮初めの知識を凝り固めた人間でない何かだ。廃人となってその罪をあがなえ」

「えぇ!? そんなになの!?」


 レックスの追い討ちにマミが悲鳴をあげる。突如息を合わせて襲いかかってきた俺たちを困惑顔で見ている。


「いいじゃないべつに。ゲームをしようがしまいが。そんなの私の勝手だわ。人間の情操を育むのは何も一つに限ったことじゃないし、何よりも現実での人との交流がその経験に基づいて他人と己の――」

「ふん、その鼻持ちならないピャーヒャラ論理が問題なんだよ。ちまっけぇことなんざ考えるだけ無駄だ」

「少年マンガを読んで出直してこい」


 さらなるダメ出しにさすがにマミも不服そうな顔をして頰を膨らます。


「はぁ、傲慢な人ね。でも大丈夫、安心して! わたし、僧侶の偉大なる師匠アカーシャ様と会って変わると決めたの。例えあなた達のような半選民思想の持ち主であろうと、この胸で抱きとめるわ」

「ん? セクハラ許可か?」

「変態!!」

「偏見的かつ侮蔑的な発言だ。酷い話だな。俺はただ人間らしい本能を求めただけなのに」

「変態じゃない!」

「ちげぇぜマミ。変態ってのはそんな甘っちょろいヤツじゃあねェ。俺の隣にいるような素知らぬ顔で幼女を愛で――」

「テメェ殺す」


 逃げるべし。ドスの効いた声と鬼の剛手は同時に伸びた。辛くも逃げ出し裏路地へかける。無法者でよかった、足速いから。


「……レックス」

「まさかとは思うが、話を鵜呑みにするほど馬鹿ではないよな?」

「う、うんうんうん。レックスはどっちかと言えば熟女好きな感じ――」

「殺す」

「イヤァァアアーー!!」


 マミが叫びながら逃げ出す。装備の関係でなんとか追いつかれてないようだ。

 鬼ごっこ、アホとマヌケの奇譚劇。

 うむ、なかなかの出来栄えだ。いとをかし。


 うんうんと満足気に頷く俺に見知らぬ少年が走ってくる。随分と貧相ななりだが、迷子かね? おっかさんとはぐれたのかね?


 よしよし、俺様は今気分が良い。哀れな少年のお願いに神の慈悲とやらをくれてやろうじゃないか。


 腕を組んで何気なく近づいてくる少年を見ていると、


 ――ドン!


 俺にぶつかって謝罪もなしにそのまま去っていった。人が親切にしてやろうとしたのにこれだからクソガキは――おっといかんいかん。これではどこかの山姥と一緒だ。

 俺様は寛大なのだ。



 ――500Gを盗まれました。



 遅れて俺の前に浮かぶちょっとした一文。

 なるほど、そうか、さっきのはスリだったのか。

 はっはっ、俺の勘も錆びついたというわけだな。

 こりゃ一本取られたわい。


「こんのクソガキャァァアアーーー!!!!」


 無論、全力で吼えた。

今回はジャッキーの出番はなしです。

次の機会に期待!

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