メルギナの依頼
今回から本格的に口が悪くなります。
m(._.)m
「なんだいアンタら、こんなションベンくさい小僧どもが来たのかえ? 最近の組合はなっちゃおらんねまったく世も末だわな」
「おいババア、まだ生きてぇなら口の聞き方に気をつけろや」
「ちょっとギルガメッシュさん!」
喧々と俺たちをガキ呼ばわりするババア、こと〈メルギナ〉は今回のクエストの依頼人である。白髪をざっくらばんに後ろで纏めており勝気なその目からはまだ百年は生きそうな勢いを感じる。
「ケッ、まあええわい。仕事さえこなしゃあ文句は言わんよ。あたしゃ何度も説明するのは嫌いだからね、耳の穴かっぽじってよぉく聞いときな」
「俺は先にその毒をまき散らす舌を引っこ抜きてェんだがな」
「さ、さすがに口が悪いですよ!」
クエスト内容はLv10〜推奨、最高二人までのものだ。何か見つけて欲しいものがある、とのことだったが詳しい内容までは書かれていなかった。そこは現場で聞けということだろう。
「アンタらにはね、息子が遺したもんを見つけて欲しいのさ。だいぶ前のことになるけどね、あたしゃの息子は〈カイル〉と言うんだがね、そりゃもう出来のいい息子だったわい。まあ、あたしゃの息子だから当然なんだけど、あの大馬鹿野郎との子供だからちっくら心配してたのは確かさね。カイルはホントに可愛らしくて頭も良くってね、しかも荒事までこなせると来た。もうこれは次代のネセル様じゃないかしらってあたしゃ本気で疑ったよ。いつも母さま母さま、ってね。普段は強がってるくせにあたしゃにだけ甘えてきたもんさ。近所でもカイルはそこらのガキンチョとは違うってみんなして言われてたけどねぇ、まあそこらのガキどもと比られちゃあこっちもほとほと困っちまうさな。あぁ、近所と言えばあのクソガキがカイルのーー」
「禁書さん、俺ァババアのお守りはゴメンだぜ。ちゃんとオムツ変えといてやってくれ。オツムの方は、そうだな。変えがきかねェからな、そっちは放っとけ」
「ちょっ、堪え性のない人ですね。お年寄りの長話くらい黙って聞いてくださいよ」
「ーーだからあたしゃあ直接出向いてそのクソガキをブン殴ってやたのは今だに覚えてるね。あんのチビケツ、今思い出してもはらわたが煮え繰り返るわい! その後自警団どもがやいのやいのと喚き散らしてくるもんだからーー」
「禁書さん、年寄りってのはもっとこう徳のある話をするお方のことだぜ。こいつはただのババアだ」
「さっきから失礼ですよ! お年寄りのことを何だとおもってるんですか!」
「いや、俺は年寄りへの敬意はそりゃもうたんと持ち合わせてる。だがジジババへの敬意は悪いが今さっきドブに落としちまってな、今は閑古鳥がしゃあしゃあと鳴いてやがんだ」
「お年寄りにジジババもありませんよ! 息子の惚気ぐらい親なら誰でも一度はしますって!」
「お? 禁書さんは子持ちか? おとっつぁんか? 暇だから口説きの手口を伝授してくれよ」
「いや話聞いてくださいよ! 依頼受ける気あるんですか!」
「そうは言うがなァ……」
ペラペラともはや誰の何の話かも分からないことを次から次へと語っていくメルギナを見る。こりゃ一向にクエストの話題に入る気配がない。
黙ってブスリと無愛想な顔を続けること約三十分、その間エンキドゥがガイアと野球もどきを始めたのでそれを見ながら話を右から左へと聞き流していた。
禁書さんはずっと頷いたり笑ってみせたり、と真面目に話の応対をしている。すごい根性だ、すごい精神力である。あれが女をおとすテクか、俺にはムリそうだな。
「ーー色々と試したんだがね、ダメだったわい。ヤブ医者どもは揃いも揃ってホント、使いものにならんわな。やれ万能の秘薬だ、やれ奇跡の治療薬だとかを売りにきたクソどももいたね。悪いがあたしゃそんなふざけたもんを買って縋るほど盲目したつもりはないよ! あのあんちきしょうのアホ野郎ども、追っ払ったらあたしゃのこと口汚く罵りやがって、包丁持って追い回してやったさ! そんだらーー」
「おい禁書さん、こいつはヤベェぜ。俺が悪かった。これはババアじゃなくて山姥に違いねェ、人喰い山姥だこりゃ、カニバリズムの勃発だぜ」
「ギルさん、静かに」
「ああよぉ、子猫ちゃんになっとくぜぇ」
とうとう呼び方が変わった。ギルさん、ギルさんねぇ。親しみやすくはあるがこれじゃ犯罪者みたいじゃないか? なんか納得いかんぞ。
ぬおっ、ガイアお前、そのバットにしてる杖はなんだ! それってもしかしなくても禁書さんの唯一の武器じゃないのか? いやでも、でも結構飛ぶな。
だがエンキドゥ、街中で石をボールに野球は感心しかねるぞ。非常に不服だが安全のために保護者たる俺も参加しようか、どうしようか。
「ーー結局何も出来ず終いさぁな。あたしゃどんなことでもソツなくこなす万能の女だがね、コレばっかりはやりようもなかったよ。ったくギャンギャン吠え立てるのは得意でも自分のガキ一人苦んでる時にゃなんも出来んのよ。自分でもお笑い草さな、おかしすぎて今でも笑いが溢れちまうよ。歳とったクソババアを残して とっとと楽園で遊びもうてるなんざ、まったくあたしゃの亭主と息子は思ったよりも薄情な輩さね。まあ弱っていくガキンチョ黙って見てるだけのあたしゃが言えたことじゃないのは百も承知さあなーー」
「ババア、依頼の時間だぜ。いつまでもツマラねぇ言い訳してんじゃねェよ。探して欲しいもん、あるんだろ?」
「……あぁ、そうさね。ガキに言われるようじゃあ、あたしゃも歳だね。これを見てみな」
とメルギナは懐からテープのように丸められた古ぼけた長い紙を取り出した。それをコロコロと地面に広がる。
「……これは、文字? ひらがなですね」
「よくもまあ、こんな訳わからんモノを。こりゃいったい何なんだ?」
長い紙には大きな字でひらがなが端から端まで書いてある。何に使うのか、俺にはサッパリだ。
「そいつは、息子の遺した暗号さね。たまに作って遊んでいたよ。大事な物の場所が書いてあるって自慢してたけど、そいつの解き方は教えてくれなくてねぇ。久しぶりに部屋を整理してたらそいつがひょっこり出てきたのさ」
「ま、とりあえず読んでみますか。えー、と
『いつまでもみえるたくさんのことをするにもすくないわたしらのいのちよくてもきのうわらいのこしたやさしいもりのした』
と書いてありますね」
いつまでも見えるたくさんの事をするにも、少ない私らの命、良くても昨日笑い残した優しい森の下。
「…………禁書さん」
「分かりませんよ!」
「そうかい、じゃあコイツはお手上げだな。万歳しながら帰ろうぜ」
「少しは真面目に考えてください!」
とは言うがな、これはマジで分からんぞ。ポエムのようにも見えるが、内容があまりにもハチャメチャだ。やりたいことがいっぱいあるけど生きてられる時間が短くて出来ないってか? ずいぶんと忙しい野郎だな。
「前半はともかく、後半は推測し難いですね」
「優しい森ってなんだ? 薬草でも大量に取れるのか?」
「後は頼んだよ! あたしゃ起きてて疲れたわい、寝とるから何か分かったら教えてくれさな!」
「そりゃねェぜババア、あんたのーー」
「ほいじゃ、頑張っとくれ!」
ガチャンと俺の言葉を完全に無視して家の中に入っていった。それにガタンと鍵を落とす音も続く。
よし、そうきたか。OK、俺もドアをブチ抜けるかは興味があった。
「行くぜエンキドゥ!」
「ゲッギャッギャッ!」
「ちょお! ストップ! ストップ!」
「どうした禁書さん、一緒に新しい扉を開かないか?」
「開くっていうか、破壊しようとしてるじゃないですか! 強盗でもそんな馬鹿な真似しませんよ!」
「フン、俺は無法者だからな」
「全然上手くありませんから!」
グリグリと突入前に禁書さんとガイアに押し戻されてしまう。珍しくエンキドゥともリンクしたのに残念な話だ。
「だがなぁ、こりゃヒントが少なすぎる。クックッ、しかし、エライ聡明な坊ちゃんだと宣ってた割りにゃ暗号で宝探しゲームとはな、カイルくんもやっぱガキンチョってわけだわさな」
「ケッケッ」
「故人の悪口を言うのはどうかと思いますよ。それに変な口調やめてください」
禁書さんの厳しい視線を右から左へ流しつつ、再び例の暗号を口に出して読んでみる。
ガイアがヒラヒラと揺らして遊んでいるので読みにくい。
「とりあえず、この街の近くにある森って言ったらオリジンの森だけだろ? そこ行ってみるか?」
「そうですねぇ、先に周りに聴き込みでもしてみますか?」
「おいおい竜のクエストじゃあるまいに、こんなふざけた数のNPC相手に聞いて回るのか?」
「メルギナさんの家の付近に住んでる方を尋ねれば良いんですよ。昔ながらの幼地味とかいれば暗号ぐらい知ってるかもしれませんよ」
「そいつもそうか」
これで俺が事件捜査に向いてないことが確定したな。いや、単純に俺が馬鹿なのか? それは認めたくないな!
「では、となりから聴いていきましょう」
「これはゲームじゃねェのかよ」
禁書さんがガイアから紙を取り上げ、クルクル巻いてボックスへしまった。
近所の主婦Aさんの証言
※個人情報保護の為、一部修正を入れております。
「えぇ? カイルですか? はい、良く知ってますよ。ハイ、真面目な感じで、大人しめな子でしたね。あんごう、ですか? あぁそんな話は聞いたことありますが、詳しくは知りませんね。はぁ、そうですか。申し訳ありませんがしらないですねぇ、えぇすみません。何か分かったら教えてくださいね」
「そのカッコいい羽ペンとメモ帳はどこで?」
「話聞いてましたか?」
「……」
カイルの小さい頃を知るBさんの証言
※個人情報保護の為、一部修正を入れております。
「帰る? 勝手せんかい、年寄りを馬鹿にするもんじゃないぞい。ん? カイル? おう知っとるぞ! あのクソババアところのガキンチョだろう、アイツの息子とは思えんほど大人しかったのう。アゴ? この通りまだシッカリうごいとるぞ。なに、アンゴウかえ? おう、それならよお知っとるぞ! ワシがアイツにだけこっそり教えてやったからな! ん、それは知らんな、もう忘れてもうたわい。思い出せ? 無理言うもんじゃないよ、年寄りは大事にしておくれ」
「とりあえず、クソババアは公式認定で良いか?」
「惜しかったですね。まさか忘れてるとは」
かつてカイルの友人だったCさん
※個人情報保護の為、一部修正を入れております。
「カイル、か。懐かしい名前だな。音楽が好きだったのを覚えている。よく強引に遊びに連れていったよ。暗号? そういえばよくオリジンの森でこそこそやってたな、精霊様の木がある場所だ。無理やり聞き出そうとして蛇を持って追いかけ回したな、その後あのとんでもババアに追い回されたが、お前らも関わるなら気をつけろ」
「精霊様、か。美人だろうな、服は……着てない、のか!?」
「これは有力な情報ですね」
その後、何人か回ったが大体同じような内容であった。カイルは大人しく控えめであった、音楽が好きである、たまに森に何かをしに行っていた、そしてババアはヤバい。
「こんなところか、まあ森だな」
「精霊の木、というのが怪しいですね。それが優しい森、でしょうか?」
「なあに、どっちでもいい。大事なのは精霊さんが服を着てるかどうか、それだろう」
「それこそどうでも良いです。それに大前提として精霊様の性別がどっちなのか、そもそもあるのかでしょうが。それに会えるとはまだ決まった訳ではありませんよ」
「ぬっ!?」
なんて悲しいことを言うんだ禁書さん。優男で裸の精霊を一瞬想像してしまったぞ! それはいかん、ダメだ、絶対ダメだ。警報レベル最大である。
「禁書さん、ゲームにも限度ってのがあってだな」
「……女性は良いんですか」
「そいつは聞かねェお約束だぜ」
「そんなこと知りませんよ」
禁書さんは呆れ顔である。どんどん俺への対応が冷たくなっていく、なぜだろう?
「マジメな話、精霊の木ってのはどこにあるんだ? 俺はあの森の中かなりうろちょろしたがそんなの見当たらなかった」
「そうですね、私もレベル上げは森でやりましが見てませんね。どうも情報も曖昧で……まあ向こうについてから考えてみますか」
「お、行き当たりばったりってか。そっちの方が俺も良いね」
「ま、ゲームってそう言うもんですけどね」
禁書さんとエンキドゥ、それに体育座りで待っていたガイアを起こして街の外へと向かう。
目指すは、精霊の木の発見だ。




