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world online  作者: 気になる木の実
11/26

クエストに

 

「ラァァ!!」

 ーーガシャアン!!


「ギ、ギルガメッシュさん」


「アァァア!!!」

 ーーガッシャアッ!!!


「お、落ち着いてください!」


 落ち着いてください? 私は全くもって正常ですよ禁書さん。これは次なる戦いへ向けてのフォームチェックです。鎧はそのためにあるのでしょう?


「キシャアア!!!」

 ーードッシャアン!!!


 え? どうして武器を使わないかって? それは、アレですね。武器を失った時の練習です。己という存在を極限まで研ぎ澄まし最強の武器とすればいついかなる時でも対応出来ます。


「ま、まあまあまあ。いいじゃないですか、エンキドゥ、さんが魔導書を使えるって分かりましたし。あれ、スゴかったですよ! あそこまで使いこなせればかなりの戦力になりますよ! 羨ましいかぎりですほんと」

「……まあそうだな」

「そうですよぉ! 魔導書を買うのは決定ですね! ささ、魔法屋行きましょう魔法屋! 私のお勧めのいい店があるんです、こっちですよ!」


 気をそらしたいのか禁書さんは捲したてるように話してくる。

 はぁ、俺もこんな情けない真似は辞めよう。あれは完全に俺の負けだった。それは認めざるを得ない。別に炎の中に突っ込んだからといって熱かった訳でもなし。ただリアルだったら死んでいたというそれだけの話だ。それが許せんのだが。

 しかしいつまでもそんなことで落ち込んでるのもみっともないの一言である。今回は潔く負けを受け入れよう。

 だがな、エンキドゥよ。これで勝ったと思うなかれ! 次に貴様に剣を向ける時は胴体と首が繋がってると思うなよ? そのちまこい壺から叩き出してやる。


 ーーガッシャアン!!!!

「お、おい辞めろガイア! 何やってる!」


 今までぽつねんと隅で佇んでいた禁書さんのパートナー、ゴーリムのガイアが突然正拳突きを始めた。腰の入った綺麗な一撃は鎧の胸部を見事に穿つ。俺より破壊音が大きいのはちょっと悔しいな。




 魔法屋の見た目は想像通りというか、円錐屋根の下は奇妙な飾りやらあまり見ない植物やらが無秩序に、迷路のように入り混じって壁を覆いつくしており見ているだけで騒がしい。だが店内はそれを鼻で笑うような恐ろしいものであった。そこらに散らかされた瓶に箒、動物の模型や吊るされた袋、高そうな物から用途の分からないものまでごちゃ混ぜに置かれていて空き巣に入られたような有様である。

 客が少ないから変だと思ったよ。禁書さんはどうしてこうも変な店を選ぶのだろうか。


「あ〜ら、いらっしゃ〜い」


 全てを考慮してこの店はYES。なぜなら、店主さんが妖艶なる絶世の美女だから、それに尽きます。埃っぽい店内にアクセントのように白く光る純白の肌、長く伸びた艶やかな雰囲気を纏う絹の黒髪が突っ伏したカウンターの上に扇になって広がっている。腕の中から現れた顔にはつっと伸びる長い睫毛の下に猫のような瞳が覗いていた。

 まるで魔性の女だ。


「禁書さん、ナイスだ」

「ごほん、ギルガメッシュさん。それはまあ大事なんですけどね」


 俺が女店主を見ながらニヤリと笑うと禁書さんは訂正するように声を出す。


「この店は汚いけど何かと掘り出し物が眠ってるんですよ。探してみては?」

「ほぉ、そりゃ面白そうだ」


 こちらをとろんと眺めている女店主は汚いと言われて怒るということも無かった。気怠そうにしているだけだ。なんかエンキドゥに通ずるものがあるな。

 失礼なことを言っている禁書さんではあるがなんだかんだとその目はチラチラと女店主の方へと泳いでいる。フフンまったく、禁書さんも隅に置けんな。


「んじゃ、発掘開始だ」


 ガラリガラリと喧しい音を立ててはガラクタを引っ掻き回して何かないかと物色する。見たまんま、ほとんどが使えなさそうなものだ。うーんと唸り声をあげて禁書さんは傘の様に乱暴に縦長の箱に突っ込まれた杖を真剣に見ていた。その後ろでガイアが腕を組んでいる。


「キッ!」


 とエンキドゥが嬉しそうな声で叫ぶ。見るとガラクタ山から奇妙なブレスレットを取り出している。


「あんだ? それ欲しいのか?」

「キッ!」


 ブンブンと俺の前で振り回しながらそれに応えるエンキドゥ。

 ブレスレットには赤色のいやに怪しい光を湛える宝石がついている。黄金の装飾と相まって正直ケバケバしい。いかにも金持ちの我儘婦人の必須アイテムといったところだ。

 だが、エンキドゥはこれが良いらしい。光り物が好きだという情報は間違いないようだ。



 ルビーのブレスレット※

 Lvー

 DEF1

 炎の宝石、ルビーを嵌め込み金で細工を施した煌びやかなブレスレット。宝石には対応する属性の威力を上げる効果がある。

 ※この商品は偽物ぎぶつです。



 おい! 偽物ってなんだよ! どうりで歪な輝きだと思ったぜ。俺の審美眼を誤魔化せると思うなよ! 

 ただ、偽物なら安いかもな? それなら買っても良いかもしれない。


「お姉さん、こいつはいくらだい?」


 妙にキザったらしい声を出してエンキドゥから取り上げたブレスレットを美貌の店主の前へと置く。

 女店主はその声を完全に黙殺してパッと置かれたブレスレットを取るとジーッと見てから眉をしかめてポイッとこちらに寄越した。


「あげる」


 と一言、それだけ言ってまたドチャリと突っ伏す。この店主やる気なさすぎないか?


「ギルガメッシュさん! 魔導書はどの属性にしますか?」


 禁書さんが声を張り上げて奥の方からこちらに呼びかけてくる。そこには例外的にキチンと並べられた魔導書が棚に納まっていた。


「あぁ? 何があんだ?」

「火と水と風と土です! 基本ですね! もっと強くなったら他にもあるそうですよ」

「中の魔法はどれも違うのか?」

「だいたい同じですよ。ただ大きな体系で言えば火は攻撃、水は癒し、風は速さ、土は守りとなってるそうです。そこにちょっと違いがあります」


 なんだ、そんな大事なこと初めて聞いたぞ。よし、ガンガン行きたいから火で行こうか。さっき使った限りではエンキドゥも相性が良さそうだしな。


「火にしよう」

「おっ、エンキドゥさん、お揃いですね。一緒に頑張りましょう」

「ケッ!」

「おらテメェ失礼だろが、禁書さんにこうべを垂れて感謝しやがれ」

「ペッ!」

「あ!?」

「い、いや大丈夫です! 全然気にしてませんから!」


 禁書さんは慌ててエンキドゥを肯定する。でもね、この野郎、少しは他人への礼儀を覚えるべきだと思うのです。特にアイラの姐御の前とか、な。


「おいクソ壺野郎、このキンキラが欲しいんじゃねェのか?」

「ギ!? ……グ、グ」


 ブラブラとエンキドゥの前で先ほど頂いたブレスレットを見せつける。エンキドゥは悔しそうに歯を噛み締めながらブレスレットと禁書さんを見比べている。

 キラキラか謝罪か、払うべき対価を比較してるようだが紛い物のブレスレットと比べるのもそれはそれでかなり失礼だ。


「ゲギャッ!」

「おっと、そう簡単にはいかんぜ」


 ヒュッと獲物を捕らえる蟷螂カマキリのごとく伸びてきた手からブレスレットを引っ込めて避ける。こいつが素直に言うことを聞かないことは予想済みだ、絶対に来ると思った。


「あの、私はべつに……」

「いや禁書さん、ここはひとつ、謝罪を受け取ってくれや。このままじゃ増長する一方だぜこの馬鹿」

「……グゥーー」


 観念したのか、エンキドゥはすさまじく無愛想な顔で禁書さんに会釈程度に頭を下げて謝罪をする。

 ふん、まあ良いか。ブレスレットを渡してやると引っ手繰るようにしてそれを取って腕にはめた。かなりデカすぎるのかゆらゆらと落ち着きのない着きかたをしているがそこは気にしないらしい。


「はは、頑張ってなエンキドゥさん」

「……ガァ」


 禁書さんはまたもや苦笑である。何だかこの人は現実でも苦労してそうだ。ピシッ、とその後ろではガイアがウエイトレス顔負けの直角お辞儀をしてみせた。言葉も表情もない彼だが、そのぶん豊かなジェスチャーが面白い。


「良いブレスレットですね。ガイア、お前は欲しいものはないのかい?」


 禁書さんがそう優しく尋ねるとガイアは向日葵ヒマワリのついた女性物の麦わら帽子をガラクタの中から広い上げてパッパッと埃を払った。


「え? ガイア、それが良いのかい?」


 コクリと淑やかに頷くガイア。何で魔法屋に麦わら帽子があるのか、それはそもそも商品なのか、そんなことは置いといてガイアの趣向に驚きだ。実は女の子なのかもしれない。さっき彼と言ったことは修正せねば。


「う、うーん、分かった。それを買えるか聞いてみるよ。え、それも?」


 ガイアはさらに水色の可愛らしいワンピースを拾い上げている。コロリと首を傾げて禁書さんの反応を待つ。


「あー、うん。……お金が足りたらね」


 そう言って悲しげなため息を吐き、杖と麦わら帽子の上に乗せたワンピースを両手にドタドタと禁書さんが美人店主のもとへと駆けていく。

 購入はできたもののそれなりのお値段だったのか、禁書さんは泣く泣く熟考の末に選んだ杖をもとの場所に戻していた。


「……尻に敷かれるタイプか?」

「キキッ!」


 失礼なことを考えてる俺であった。




 くるりクルクルと楽しそうに回る人形ゴーレムのご令嬢、ガイア。向日葵笑う麦わら帽子を片手で抑え、綺麗な水色のワンピースをくるくる回してふわふわ舞わせる。

 それに合わせて周りを回るのは我が盟友、エンキドゥ。その腕にはしっかりと抱えた火の魔導書と耳に引っ掛けたブレスレット。


「……平和ですね」

「違いねェ」


 そんな二人、いや一体と一匹を公園のベンチで眺めつつ綿あめに顔を隠すのは俺と禁書さんである。綿あめは謎の行列に何も考えず並んで得られた結果だ。

 道行く人が蝶のように舞うガイアに足を止める。キャイキャイと叫んで写真を撮り出す女性プレイヤーまで出る始末だ。新アイドル爆誕の瞬間を目撃してしまったかもしれない。


「この後はどのような予定で?」

「特にねェからな、レベル上げと金集めか?」

「それなら一緒にクエストでもどうでしょう。経験値も得られますし、金も報酬が入ります。一石二鳥ってやつですね」


 クエストか。俺が無法者になって受けた職業クエストは少し特殊な例だ。普通のクエストは斡旋所の掲示板や街やそこらの人々からの依頼という形で受けることになる。

 もっとも、職業クエストに限らず、ストーリークエスト、エリアクエスト、と言った次第で他にも特殊な例はあるらしい。


「そうだな、クエストを受けるか」

「ありがとうございます。斡旋所で二人用のものでも探してみますか?」

「そこは任せよう」

「了解です」


 はむはむと減っていく綿菓子はもう顔を隠せないほどに小さくなっている。獣人タイプの口は大きく開くので食べやすいというか一気に頬張ってしまうな。ベロリと口周りの砂糖を舐め回すとあっ、それっぽい、と禁書さんが目を輝かせてこちらを見てきた。何がそれっぽいのか、舌なめずりをする悪役ということか。


「ゴミはどうすんだ? 敵の目ん玉にでもぶっ挿せば良いのか?」

「いやいや出来ませんよそんなこと。ポイ捨てすればそのうち勝手に消えます。まあゴミ箱もありますけど、そこに」

「そうか、〈投擲〉」


 シュッと綿菓子棒の先端を向けてケラケラと遊ぶエンキドゥに投げる。グァ!? と驚いた様子でそれをすばしっこく避けてからギリギリと殺意を込めた眼光をこちらに射返してきた。


「クックッ、ざまァ見やがれ」

「……ギルガメッシュさん」


 禁書さんの哀れっぽい視線と声には気づかないフリをしといた。これは決して、負けた腹いせとかではないのです。決して、な。




 同じ斡旋所に入れるプレイヤーはパーティーのみだ。しかし、食事所や道具屋も併せて突っ込まれたそこには様々に武装したNPCによって賑わいを見せていた。


「はぁん、冒険者ってやつか? 勇ましいねェ」

「本気でそう思ってます?」

「さぁな」


 筋肉ゴリゴリの大剣を担いだ男を傍目に、そんなことを漏らすと禁書さんからの胡乱気な視線が飛んでくる。またもやそれを適当に聞き流して横五メートル程もある巨大な掲示板へと歩を進めた。


「こん中から探すのか? 魔法屋じゃあるまいにしっかりしろや」


 掲示板には隅から隅まで重なるようにして無造作に貼り付けられた紙によって元の姿も分からないほどになっている。


「そんな骨の折れることしませんよ。ここもタップすれば選択画面から絞り込んで依頼を探せます」

「おぉ、流石は禁書さんだ。博識だぜ」

「……これは基本だと思うのですが」


 禁書さんがボソリと呟く。

 バンと掲示板を叩くと禁書さんの言った通りにクエスト画面が現れる。

 クエストの内容は、狩猟(モンスターの間引きや素材の入手)、採集(薬草や鉱石、etc)運搬(手紙、食べ物、などなど)を中心にその他にも様々なものがある。

 それらが推奨レベルでLv5ごとに区切られ、参加可能人数ごとに整然と並べられてる。そこからさらにアイウエオ順などの要素によって絞り込めるようだ。


「……任せた」

「えぇ、しっかりしてくださいよ」


 だからと言ってこの大量のクエストの中から適当なのを選ぶのが面倒なのは変わらない。ここは事務仕事が得意そうな禁書さんに任せて俺は軽食でもつまんでおこう。腹が減ってはなんとやら、と言うしな。


「嬢ちゃん、暇かい?」


 金髪の白を基調とした制服に身を包んだ小店の真面目そうな女性職員へと声をかける。


「ご注文はお決まりですか?」

「ふーん、綺麗な話し相手が欲しいんだが」


 伏し目がちに決まり文句で対応する女性職員をチラリと見ながらと反応を伺ってみるが、どうも芳しくない様子だ。


「申し訳ありませんが、当店ではその様な商品は販売しておりません。こちらのメニューの中からご注文がお決まり次第、お声かけください」

「おうおうもったいぶんなよ、俺の目の前にいるんだがなァ?」


 ニヤリと俺がもうひとつの獣の顔で笑うと受付嬢は恐ろしいほど冷たい目で見返してきた。


「そうですか。では10000000Gになりますがよろしいですか?」

「え? あー、いや、今日は遠慮しておこう」

「ケッ!」


 そそくさと背を向けて撤退を開始した俺に背後から吐き捨てるような嘲笑が飛ぶ。それに加えて受付嬢の目力に引きしぼられた永久凍土の氷の矢が休むことなく射られてゆく。このままではいくら俺が暑いハートの持ち主であるとは言え、情熱の炎も消えてしまうかもしれない。


「おい、なに見てんだ! 手元がお留守だぜ禁書さん!」


 クエストを探すこともなくまじまじとこちらを見つめていた禁書さんとガイアに負け犬の遠吠えをギャンと放つが帰ってくるのは諦めたようなため息である。

 グッ、と水色のワンピースをはためかせながらガイアが形の良いピースサインを作った。


次はクエストになります。

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